日本では各地で大雨が続き、異常気象と言われたこの8月、我が娘は1人で大きなリュックを背負い、ドイツ行きの飛行機に乗り込みました。デュッセルドルフ空港に降り立つ先には、かつての懐かしい旧友たちが彼女の到着を首を長くして待っているのです。
娘はドイツへ行くことを心待ちにしていました。ドイツの旧友たちは、娘よりももっと楽しみにしてくれていたようで、指折り数えるように再会を待ちわびていました。彼女たちのツイッターには、「再会まであと何日!」とカウントダウン表示が。その残り日数を横目に見ながら、娘は学校の補講や部活、塾の宿題を抱え、受験を控えた高校3年生らしく、実に多忙なスケジュールをこなしていました。そして、出発日が近付けば近付くほど、「この夏休みが勝負!」などと声を荒げる塾長の言葉を全く無視し、たくさんのお土産を買い込んでリュックに押し込み、娘は約6年ぶりにドイツへ戻ったのでした。“戻る”というよりは、“ドイツへ行く”という心持ちではありましたが。
イラスト: © Maki Shimizu
けれども、実際にドイツの地に降り立ってしまえばスイッチが勝手に作動して、脳は即座にドイツ語モードになったようです。約2週間の滞在を終え、成田空港で私を見付けたときの第一声は「ドイツ、良かった~。また早く帰りたい」と満足そうでした。それを見た私は、どちらの国がこの子にとっての“ホーム”なのだろうと問いつつ、その答えは親ではなく本人自身がこの先見付けていくべきものなのだろう……と、なぜか少しうらやましく思いながら、娘の変化を見つめていました。
ところで、私にとっての関心事といえば、我が娘が現在のドイツに何を感じたのかということ以上に、彼女の旧友たちは今どうしているのかということでした。驚いたことに、私たちの当時の知り合いは、まだそのほとんどが同じ街の近郊に住んでいましたが、かなり多くの夫婦が別居もしくは離婚をしていました。父子家庭となって生活している子どもも少なくなく、両親がすでに次のパートナーを見付け、子どもにとっては新しいパパやママがいるケースも。そんなことは日常茶飯事と言わんばかりに、ドイツ人の子どもたちはたいしたリアクションもせず(中には壮絶なドラマを繰り広げているところもありますが)、その事実を本人たちは冷静に受け止めているようでした。私の喉から出掛かっていた「子どもの心理的負担は問題ないの?」という質問は愚問に思えるほど、夫婦関係が悪くなれば別れるのは当然、という割り切りの良さ。こうした事態に遭遇した旧友たちは、自分の両親が起こした騒動を目の当たりにしたとき、親のことを1人の人間として再認識するチャンスを得ることができたようでした。
イラスト: © Maki Shimizu
さて、その旧友の何人かは、すでに高校を卒業したにもかかわらず、進路が全く決まっていませんでした。「何を勉強したいのかが分からないから、とりあえずアルバイトをする」「世界を旅したい」など、なんだか呑気なことを言っているなと思いつつ、その気持ちは分からないわけでもありません。しかし、そんなセリフを言うのは概してギムナジウムの卒業生で、ほかの学校に進んだ生徒はすでに就職し、自分の収入で車を購入したり、すでに実家を出て恋人と同居していたり、現時点でこれから学生を始めようとしている生徒よりもしっかりとした大人に感じられます。とはいえ、彼らもまだ19歳。どの子も体だけは1人前だけれど、発展途上のど真ん中にいて、まだまだこれからの成長がとても楽しみに思えるのでした。
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