学校歯科健診の功罪と口腔衛生の重要性 2
前回のコラムでは、日本での学校歯科健診の歴史やその時代背景、また子供の虫歯罹患(りかん)率の変化についてお伝えしました。今回は引き続き、現代における学校歯科健診の問題についての話です。
皆さんは「虫歯」というと、どんな状態の歯をイメージしますか? おそらく多くの人は、咬合面(こうごうめん/歯の食べ物を咬む表面)が変色したり欠けたりした状態を思い浮かべるのではないでしょうか。1990年代までは咬合面から始まる虫歯も多く見かけましたが、もともと咬合面は咀嚼(そしゃく)するときに食べ物が表面を直接圧迫するため自然と汚れが落ちやすいのが特徴です。そのため、口腔衛生の概念が一般的に広まってきた現代では、咬合面だけの虫歯を発見することが少なくなってきました。
一方、今の子供達の虫歯の大元は咬合面ではなく、その多くが歯と歯が隣り合って接触する部分(コントタクトポイント)から発生しています。ところが、このコンタクトポイントの虫歯は学校歯科健診では発見しにくく、それが本来の目的に反して、口腔内の健康維持の弊害となっているのです。学校歯科健診の結果通知票にある虫歯に関する情報は、明らかに問題があれば「虫歯」、また着色や白濁した部分があれば虫歯の初期として「要観察歯」と表記されますが、コンタクトポイントの虫歯があったとしても、発見できなかった場合には歯に異常はないということになります。そのため、実際には虫歯があるにもかかわらず、健全歯と診断されるケースも潜在的に多いと考えられます(2016 年の虫歯罹患率24%という数字は、実際にはもっと多い可能性が高い)。
また、具体的な学校歯科健診の問題は以下のような理由が挙げられます。
(特殊機器がなければコンタクトポイントの虫歯は明確にわからない)
2. 一人当たりの健診時間が非常に短い
(一人当たり1~2分程度)
3. 光量や姿勢の問題で口腔内が見えにくい
4. 口の中が汚れていると虫歯の判断がしにくい
特に乳歯の虫歯は進行が非常に早いため、コンタクトポイントから始まった虫歯でも、気が付いた時にはすでに咬合面にも穴が開き、場合によっては神経に達していることも。そこまで虫歯が進行すると、一目見て虫歯とわかるので歯科医院に行くことになりますが、ほとんどの保護者の方が言われることは「この前の学校歯科健診では虫歯が無かったのに」。正確には学校歯科健診の時にも虫歯はあったのですが、ただそれが「発見されなかった」ということなのです。
コンタクトポイントから始まった虫歯が交合面まで達し、穴が開いた歯
虫歯で溢れていた時代に始まった学校歯科健診は、口腔に問題の多い子供を「ざっくりとふるいにかける」スクリーニング検査なので、子供の口腔衛生を管理して虫歯をしっかり予防するという目的には適していません。それにもかかわらず、現在でも昔からの制度を継続して行っている理由は明らかではありませんが、任意団体の既得権や利益が関連しているとも言われています。
次回は引き続き、子供達がドイツでどのように口腔内を健康に保っているのか、その方法や対策についてお伝えします。
< 前 | 次 > |
---|