ジャパンダイジェスト

ドイツ介護保険改革、 第1弾が発動

2015年1月1日、ドイツ介護保険改革の第1弾が始まった。ドイツでも日本でも高齢化が進み、話題になることの多い「介護保険(Pflegeversicherung)」。皆さんはその基本的な内容と改革のポイントをしっかり理解できているだろうか。今回は、ドイツにおける社会保障及び介護保険の成り立ちをひもとき、介護保険改革発動がもたらすメリットとデメリットについて考えてみたい。

ドイツの社会保障制度と介護保険

ドイツで初めて給与を受け取ったとき、まず驚くのが社会保険料の高さだろう。内訳は、健康保険(KV-Beitrag)、老齢年金(RV-Beitrag)、失業保険(AV-Beitrag)、介護保険(PV-Beitrag)。これらの総額は、すべてが公的保険であったとしても、実に給与額の2割以上となる。

ドイツの社会保障制度は、19世紀にプロイセンの政治家ビスマルクが「国民皆保険」の精神に基づき、疾病、労災、老齢障害をカバーする国営社会保険医療制度を確立したことから始まった。初期は一部の低賃金労働者と公務員のみが強制加入対象者であったが、現在は国民の大多数が加入している。

介護保険は、これら歴史ある健康保険・老齢年金・失業保険とは異なり、比較的最近と言える1995年に導入された。要介護者の介護期間の長期化に伴う自治体の財政負担の軽減、そして要介護者を公的扶助対象から保険給付対象へと移行させることが狙いだった。そのため、介護保険は税収を利用せず、加入者によって支払われる保険料のみを財源として運営されている。

介護保険の受給者になり得るのは、医療保険制度に加入している人で、MDK(Medizinischer Dienst der Kassen)により審査され、要介護者と判定された0歳以上のすべての加入者である。認定されると、介護度などに応じて総額の半分の必要経費が現物や現金などで補助される。ちなみに、補助されない半額分は本人か家族の負担となるので、その金額を補うためにプライベート介護保険のオプションに加入する人もいる。また、自己負担分を支払えない場合は、公的補助によりその分をカバーすることができる。

ドイツ介護保険改革でもたらされること

 2014年5月28日に政府が発表した内容によれば、介護保険改革では、2015年と2016年の2度に分けて以下の4点が大きく変更される。

介護度1(認知症なしの場合)の最高支給額
介護度1(認知症なしの場合)の最高支給額

第1に、「要介護者へのケアの強化」である。これは特に、ドイツ全域で2600万人いると言われる要介護者のうち3分の2以上を占める在宅者を対象とするもので、具体的には介護保険の受け取り額が2014年と比べて増額すること、自宅をバリアフリーに改築する際の補助額と特定の介護用消耗品の毎月の補助額が増えることなどである。また、施設で働く介護従事者の人数も増やしていく。

第2に、「要介護者を支える家族などへのケアの強化」である。これは今回の介護保険改革第1弾の目玉であり、介護をする人に余裕を提供することが目的だ。具体的には、ショートステイ、デイケア、ナイトステイが利用しやすくなる(特に認知症患者がいる家庭にメリットが大きい)。認知症と診断された直後で、介護度の認定がされていない段階でもステイサービスを利用でき、急に家族が要介護者となった場合に、10日間まで有給休暇を取得できることなどである。

第3の「介護業務従事者へのケアの強化」では、現在95万人いる介護業務従事者(Pflegekräfte)に加えて、ケア業務従事者(Betreuungskräfte)を新たに配置することで負担を減らすこと、縦割りの組織を解体し、介護サービスのクオリティー重視の組織にすること、介護業務従事者の職業教育を魅力的にし、後継者を育てることなどが挙げられる。

以上3点は、介護保険改革のメリットと言えるが、第4は保険加入者にとってはデメリットとなる「財源の強化」だ。既述の介護保険強化のために、まずは介護保険を増収し、財源を確保しなければならない。つまり保険料が増額されるということである。保険加入者の支払い額は1995年には賃金所得の1パーセントであったが、2015年には2.35パーセント(地域、子どもの有無により異なる)となり、議会で承認されれば2016年にはさらに0.2パーセント増額され、2.55パーセントが保険料として徴収される。

今回の介護保険改革第1弾で改善されるのは、自宅の改築費用、要介護者とその家族に対する補助金の増額、及び介護業務従事者の増加、認知症患者への対応、自宅で介護を行う家族の負担軽減などであり、第2〜4の内容については第2弾として2016年に発動することが決定している。


日本の介護保険についてと双方加入の場合の受給可能性

日本の介護保険制度は、ドイツを参考にして2000年の介護保険法の導入により開始された。しかし、日本の高齢者福祉制度の歴史は古く、1963年の「老人福祉法」にまでさかのぼるが、高齢者のための医療保健支出がかさみ、制度は破たんした。その後、医療費抑制を目的に介護保険制度が新たに創設されたというわけだ。

この経緯を受け、日本の介護保険の財源は税金と保険料が半々である。介護保険受給者は特殊な場合を除き、64歳以上の医療保険加入者であり、受給条件は市町村単位で設定、審査される。保険料も市町村ごとに設定されているが、おおよその平均の保険料と65歳以上の所得で第1号保険料率を計算すると、2014年では約2.5パーセントとなる。

加えて、介護保険受給者がサービスを利用した際には、その1~2割を利用者(応益負担)が支払う必要がある。参考までに、以下にドイツと日本の第1号に当たる介護保険料の推移を示す(日本の場合は65歳以上の平均収入を指標とした)。

ドイツと日本の介護保険率の推移

日独両方の介護保険に加入していた場合

さて、ドイツと日本、両方の介護保険に加入していた場合、双方の介護保険制度を利用できるのだろうか。

ドイツと日本の間には、日独社会保障協定(用語解説参照)が結ばれているが、対象範囲は公的年金保険のみであり、介護保険は対象外。そのため、ドイツに滞在し、就労するすべての日本人はドイツの介護保険料を支払う義務がある。

では、将来ドイツ政府から介護保険を受け取ることはできるのか。ドイツの介護保険を受け取るためには、「支給希望時点からさかのぼる10年のうち2年間、ドイツにて保険料を支払っていれば良い」とされ、国籍は問わない。したがって、「受給する直前の10年のうち2年間ドイツに滞在」しているかどうかがポイントである。

用語解説

日独社会保障協定
Abkommen zwischen Japan und der Bundesrepublik
Deutschland über Soziale Sicherheit

2000年2月1日に発効された「社会保障に関する日本国とドイツ連邦共和国との間の協定」のことである。大まかには、被保険者がドイツで勤労していても、数年で日本に帰る場合には年金の支払い先は継続して日本のみとすることが可能であり、ドイツで二重に支払う必要がない。また、年金受給要件の支払い期間を日独合算することができるというもの。

<参考文献とURL>
www.welt.de "Erste Stufe der Pflegereform beschlossen"(18.10.2014)
www.bmg.bund.de "Pflege"
www.zeit.de
www.zdf.de "Pflegereform ab 2015"(15.12.2014)
■ デュッセルドルフ日本国総領事館「年金関係-日独社会保障協定」
■ 厚生労働省「介護保険財政」
http://allabout.co.jp "ドイツ介護保険は日本とこう違う"(29.11.2008)

今井民子(いまい・たみこ) 気が付けば在独10年以上、日独両企業に勤務した経験を活用しながら尽きることのない好奇心を持って読者の皆さんに分かりやすく面白いニュース追跡を目指しています。日本人らしさを忘れずにドイツで生きていくことが目標です。よろしくお願いいたします。

 
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