ジャパンダイジェスト

Nr. 44 今度は日本の中学校で体験入学

今回も引き続き、受験を控えた子どもの本帰国についてお話しします。

「とにかく日本に帰りたい!」と言い出して聞かない娘の気持ちに対して、とりあえず日本の中学校がどのようなものなのか、自分の目で見てみることが大切だろうと考えて、再び小学生のときと同じように短期的な“体験入学”という形で、実家近くにある都内の公立中学校に通わせることにしました。7月上旬、ドイツの学校の夏休みが始まると同時に日本へ飛び立ち、スーツケースを開ける間も惜しんで中学校に赴きました。中学校の体験入学は、小学校のときのような面談などはなく、学校長に事情を話すとすぐに受け入れてもらえました。日本は夏休みに入る直前でした。

またもや1週間ほどの異文化体験です。実は内心、ドイツでのんびり暮らしていた我が子が日本のハードな中学校生活について行けるはずがないと高をくくっていた私。しかし娘は、思いのほかその“違い”を楽しんだのでした。ドイツの学校にはない朝礼のあいさつが「軍隊みたいでカッコイイ」とか、全生徒で大合唱する校歌の存在に感動したり、自分たちで教室の清掃をする掃除当番など、日本人にとっては当たり前に思える事柄にいちいち驚きつつ、面白いと言います。日本語がほとんど理解できない娘に対して世話を焼いたり、気遣ってくれる生徒や先生の面倒見の良さ(ドイツの先生はどちらかというと放任主義)。そして何より、自己主張をせず、人間関係の中に調和を保とうとするその雰囲気が、このときの娘にとっては、とても心地良いと感じられたようです。

無事に体験入学を終えた後、再びドイツに戻って以前と同じ日常生活が始まりました。一応は娘の願望は満たされたかな? と淡い期待を抱いていましたが、それは見事に裏切られ、娘の帰国熱はさらにヒートアップしていました。ドイツには戻ったものの、彼女は日本の学校に馴染めることを確信したらしく、「1人でも日本に帰る!」の一点張り。「あのときはあなたがお客様だったから、皆親切だったのよ」などと諭してみたところで、もう誰も彼女の気持ちを止めることはできなくなっていました。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu

ところで、なぜあれほどドイツの学校生活に慣れ親しんでいた娘が、急に日本に帰りたいと言い出したのでしょうか。それにはいくつかの理由がありました。特に大きな要因の1つだったのは対人ストレス。ドイツっ子の多くの子がよく口にする「私が一番!」の中にいるのがもうイヤ! と娘は言うのです。確かにドイツの子どもたちは、幼い頃から「私が一番」というフレーズをよく使います。それを目の当たりにしていたときは、そういった態度は幼い子ども特有の顕示欲で、そのうち収まるのだろうと思っていました。ところが、成長するにつれて彼らの自己肯定感はますます増幅していくようでした。たとえテストの出来が悪くても、徒競走でビリになっても、私は一番! と胸を張って生きている。大した根拠がなくてもそこまで自分に自信が持てるとは・・・・・・と感動すら覚えることもありました。

この過剰な自信が、思春期になると明確な競争心となって時に爆発したりします。怒りや不満をむき出しにして、好きではない子に体当たり。それは女の子同士であっても例外ではありません。大人のような体をしていても、心はまだ子どものままで敵対心丸出し。ドイツ人の思春期というのは、ここまで凄まじいのかと、毎日生傷の絶えない娘を見てため息が出ていたのは、まさにドイツでの7年生が始まった頃、そう、娘が日本へ帰りたいと言い出したその年のことでした。

ドイツで子育て&教育相談所
イラスト: © Maki Shimizu


 
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