日本の原発事故を背景に、ドイツでは反原発を掲げる緑の党が支持率を大きく伸ばしている。世論調査によると、2大政党の1つである社会民主党(SPD)を追い抜き、第2党へと躍り出た。実際、3月のバーデン=ヴュルテンベルク州議会選挙では歴史的勝利を収め、緑の党から初の首相が誕生することになっている。今回は、大躍進している緑の党について見ていこう。
環境政党
緑の党は、平和運動や女性解放運動などが盛んに行われていた1980年、当時の西ドイツで誕生した。緑色にひまわりが描かれているロゴからも分かるように、原発廃止のほか、 遺伝子組み換え作物に反対するなど、環境問題を党の方針としている。また党内に女性比率をいち早く導入し、女性の 社会進出にも取り組んできた。権力が1カ所に集中しないよう、連邦議会議員と党役員の兼任を規制していることも、同党の特徴となっている。
同党は83年に行われた総選挙で、議会入り。85年にはヘッセン州議会で初の政権参加を果たした。しかし東西ドイツ統一直後の90年に行われた総選挙では敗北。他党が統一問題に焦点を合わせていた一方、緑の党はこれまで通り環境問題に集中したことが災いした。その後、東ドイツの「90年連合」と合併して巻き返しを図り、98年にはSPDの連立パートナー として連邦レベルでの政権を担うまでに至った。同連立政権は2005年までの2期におよび、00年には、22年をもって原発を全廃すると決定。大きな足跡を残した。
うなぎのぼりの支持率
しかしキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)の現連立与党は昨秋、一転して原発の稼働期間 延長を決定。緑の党はこの“脱”脱原発政策を厳しく批判していた。福島第1原発事故が発生したのはそんな折。ドイツではそもそも反原発の動きが強かったが、国民の意識はこれ をきっかけにさらに高まり、反原発を訴え続けてきた緑の党の支持率も、同時に急上昇していった。
世論調査機関フォルサ(4月6日発表)によると、緑の党の支持率は28%。SPD(23%)を抜き、メルケル首相率いる CDU・CSU(30%)にも迫る勢いを見せている。逆にFDP は3%にまで低下。現連立与党はこのため過半数を失い、緑の党とSPD(これまでのようにSPDが率いる形ではなく、 緑の党がリードする形)による連立政権が支持された結果になった。
緑の党から連邦首相誕生も?
現に、3月下旬に行われたバーデン=ヴュルテンベルク州 議会選挙でも、緑の党が前回の倍となる24.2%を得票。第3党に交代したSPDと連立し、クレッチュマン氏が同党初の首相になる見通しとなっている。同州はこれまでの58年間、CDUが政権を担ってきた保守的な土地柄。緑の党はそんな州で、政権交代の立役者となったのだ。
© BÜNDNIS 90/DIE GRÜNEN
今年はちょうど、全16州中7州で議会選挙が行われる選挙の年で、首都ベルリンでも9月に市議会選挙が予定されてい る。このまま行けば、緑の党の連邦議会議員団長を務める キューナスト氏が、ヴォーヴェライト現市長(SPD)と交代するというのも、十分に考えられる筋書きだ。また州レベルだけでなく、連邦レベルで緑の党の首相が誕生する可能性 もある。次の総選挙は2013年──。
支持率急上昇が選挙年に、原発事故という特別な状況下で起こったということは、緑の党自身も冷静に受け止めている。周囲で緑の党の首相候補をめぐり憶測が飛び交う中でも、 浮き足立つような議論は行っていない。原発を廃止するのは 良いが、その後の電力供給はどうするのか。代替となる再生 可能エネルギーの拡大はどう促進していくか。原発廃止により不足する電力は、どうやって補っていけば良いのか。メル ケル首相は脱原発へと政策を戻し、さらに早期の原発廃止 を決めた。緑の党にとっても、「これから」こそが大きな課題となっている。
総選挙における緑の党の得票率(%)
※ 薄い色は議員獲得に必要な5%に満たなかった回
党首 クラウディア・ロート(Claudia Roth) 2004年から現職。55歳 © BÜNDNIS 90/DIE GRÜNEN |
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党首 ジェム・エツデミール(Cem Özdemir) ロート氏と共同党首を務める。ドイツ初のトルコ出身党首。45歳 © BÜNDNIS 90/DIE GRÜNEN |
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連邦議会議員団長 レナーテ・キューナスト(Renate Künast) 元消費者保護相(2001~05年)。ベルリン市議会選では次期市長候補として、ヴォーヴェライト現市長に挑む。55歳 © gruene-bundestag.de |
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連邦議会議員団長 ユルゲン・トリティン(Jürgen Trittin) キューナスト氏と共同で連邦議会議長団長を務める。元環境相(1998~2005年)。56歳 © gruene-bundestag.de |
90年連合・緑の党 Bündnis 90/Die Grünen
緑の党の正式名称。1980年に西ドイツで結成された環境政党「緑の党」と、東ドイツの市民運動グループから誕生した「90年連合」が、93年に合併した。ハンブルク市議会ではGAL(Grün-AlternativeListe)と呼ばれる。2009年には4万5000人程度だった党員も、原発事故後は急激に増加、11年4月18日には5万5555人を超えた。<参考文献>
■ Bündnis 90/Die Grünen Bundespartei(wwww.gruene.de)
■ Die Welt „Grüne auf dem Weg zur stärksten Partei“ (07.04.2011)
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