4歳のときから約10年間、我が娘は日本人とほとんど触れ合うことのない緑豊かなドイツの村で、現地密着型の生活を送りました。現地の幼稚園、小学校、ギムナジウムを経て帰国し、東京の公立中学校1年に編入しました。一時期は自分がドイツ人であると信じて疑わなかった娘ですが、思春期になってアイデンティティーを模索するうちに、日本人であることを自覚し、最終的には日本での生活を選びました。
家では日本語ばかりを話していたにもかかわらず、いざ日本の中学校に通ってみると“日本語が通じない帰国子女”であり、それでも先生や生徒たちからは温かく迎えてもらいました。学校の図書室には彼女のためにドイツ語の図書が置かれ、自治体負担の日本語教師が派遣されて、授業中にそばで見守り、補習をしてくれたりしました。このような恵まれた環境の中で、彼女の日本語能力はメキメキと上達し(本人は大好きなJポップをひたすら丸暗記した成果だと主張していますが)、第一志望の高校への入学を果たしました。
イラスト: © Maki Shimizu
高校入試は帰国子女枠で受験しました。海外生活経験者の多い国際色豊かな高校で、「出ない杭は埋もれる」と入学式で校長先生が言った言葉を鵜呑みにし、のびのびと過ごしました。
そして高校3年のこの夏休み、6年ぶりにドイツへ戻り、楽しんで帰って来たその直後に、日本の大学への進学を決めて、さっさと受験を終わらせてしまいました。大学入試には言語技能を生かせる制度もありましたが、彼女は一般の推薦選抜を選びました。ドイツの大学に心が揺れつつも、日本の大学を選択した娘。しかし、視野には大学在学中の海外留学が入っているようです。その希望の留学先はドイツと米国。彼女にとってドイツという国は母国に近い感覚です。また、「世界をもっと見たい」と思う気持ちもあり、それはまだ見ぬ国、米国に向けられているようです。
イラスト: © Maki Shimizu
ところで、帰国子女として帰国する場合、受験への影響が気になるところだと思います。私の場合は日本に戻ってから、あらゆる「帰国子女を持つ親の会」を訪れて情報を収集しました。そこで分かったのは、帰国子女にはいろいろな形があるということです。1年程度しか海外に滞在していない子どものケースや、我が娘のように長期滞在したケース、そして海外で生まれて2つの国のパスポートを持つケースなど、帰国子女と一概に言っても、内実は様々。さらに、海外の学校といっても、日本人学校、現地校、インターナショナルスクールと、学校によって異なる教育が行われているため、帰国子女と一括りにするのは難しいものがあります。
したがって、ここ最近の“帰国生入試”も細分化されていて、例えば、現地校出身者と日本人学校出身者の試験問題を変えたり、「帰国後○年以内の受験は可」というように、帰国子女の“有効期限”を定める傾向があるようです。また、流暢な外国語がほかの日本人生徒の模範になるからとの理由で、帰国子女を積極的に受け入れている私立学校もあります。
帰国子女の外国語保持教育に力を入れているかどうかや、日本語能力を補うサポート体制が整っているかどうかなどをよく見極めて、学校選びをするのが良いかと思います。
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