ジャパンダイジェスト

ビールの科学三大発明

ビール造りは、19世紀に開花した科学によって劇的に進化しました。経験と勘が頼りだった中世の醸造方法は、科学的な根拠に基づいて合理化され、常時一定の品質を保てるようになったのです。今回は、ビール造りを近代化させた「ビールの科学三大発明」と呼ばれる出来事をご紹介しましょう。

その幕開けとなった発明は、フランスの生化学・細菌学者ルイ・パスツールによる「低温殺菌法(パストリゼーション)」です。パスツールは愛国心が強くドイツが嫌いで、ドイツに対抗意識を燃やし、フランスのワインを改良せんがため、日夜、顕微鏡を睨んでいました。そして、アルコール発酵が酵母の生物活動によるもので、腐敗は雑菌が繁殖して起きるものであることを突き止め、1866年に雑菌の繁殖を防ぐ低温殺菌法を開発しました。低温殺菌法とは、60 ~ 80度の熱を15 ~30分間加えることで雑菌を死滅させるというものです。しかし、この技術は自国よりもドイツで高い評価を得てビールの腐敗防止に応用され、結果としてドイツビールの品質向上につながりました(すみません、パスツールさん)。もっとも、日本ではパスツールの発明より300年以上前から日本酒に「火入れ」として低温殺菌を施していましたが、殺菌効果を科学的に証明し、技法を確立したのはパスツールです。

冷凍機が最初に設置された、ミュンヘンのシュパーテン醸造所
冷凍機が最初に設置された、ミュンヘンのシュパーテン醸造所

2つ目の発明はカール・フォン・リンデによる「アンモニア式冷凍機」です。リンデは、ミュンヘンにあるシュパーテン醸造所のガブリエル・ゼードルマイル2世の協力を得て冷凍機を開発し、1873年に同醸造所にその第1号機を設置しました。当時は冬の間に川から切り出した氷を穴倉に詰めてそこにビールを貯蔵熟成させていました。1キロリットルのビールを造るのに1トンの氷が必要とされていたので、24時間に6トンの氷を造れるこの冷凍機を誰よりも喜んだのはビール醸造所です。この発明により、冷蔵設備を必要とするビールは季節と場所を問わず、どこでも作れるようになり、世界中に広まったのです。

最後は、1883年のエミール・ハンセンによる「酵母純粋培養」です。酵母だけをビールから取り出すことは、それより40年ほど前にゼートルマイル2世と友人のアントン・ドレハーが実施していましたが、その時はまだ不完全なものでした。ハンセンはオランダの生物学者で、当時はデンマークのカールスバーグ醸造所でビールの腐敗の原因を研究していました。彼はパスツールの理論を基に、単一酵母をビールの腐敗の原因となる雑菌から分離、繁殖させることに成功しました。これによって必要な酵母だけを培養し、ほかの雑菌がない状態で麦汁に投入できるようになり、人類はビールの腐敗との戦いに終止符を打ったのです。

ところで、先ほどから登場しているゼードルマイル2世の名に見覚えはありませんか? そう、彼は前々回ご紹介したメルツェンビールの生みの親です。ビール造りを科学的に解明した彼は、近代ビール醸造の中興の祖とも呼ばれています。

 
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