日独の歯科医師国家試験について
待ちに待ったクリスマス休暇まであとわずか! 年末年始の休暇はヨーロッパ旅行の計画を立てたり、一時帰国で日本の正月を満喫する予定の人も多いことでしょう。
一方、この季節は日本の受験生にとって世間のクリスマスや正月のお祝いムードとは程遠く、まさに進路を決定する天王山。しかし、笑顔で春を迎えるために必死なのは受験生のみならず、実はこれから歯科医師国家試験を受験する歯医者の卵も、すさまじい試験勉強に明け暮れる季節でもあるのです。
日本で歯科医師になる場合、大学の歯学部で6年間の課程を修了した後、二日間の全国統一歯科医師国家試験に合格する必要があります(2018年度は2月上旬に開催)。虫歯の洪水といわれた昭和50年代までは、歯科医師数を増やすことが急務だったこともあり、国家試験の合格率はほぼ100%。そのため、受験者数=新人歯科医師数となるのが一般的でしたが、その反動で特にこの15年は歯科医師数の過剰傾向が強くなってしまいました。現在は逆に合格者数を減らさなければならない状況となり、今年度は受験者3049人のうち、合格者が1983人と合格率は65%まで低下(医師国家試験の合格率は約90%)。
本来ならば、入口となる歯学部の入学者数を減らすことによって歯科医師数を調整すべきなのですが、歯学部の約6割を占める私立大学では、公立大学のように厚生労働省が介入して簡単に入学定員を削減することができません。そのため国家試験の合格者を減らすことによって、出口で歯科医師数を調整しているのが実情なのですが、ここで大きな問題になってきているのが「不合格者の進路」。不合格者は翌年に再度国家試験を受けることになりますが、今後も国家試験の合格率は抑えられる見込みで、中には何度受験しても合格できない万年浪人生が増加してきます。歯学部の教育は言い方を変えると「歯科医師になることを前提とした職業訓練学校」という性質があるため、大学を卒業しても歯科医師にならなければ「つぶしがきかない」という厳しい現実があります。
一方ドイツでは、日本よりも少し短い5年間の歯学部教育を受けて歯科医師国家試験に挑みます。しかしその試験は日本とは大きく異なり、2カ月間に渡って16科目の教授による口頭試験や臨床試験が行われます。日本の国家試験は厚生労働省による中央管理体制で、試験結果は全国同時に公表されるのですが、ドイツでは各科目の教授が合否判定の権利を持つため、試験が終わる度に結果が言い渡されます。もし不合格だった場合には、3カ月以降に落ちた科目の再試験を受け、全16科目に合格すれば晴れて歯科医師の資格を得ることに(2016年度の合格者数1869人)。また、ドイツの歯学部はほとんどが公立大学なので、定員数を増減することによって柔軟に歯科医師数を調整できるため、基本的に国家試験は合格させることを前提として実施されています。
ところで、ドイツの歯学部は競争率が高く入学が難しいのですが、実はハンガリーの大学で歯科医師の資格を取得してドイツで働くという裏技もあります。歯科医師に限ったことではありませんが、ドイツでは多くの職業資格がEU加盟国内で相互承認されているためこのようなことが可能なのです。「ハンガリー語で勉強するなんて難しいのでは?」と思われるかもしれませんが、わざわざドイツ人の教授や講師を招聘して授業を行っているため、カリキュラムはすべてドイツ語で行われるという待遇の良さ。一方、外国人学生はプライベート扱いのため授業料はかなり高額なのですが、「歯科医師になりたい学生」と「収入を得たい大学」の思惑が一致したWin-Winの関係ともいえそうです。
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