歯科診療所が見つからない!?
ドイツで初めての歯科診察のため、地図を片手に迷いながら診療所を探し当てたものの「これが歯科医院なの?」と、あまりに目立たない入口に驚いた経験がある人も多いことでしょう。歯科医院に限らず、ドイツでは主に個人で開業している診療所の多くは医師名を表記しているプレートが小さく、中には個人宅の表札とほとんど変わらないくらいものも珍しくありません。また、入口も普通のアパートの玄関と同じ構造であることが多いため、日本人にとっては「本当に診療所なのか」と不安に感じる要因の一つ。
一方、日本では「この先100m右折」など大きく書かれた看板や電柱広告があったり、歯科医院の前には一目でそれと分かる色鮮やかな診療所名が表示されていて、初めて来院する人でも迷いなく目的地にたどり着けることがほとんどです。
なぜ診療所の表記に日本とドイツでこのような差があるのでしょうか? 今回は社会性や文化の違いから起こる、日独の医療の広告の違いについての話です。
私達の周りには常に広告が溢れており、看板、チラシ、テレビのCM、インターネットなど、生活の中で広告を目にしない日はありません。広告には法律によるさまざまな規制があり、そのルールの範囲内で商品の宣伝が行われているのですが、その中でも日独ともに、医療の分野は一般的な分野とは比較にならないほど厳しい規制がかけられているのです。というのも、医療は人の生命や身体に関わるサービスなので、不当広告によって受ける被害はほかの分野に比べて著しいこと、また専門性・公共性の高いサービスであるため、広告自体が医療という性質に合わないといった理由が挙げられます。
以下がドイツの法律で禁止されている医療分野の広告例の一部です。
● 「今なら○○が3割引き」などのキャンペーン広告
● 治療の価格表示
● 術前、術後の比較写真
● 治療を受けた患者さんの声」など、公正性を確治療を受けた患者さんの声」など、公正性を確認できないもの
● ○○医療センター」「△△アカデミー」など、受け手の誤解を招く表示
日本でも医療分野に対する広告規制はありますが、医療に関して保守的なドイツの方がさらに厳しい規制内容になっています。またインターネットのホームページも広告規制対象になるのですが、ドイツではかなり前から「ネットパトロール」が行われており、違反が発見されれば直ちに通報されるシステムになっています。日本では近年、美容整形外科でホームページでの誇大広告が原因による医療ミスの多発が社会問題になり、ようやく今年に入ってから本格的にインターネット上での規制強化を始めたところです。
さて、広告規制のほかにもう一つ日独で違うところが「景観規制制度」。日本でも近年景観規制が定められる地域が増えてきましたが、30年以上前からドイツでは全国的に建築物や土地の利用方法、都市計画など多くの厳しい基準が定められています。そのため、ドイツでは綺麗な街並みや景観が保全されているわけですが、結果的に「○○歯科医院この先100m先」という看板の設置が簡単には設置できず、また電信柱が少ないドイツでは電柱広告も無いのは当然のこと。そのほかの理由として、ドイツの診療所は普通の集合住宅の中にあることも多いのですが、大きな看板は大家さんが認めないことも理由の一つとして挙げられます。
ただ、広告の規制はもちろん必要なのですが、逆に締め付けが厳しくなるほど情報も受け取りにくくなる(情報量が減る)ため、その基準については医療機関側と行政側にとって常に議論の的になっています。
集合住宅の中にある歯科医院のイメージ
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