ジャパンダイジェスト

ドイツは “スト共和国”か?

機関士のスト、パイロットのスト、医師のスト──。賃金アップや労働条件の改善を求め、頻繁にストライキが行われているドイツ。ドイツは「ストライキ共和国」だと感じている方も、少なくないのではないだろうか。ところが、統計上はそうでもない。むしろ日本と同様、非常にストが少ない国の1つとなっている。今回は、ドイツのストについて見ていこう。


©Michael Cintula - IG BCE

統計基準の差異

経済協力開発機構(OECD)加盟国を対象にしたケルン・ドイツ経済研究所(IW)の調べによると、ドイツで労働争議により業務が停止した日数は、労働者1000人当たり年間わずか5日(2000~08年の平均値)。スペインの164日、カナダの152日、フランスの102日などに比べ極端に少なく、ドイツより少ないのは、日本などわずか3カ国のみだ(→図表参照)。それにしても、ドイツのストは本当にこんなに少ないのだろうか。

ドイツのスト日数が少ない理由の1つに、そもそも統計の基準が国によって異なることが挙げられる。ドイツでは、雇用者が発表した数字が用いられているが、ほかの多くの国では労働組合が発表した数字、もしくは大きく差が出る両者の数字を考慮したものが使われている。またドイツでは、10人以上の従業員が参加し、1日以上続いたものが、ストとしてカウントされる。そのため国内でよく行われている警告ストのように、数時間で終わるストは、統計に含まれていないのだ。

規制が厳しいスト

もう1つの理由は何と言っても、ドイツでストが厳しく規制されていること。同国でもストは労働者の基本権利だが、ストが行えるのは労働組合だけ。加えて、労働協約(→用語解説)をめぐるストのみに制限されている。だからフランスなどとは違い、労働組合を通さずに個人で行う山猫ストや、政府の決定に抗議するといった政治ストは認められていない。公務員のストも禁じられている。

さらに、労働協約が有効である期間は「平和義務」が課せられ、基本的にストはできないことになっている。期限が切れても、直ちにストには至らず、まずは労働組合が新たな協約に向け、交渉を行う。そしてこの交渉が決裂した場合、労組内でストを行うかどうかの投票が行われ、ストへの支持が75%以上だったら、ようやく決行となる運びだ。労使が再度交渉を行った場合は、投票も再度行う。ドイツではストはあくまでも最終手段となっている。

組合同士での競争

実際にストが決行されれば、生産はストップし、利益は出ないばかりか、損失が出る。労働者はこうして、雇用者に圧力をかけることができるわけだが、一方で雇用者も、工場を閉鎖するといった「ロックアウト」で、ストに対抗することができる。しかしそうなると、労働組合にも大きなダメージが生じてくる。というのは、スト中は給料は支払われないので、労働組合がその分、組合員にスト支援金を支給しているからだ。つまり資金が底をつけば、労組もストを続けることはできなくなる。ストは双方にとってコストが掛かるため、長期化は避けたい。厳しい規制はそのために定められている。

とはいっても最近では、比較的規模の大きい労組から分派した小規模の労働組合がストを決行し、混乱を招くケースが増えている。今春、ドイチェ・バーンと私鉄6社で行われた機関士労働組合(GDL)のストもその一例。これら鉄道会社では、鉄道・交通産業労働組合(EVG)との間で労働協約が結ばれたが、GDLがその協約に不満を示し、独自の労働協定を求めたのだ。EVGの組合員は24万人以上。一方、GDLはわずか2万6000人。このように少数派がそれぞれストを行っていては、統制が取れない。使用者連盟はもちろん、ドイ ツ労働組合総同盟(DGB)もこれを警告、同一事業所内に複数の協約が存在する状態を防ぐよう法規制を求めている。近くにも、厳しいスト規制がさらに強化されることもありそうだ。


2000~08年における労働者1000人当たりのストライキおよび
ロックアウトの年間平均日数

ストライキおよび<br />ロックアウトの年間平均日数
(Quelle: IW Köln)

労働者の利益のため、雇用者側と交渉を行うのが労働組合(Gewerkschaft)。国内最大の全国中央組織は1949年に設立されたドイツ労働組合総同盟(Deutscher Gewerkschaftsbund=DGB)で、現在産業別に以下の8組織が傘下に入っている。組合への加盟は自由。組合員数は年々減少の傾向にある。(*組合員数は2009年時点)

IGM ■IGメタル
金属産業労働組合
組合員数226万3020人
www.igmetall.de
IGM ■ver.di
統一サービス産業労働組合
組合員数213万8200人
www.verdi.de
IGM ■IGメタル
鉱業・化学・エネルギー産業労働組合
組合員数68万7111人
www.igbce.de
IGM ■IG BAU
建築・農業・環境産業労働組合
組合員数32万5421人
www.igbau.de
IGM ■GEW
教育・科学労働組合
組合員数25万8119人
www.gew.de
IGM ■EVG
鉄道・交通産業労働組合
(トランスネットとGDBAが2010年末に合併)
組合員数24万7742人
www.evg-online.org
IGM ■NGG
食糧、外食産業労働組合
組合員数20万4670人
www.ngg.net
IGM ■GdP
警察労働組合
組合員数16万9123人
www.gdp.de
用語解説

労働協約 Tarifvertrag

労働組合と雇用者の労使間で結ばれる、書面上の協約。たいていは産業、地域別に、賃金のほか、労働条件、労働時間、有給休暇など労働に関する権利と義務について取り決められる。ドイツではこれまで、1事業所内に1労働協約(Tarifeinheit)が締結されてきたが、連邦労働裁判所は昨年これを覆し、複数の協約を認める判決を下している。

<参考文献>
■ Institut der deutschen Wirtschaft Köln
■ Bundeszentrale für politische Bildung
■ Die Welt „Streikrepublik Deutschland“ (09.03.2011)
■ Die Tagesschau erklärt die Wirtschaft (Rowohlt)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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