ドイツの現地校でも、入学前には学校説明会が開催されます。日本では保護者の集まりがほとんど日中に行われるので、集まるのは母親が中心。父親の存在は少数派になってしまいがちですが、ドイツでは仕事をしている人も出席できるよう、夜の時間帯に設定されるので、会合には夫婦連れも多く見られます。私が参加した2度の入学説明会では、いじめのことが話題になりました。学校でいじめがあるのかどうか、発生した場合に学校はどう対応するのか、そんな心配をするのはどの親も同じです。学校側からは、「スクールカウンセラーを待機させている」「上級生を交えて話し合いをする」と、真摯な取り組みを強調する回答が返ってきました。
イラスト: © Maki Shimizu
ところで、いじめ問題に上級生が登場するとはどういうことなのか? 説明会ではいまいちピンとこなかったのですが、娘の学校生活を見守る中で分かってきました。娘の学校では生徒間でもめ事が生じると、真っ先に駆けつける上級生の存在がありました。この上級生は“Streitschlichter”と呼ばれ、“けんかを仲裁する”という仕事を任されています。ドイツでは、この仲裁役を配置する学校が増えてきているようです。
仲裁役には、上級生に限らず、なりたい意志さえあれば、基本的にはどの生徒でもなることができます。数人のグループや委員会のような組織を作って活動することもあるようですが、仲裁役は自分の意見を押し付けたり、権威を振りかざしたりすることはありません。いじめやけんかの当事者の意見や主張を聞いて、一緒に話し合い、解決の道を見付けるサポートをすることが仕事なのです。こうした話し合いが行われている間、教師たちは「子どもだけで解決できるだろう」と信頼をしつつ、また「大人の出る幕ではないよ」という顔もしつつ、静かに見守っているというわけなのです。
イラスト: © Maki Shimizu
しかし、生徒たちのそうした努力だけではどうにも収まらないことも起こります。そんなときには“スクールカウンセラー”が登場します。娘の学校では、「Frau/Herr ○○(○○さん)」と、ほかの教師を呼ぶ際と同じように呼称で呼ばれ、カウンセラーの存在が認知されていました。このカウンセラーは心理学のプロであり、この学校では週に3日、定期的に出勤して相談に応じていました。こちらは専門家ということもあり、仲裁役とは違う立場にいて、手を焼く生徒に対して教師が、「Frau ○○のところに行けって言うよ!!」と怒ることも。生徒たちにとって、スクールカウンセラーの下に送られるということは、仲裁役の生徒との話し合いよりも緊張を強いられる、半強制的な対処法だといっても過言ではありません。
そんなカウンセラーのところへ、私の娘は一度だけ“送られた”ことがありました。それは2人のクラスメートが仲違いしていたときでした。娘としては大親友2人のケンカを仲裁したつもりだったようですが、結果的には3人がゴチャゴチャともめる騒動になったため、“カウンセリング行き”となったのでした。このカウンセリング、放課後にでも行われるのだろうと思っていたのですが、なんと予約制で、しかも授業時間中に行われました。当事者3人とカウンセラーが相談室でお互いの言い分を1時間以上掛けてじっくりと語り合い、それ以来、不仲は解消され始めたのです。やれやれと思っていた数日後、私の手元には娘がカウンセリングを受けたことを知らせる通知書が学校から届いてビックリ。通知が来るほどの大事だったのかと妙に慌てさせられたのでした。
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