ドイツで歯科受診するときの問題点
ドイツで歯科医として仕事をする中で、日本人の方に一番多く聞かれる質問は「日本とドイツで、歯科医療が進んでいるのはどちらか」というものです。歯科医療と一口に言っても、その中身は治療そのものだけではなく、政治や社会制度、地域・民族性など多くの要素が絡んでくるため、明確な答えを出すのは難しいところです。
しかしながら、私が今まで経験してきた日独の医療現場を顧みると、7:3でドイツの勝ちといったところ。だからといって、日本人がドイツの歯科医院で問題なく満足な治療を受けられるかというと、これもまた難しいというのが現実です。
まず多くの方が思い浮かべる言葉の問題。診療予約をする際は、ドイツ語に自信がなくても、友人や同僚に頼むなどの方法があるかと思います。しかし問題は、いざ診療台に座って自身の症状を伝える段階。例えば奥歯に痛みがあって受診をした場合、的確に「この歯が痛い」と分かっていれば良いのですが、「奥歯の辺りが痛いけれど、それがどの歯なのかよく分からない」というケースがほとんどです。奥歯周囲の神経は密になっているため、放散痛といって、上顎の歯が原因であっても下顎まで痛みが広がることがよくあります。また、痛みの原因が詰め物の下にできた虫歯であれば見た目には分かりませんし、強い歯ぎしりが原因であれば、時間や状況によって痛みの有無や強度が毎日のように変化します。
親知らずにできた虫歯。穴は小さく見えるが、虫歯が奥深くに進行している
そのような事情もあり、ドイツ語で「痛いのはこの歯?」「どういうふうに痛むの?」と立て続けに質問されると混乱し、ドイツ語がかなり堪能な方であっても、症状や問題を上手く説明できないことがあります。また実際に診療が始まると、日本で経験してきた歯科治療方針と大きく違っていたり、保険制度の違いも相まって、ドイツで歯科医療不信に陥る方も少なくありません。
さて、そのような苦労をしないための対策ですが、まず来独する前(もしくは一時帰国したとき)に、日本の歯科医院で検診・クリーニングをしてもらい、レントゲン写真を撮ってもらいます。レントゲン写真をデジタル化して持参すると、ドイツの歯科医院で診療を受ける際に参考資料として役立ちます。次に、現在は痛みがなくても、将来的に問題を起こす可能性のある親知らずを日本で抜歯しておくことをお勧めします。親知らずについては当コラム(2015年2月20日発行、第996号)ですでにお話ししましたが、体調を崩したとき、仕事が忙しくて疲れているとき、また飛行機内で気圧を受けたときなど、体調の変化に大きく影響を受けて急に痛みを引き起こすために予防が必要です。
口腔内を大きく診る、パノラマレントゲン写真
以上の点に気を付けるだけでも、ドイツでの歯の問題に対する苦労は減るかと思います。また、歯科医院を受診するときは、1. 歯の痛みの範囲や問題点、2. 痛み始めた時期、3. 痛むときの時間帯やきっかけ、この3点を明確に伝えてください。
歯の治療は、歯科医師といかに上手くコミュニケーションを取れるかが、治療を成功させる鍵。小さな工夫からお口の健康を守って、楽しいドイツ生活を送りましょう。
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