前回のビール小話では、ドナウ河畔の秘境の地にあるヴェルテンブルク修道院付属醸造所をご紹介しました。今回はそれに並ぶ歴史的な修道院付属醸造所「アンデックス修道院付属醸造所」をご紹介しましょう。この修道院が最初に文献に登場するのは1080年、ビールの醸造が始まったのは1455年。ビール造りは脈々と受け継がれており、明治時代の文豪・森鴎外もドイツ留学中の1886年にこの地を訪れています。
修道院とビール。今も生き続ける歴史を飲みに、ビール巡礼の旅へ
アンデックス修道院付属醸造所はミュンヘン市の南西部に位置し、緑と湖に囲まれた「聖なる丘」に建っています。アンデックスへと至る道は今でも南ドイツ最古かつ最大のカトリックの巡礼地です。巡礼地と言っても、ちゃんと公共交通機関が通っています。ミュンヘン中央駅から近距離列車RBで30分程のトゥッツィング(Tutzing)駅でバスに乗り換えて20分。もしくは、Sバーン(S8)で50分のヘアシング(Herrsching)駅からバスで10分。お勧めはヘアシングからのお散歩です。遊歩道にはアンデックスまでの標識が整備されています。木漏れ日の中、小川のせせらぎを聞きながら1時間ほどで到着します。丘の頂上には、高い塔のある礼拝所。吹き抜ける風が汗ばんだ頬を心地よくなでていきます。
中世の修道院では、自給自足をしながら巡礼者をもてなすための様々な施設が設けられ、修道院はそれ自体が一つの村のような機能をもっていました。アンデックスは現在でも礼拝所を中心に、ビール醸造所、ビアガーデン、宿泊施設、家畜小屋、精肉所、薬草園があり、中世の面影を色濃く残した数少ない修道院です。昔の修道院は、知識階級が集まり、様々な文献や研究が継承される場所で、当時の英知が集まったシンクタンクでした。もちろんビールも研究の対象。おいしくないはずがありません。環境に配慮し、今でも伝統的な手法で造られるビールや乳製品、ハムは健康的で味も良いと、週末になるとたくさんの人たちがピクニックにやってきます。
醸造所の外観は、古い木造の倉庫のようにも見えますが、内部はピカピカの醸造機器が並び近代的です。そんな中、壁には十字架が掲げられていて、どんなに機械化が進んでも神様への祈りと感謝と共にビールが造られています。醸造所は見学できますので、ウェブサイトでご確認ください。
見学の後は、カラカラに渇いた喉を潤しにビアガーデンに行きましょう。ビールと料理はセルフサービス。ヘレス、ヴァイツェン、デュンケルが飲めます。中世からの知識と経験の結晶というだけあって、ホップの爽やかさと麦芽のコクのバランスが良い上品な味わい。丘の中腹に張り出したテラスで、のびやかに広がる丘陵を眺めながらの一杯は格別です。森鴎外もこんな素敵な景色を見ながら、このビールを飲んだのかもしれません。歴史に思いを馳せながら、夏のお散歩ビールを楽しんでみては?
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