経済協力開発機構(OECD)による世界共通学力テスト「PISA」が実施された後、ドイツでは大学やギムナジウムなどの順位付け、つまり学校ランキングのリスト作成が大流行しました。偏差値による入試難易度ランキングなどは日本人にとってさほど珍しいものではなく、むしろ“空気のように”あって当然と思えるくらい。学校ランキングは、日本の教育界全体を扇動するほど影響力がある"バイブル"のような存在だと思います。しかしドイツでは、大学でさえも教育レベルや難易度をランク付けすることはありませんでした。ドイツには偏差値という概念はなく、また受験もありません。寄宿学校の中にはエリート校も存在しますが、日本のいわゆる"有名校"というのでしょうか、○○学校に入学した子どもを周囲が羨むというような話を聞くことはほとんどありません。
イラスト: © Maki Shimizu
それが、ここのところ少し様子が変わってきています。というのも、PISAによって学力レベルがグローバルに比較されるようになると、今度はドイツ国内で「成績の良い州はどこか? ワースト1位はどこか?」「ギムナジウムの市内ベストランキング」のようなリストが毎週のようにテレビや新聞を賑わすことになったのです。
ランキングといえば、私には苦い思い出があります。私は娘をドイツの公立学校に送ることに決めたとき、自宅周辺の学校情報をなるべくたくさん得ようとしました。学力に関することから、いじめや外国人の数など、ネットで調べたり知人に聞いたり、いろいろ手を尽くしました。そこで気付いたことは、学校を見極める視点がドイツ人ママと私とでは違っているということでした。彼女たちは「あの学校はカトリック系でこちらはプロテスタント系」といった宗教的価値観を重視したり、「夫の出身校だから」と因襲的な判断をしたり。日本人の私は、どうやって娘の学校を、それも私立校とは違い、なかなか内情を掴みにくい現地校の中から選んだらよいものか、途方にくれました。そうした中で私が考えたことは、娘をなるべく"良い"環境に置きたいということでした。しかし、そうした“良い”を判断する基準をドイツの学校に見付けることがまた、とても難しく感じました。そもそも何をもってして“良い”学校なのか、考えるほどに分からなくなります。そして、ランキング上位の学校がその子にとって“良い学校”とは限りませんが、学力など学校の教育レベルに関する(ランキングという)客観的な物差しがないと、 自分の知識や経験のない状況では、学校選択は不安を伴うものです。結局、娘の学校は自宅から一番近いという理由で選んだのでした。
イラスト: © Maki Shimizu
私がこうしたドイツの環境にようやく慣れた頃、学校のランキング・ラッシュの現象に見舞われ、ドイツも“日本化”してしまうのかと複雑な気持ちになったものです。しかし、それから数年が経ち、ランク付けが一般的になってからも、ドイツ人ママたちはそれ自体にあまり重きを置いていないようで、ランキング情報に振り回される親は私の周りには見受けられませんでした。その一方で、我が子を大学に進学させたいという親が急増したように思います。ドイツの大学はどこも、かつてないほどの入学希望者を抱かえるようになりました。ドイツの学校教育は、ランキング上位校を目指すようなシステムにはなっていません。しかし、教育のグローバル化の波を受けてドイツ国民の中に教育面での競争意識が芽生え、この傾向が子育てのあり方にも何らかの影響を与えるようになる気がしてなりません。
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