ジャパンダイジェスト

郵便配達や保育園 ストによって圧迫された日常

今年、ドイツ国内で長期にわたって続いたのは、鉄道や航空パイロットのストライキだけではない。日常生活に大変な影響を与えたのが、ドイチェ・ポストの配達人と幼稚園/保育園の職員によるストライキである。約1カ月もの長きにわたり、ドイツの一部地域において郵便が滞り、ドイツ全土で多くの幼稚園/保育園が閉鎖された。これらのストライキはなぜ起こったのだろうか。今一度、考えてみよう。

ドイツの被用者(労働者)の権利「ストライキ」

「パイロットのストライキ」(弊誌第1001号、2015年5月1日発行)でも述べたように、被用者はドイツ連邦共和国基本法第9条「結社の自由」第3項で労働組合によるストライキの権利が認められている(内容は労働協約に限る)。そのため、被用者はより良い労働協約を勝ち取るために、まずは労働協約について争議を行い、解決しない場合にはストライキを行うことが許されている。

ドイチェ・ポストのストライキ

ドイチェ・ポスト株式会社(Deutsche Post AG)の労働組合は、6月8日から徐々にストライキを拡大させていき、その後46日間も続いた。このストライキの最初の引き金となったのは2014年にドイチェ・ポストが子会社DHL Delivery GmbHを設立し、期限付きで2万6000人を雇用したことである。この雇用形態について、労働組合は2015年1月、「外注をしないとした協定」に反する労働協約違反だと批判した。

2015年3月からは、ドイチェ・ポストの被用者が加入する労働組合(ver.di)が主導し、労働争議が始まった。数回の警告ストライキを経て突入した6月8日からの無期限ストライキは、6月29日には3万2000人を数えるまでに規模を拡大。その後、労使双方の話し合いの結果、7月7日に史上もっとも大きな軋轢となったストライキは終結をみた。

ドイチェ・ポストの被用者がストライキで勝ち得たものとは?

解雇からの保護の4年間延長(2019年まで)
手紙や輸送に関して外注しないとする業務の保護規定を3年間延長(2018年まで)
2015年10月1日の400ユーロの一時金の支払いと、段階的な報酬の増加(2016年10月1日に2%、2017年10月1日に1.7%)
研究生と約4500人の期限付き社員の、無期限雇用への移行
子会社DHL Delivery GmbHは存続するが、約7600人の小包配達人はドイチェ・ポストでの雇用を保障される

ストライキが収束した後、数日間は各家庭のポストが一杯になるほど大量の郵便物が届いたことは記憶に新しい。追記情報として、執筆現在の資料によれば、8月から9月まで、ストライキ解除後の郵便職員の残業時間調整のために、月曜日の郵便業務を小包と新聞の配達のみに制限するようだ。

幼稚園・保育園でのストライキ

また、2015年5月8日から幼稚園・保育園の職員によるストライキが無期限で始まった。一時は夏休みまでストライキが継続する可能性も取り沙汰されたが、6月7日からは労働争議調停に入ったことで、調停で結論の出る8月13日まで、幼稚園・保育園の職員が職場に戻ることになった。

ストライキが行われた5月8日から6月7日までの4週間、幼稚園・保育園に通う子どもを持つ両親は、仕事を休んだり、普段の生活を変えるなどして調整しながら、日中を子どもたちと過ごすことになった。一部に「緊急時のために子どもを引き受ける幼稚園・保育園」は用意されたが、限られた枠をめぐって親は奮闘を余儀なくされた。専業主婦や育児休暇などの理由で親が家にいる場合には「緊急には当たらない」として、暗に応募を遠慮するよう促されることもあったという。

教会系・私立の幼稚園・保育園ではストライキに参加しないところもあったため、実際にストライキを行っていたのは総数5万3415園中、約1万7500園。影響を受けた児童数は、約300万人中、180万人ほどに上った。

執筆現在、幼稚園・保育園の職員およびソーシャルワーカーは、所属する労働組合であるver.diとdbb、雇用者側の団体であるVKAとの間の調停者から、以下の内容を提示されている。

1.対象となる業種の給与体系グループを新たに作り直し、給与を2〜4.5%程度上げること

2.この調停案が採用された場合には、2015年7月から最低でも5年間有効とすること

しかし、彼らはこの妥協案について受け入れを拒絶し、再度のストライキ実施の警告を発している。このような労働組合側のかたくなな態度もあり、まだ解決に至ってない。しかし、使用者と雇用者のほかに、社会にはもう1つの当事者である子どもたちや、助けを必要としている人々がいる。彼らのためにも、両者は早期に落としどころを見つける必要があるのではないか。


幼稚園・保育園の教員の資格

ドイツで幼稚園や保育園の教員はどのような教育を受け、どのような待遇で働いているのだろうか。

2014年3月1日付の統計局による「青少年白書」によれば、幼稚園・保育園の全職員は52万7418人である。そのうち「養育者(Erzieher)」が67%の35万4976人、「社会教育アシスタント / 子ども世話人(Sozialpädagogische Assistent / Kinderpfleger)」が11%の6万727人である。残りの22%は学士以上の学位を持つ社会教育担当、特別支援教育担当(用語解説参照)、事務職員、職業訓練中の職員などとされる。ちなみに職員のうち95%が女性であり、また40%がフルタイムで勤務している。

さて、幼稚園・保育園の職員の大部分を占める「養育者」となるには、望ましくは中等学校(Realschule)の卒業資格を持ち、州により多少の差異はあるが、その後3年(フルタイム)から6年(パートタイム)の職業教育を受けて認定されることが必要だ。そしてその給与は、例えば州認定の養育者で8年の経験がある場合、月収2946.46ユーロである。これは電子工学技術者(Elektroniker)の給与と同水準である。ちなみに、今回のストライキで労働組合は、約3400ユーロという月収を要求していた。しかし、現在調停で提案されているのは月収3060ユーロである。

次に、「社会教育アシスタント / 子ども世話人」である。彼らは、基幹学校もしくは中等学校の卒業資格を持った上で、2年もしくは3年間の職業教育を受けて州から認定される(州により多少の差異あり)。給与については、州認定の社会教育アシスタント / 子ども世話人で8年の経験がある場合、給与は2589.68ユーロである。そして、「養育者」の場合と同じように、今回の調停では2651.01ユーロが提案されている。

以上のように幼稚園・保育園の教員になるためには、少なくとも2年以上の専門教育を受ける必要がある。したがって、それなりの待遇があってしかるべきというのが彼らの主張である。

加えて、現在、ドイツでは慢性的に幼稚園・保育園の職員が不足しているといわれる。そのため、子どもたちの将来を担う幼稚園・保育園の職員になることが、若者の職業選択時の「希望」や「夢」となり得るような待遇が必要かもしれない、と、ストライキによる混乱で困惑しながらも、一方では感じている。

用語解説

特別支援教育者
Heilpädagoge/-pädagogin

上記で触れた幼稚園・保育園の職員の統計の中で2番目に多かったその他22%に、この特別支援教育担当者は含まれる。人数としては2万人弱である。彼らは、幼稚園や学校などに勤務し、知的障がい、重複障がい、学校生活に支障がある発達障がいを持つ子どもたちの支援に当たる。彼らも今回のストライキでは、この職業がもっと尊重されるべきと主張している。

<参考>
www. arbeitsagentur.de ドイツ労働局
www.destatis.de ドイツ統計局
www.verdi.de 労働組合ver.di
www.tagesschau.de "Was die Kita-Schlichter vorschlagen" 23.06.2015
www.welt.de "Post stellt montags nur noch Zeitungen und Pakete zu" 11.08.2015

今井民子(いまい・たみこ) 気が付けば在独10年以上、日独両企業に勤務した経験を活用しながら尽きることのない好奇心を持って読者の皆さんに分かりやすく面白いニュース追跡を目指しています。日本人らしさを忘れずにドイツで生きていくことが目標です。よろしくお願いいたします。

 
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