ジャパンダイジェスト

賢く選ぼう、電力会社

自分が契約している電力会社は、どんな電気を取り扱っているのだろうか。ドイツでは反原発の動きとともに、電力源に対する国民の意識が高まり、エコ電力へ乗り換える傾向が強まっている。同国では1998年に電力の自由化が行われており、一般家庭でもサービス内容や価格に応じて、電力供給者を自由に選択できるのだ。今回は電力会社について見直してみよう。

電力会社、比較の意義

地域独占だった電力市場が自由化されて以来、新規電力供給者が次々と参入してきた。その数、現在では900社以上。さらにそれぞれが多種多様な料金コースを設定しており、価格に大きな差が生じている。世帯当たりの人数にもよるが、電力会社やコースの変更により、年間数百ユーロの節約につながることも大いにあり得る。経済的な面からも、定期的に電力会社を見直す価値は十分にある。

福島第1原発の事故後は、経済的な理由だけでなく、電力源に注目して電力会社を見直す人が顕著に増えている。原子力発電には、低価格で安定した電力を供給できる利点があるが、安全面で問題があることから、多くの消費者が安全で環境に優しい再生可能エネルギーによる電力を供給するエコ電力供給事業者にシフトしているのだ。それに再生可能エネルギーが、必ずしも高いというわけではない。実際に比較してみると、よくわかるだろう(→比較例は下枠内の記事を参照)。

エコ電力の拡充が鍵

さて、「我が家もエコ電力に!」と電力会社を変えたとしても、その日からクリーンな電気が自宅に流れてくるというわけではない。電力といっても、原子力、再生可能エネルギー、石炭や天然ガスなどの化石燃料と発電方法は色々あり、国内で供給されている電力はそれらが合わさったものだからだ。では、エコ電力に変える意味は何か。それはエコ電力供給者が消費者から得ている電気代の一部を、再生可能エネルギー発電所の増設に費やしているということ。再生可能エネルギーの需要が増えれば、施設が拡充され、再生可能エネルギーによる発電電力量の割合が高くなることにつながっていく。

ただし、中にはエコ電力コースを提供しながら、再生可能エネルギー施設の拡充には投資していない会社もあるので注意しなければならない。そういったケースは、エコ電力コースの顧客が増えたらその分、“通常”コースの顧客に割り当てる原子力を「数字上」増やすだけで、顧客全体に供給する再生可能エネルギーの割合は、これまでと全く変わっていないのだ。おそらく“通常”コースより料金が高く設定されているだろうが、エコ電力の拡大には貢献していない。

2022年までに原発全廃

シュレーダー前政権の脱原発政策を覆し、原発の稼働期間延長を決めていたメルケル政権もこのほど、2022年までの原発全廃を決めた。17基ある原子炉のうち、福島の原発事故を受けて停止した旧式の7基、および故障で運転を見合わせていた1基の計8基はこのまま閉鎖し、残る9基を古いものから順に廃止していく計画になっている。問題はこれにより、電力不足が生じる可能性があるということ。ドイツは、再生可能エネルギー発電所の増設を急がなくてはならない状況なのだ。

原子力と同様、重要なエネルギー源となっている化学燃料も、資源に限りがあり、また燃やすことで地球温暖化の原因の1つとされている二酸化炭素(CO2)を排出するため、代替エネルギーが必要とされている。ここで求められているのも、再生可能エネルギーだ。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2050年までに世界のエネルギー消費量の77%を再生可能エネルギーでまかなえる可能性があると考えている。ただし、そこまでの道のりは決して容易ではない。主要国としていち早く脱原発を決めたドイツは、世界の手本となれるのか。電力会社を意識して選ぶことも、私たちが貢献できる1つの手段である。

電力会社を見直すといっても、900社もある中からどこを選んで良いものか、わからないという人もいるのではないだろうか。そんな人のために、居住地の郵便番号と年間電力消費量を入力するだけで利用可能な電力会社およびコースが一覧となって表示される比較サイトがあるので、ご安心を。ここではその1つである「Verivox(www.verivox.de)」を使って、実際に比較してみよう。

※下記は、あくまでも一例です。検索結果はコースや料金設定の変更などにより、変わることがあります。

● ハンブルクに住む3人家族・(年間電力消費量4000キロワット時)の場合
基本供給者ヴァッテンファル(電力源:化石燃料70%、原子力5.4%、再生可能エネルギー24.6%)の基本コースが年間964.80ユーロであるのに対し、この地域で得られる最も安いコースは「FlexStrom」社(化石燃料37.6%、原子力27%、再生可能35.4%)の522.20ユーロ。一方、最高値は「Gw Markt Lichtenau」社(化石燃料45.4%、原子力21.1%、再生可能33.4%)の1167.60ユーロで、最安値との差は645.40ユーロに上る。エコ電力供給者でも、最安値の「priostrom」社の場合だと年間619.39ユーロで済む。もちろん、安ければ良いというわけではない。以下の契約内容にも十分留意する必要がある。

1.契約期間および契約期間終了後に自動更新さる契約期間
短期間であるほど、乗り換えなどの際、柔軟に対応できる利点がある。

2.解約予告期間
1と同様、短いほど乗り換えに便利。

3.支払い方法
1年分の前払い制を利用すると割安になるが、例えば電力会社が倒産した場合などは返金されない可能性があるなど、リスクもある。

4.価格保証期間
電気代は上昇する傾向にあるので、価格の据え置きが保証されている場合は有利。

5.エコ電力証明
再生可能エネルギーによる電力を意識的に選択するのなら、どの供給者が実際に再生可能エネルギー発電所の増設に貢献しているのかを見極める必要がある。その際に役に立つのが「TüV」「ok-power Label」「Grüner Strom Label(GSL)」などのエコ電力保証マーク(Gütesiegel)。なお、各種電力比較サイトではエコ電力が保証されている事業者のみを対象にした比較もできるようになっていて便利。
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用語解説

電力の基本供給者 Grundversorger

たいていは公共事業(Stadtwerk)など、その地域の電力供給事業者がその役割を担う。基本供給者は地域住民に電力を供給する義務を負うので、例えば引越し先で、どの電力会社とも契約を結んでいなくても、電気が使えないということはない。基本供給者との初期契約は通常、1カ月単位など短期契約で、電力会社の変更がしやすいようになっている。

<参考文献>
■【図表】ドイツにおける電源別発電電力量(2010 年)Quelle: Agentur für Erneuerbare Energie
■【参考】Verivox(www.verivox.de)“Verbraucher wechseln oft zu nicht nachhaltigem Ökostrom“ (AFP 09.05.2011)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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