歯科疾患と全身の病気との関係
もし皆さんが手や足に怪我をして、傷口が化膿した状態になったらどうしますか? これが2 ~3日であれば、消毒をして自宅にある薬を塗ったり、絆創膏を貼って様子を見ることでしょう。しかしそのような状態が1週間以上も続くようであれば、腫れや痛みが大きくなるため、病院に行って治療を受けることになります。
化膿はその名の通り、傷口の表面に「膿(うみ)」が出ている状態。膿というのは、傷口に炎症を起こす細菌をやっつけるために戦って壊れた免疫細胞、また死んだ細菌などを含んだ粘りのある液体です。
いったん化膿を引き起こしてしまうと、傷の治りが遅くなるばかりか、周辺の部位に感染が広がります。そのため、化膿した部位を長く放置することは大変危険です。傷口は小さくても身体の状態や細菌の種類によっては、細菌が全身に回り生命を左右する結果になる可能性もあります。
誰もが「すぐ治療しなければ」と思う化膿した状態。しかし、実際には多くの人が化膿またはそれに近い状況にも関わらず、気が付かずに放置しているのです。それは何かというと、口の中の歯周組織(または歯茎)に起こる「歯周病」。歯周病はその多くが30歳以上に発生し、歯茎や歯を支える骨に歯周病菌が感染して起こる慢性疾患です。日本においては45歳以上で約半数が罹患しているといわれ、高齢者の増加や虫歯が減少してきている現代では、歯周病が歯科の中でも最も多くを占める疾患となっています。
歯周病という細菌感染が起こっているにも関わらず、なぜ気にしない人がこれほどまでに多いのでしょうか? その理由として、歯周病はよほど進行するまで痛みがあまり起こらないということが挙げられます。例えば手が化膿してしまうと、傷口の痛みにより日常生活に支障をきたすため、早い段階で「治療しなければ」という認識をすることになります。ところが歯周病は症状が進まない限り自覚症状が少なく、痛くなった時には歯周組織がかなりダメージを受けていることがほとんどです。
歯周病が悪化した状態。歯だけではなく、さまざまな疾患を引き起こす可能性のある
歯周病は定期的なケアが大切になる
さて、一昔前までは「たかが歯茎の病気」と考えられがちだった歯周病ですが、実は近年、歯周病の菌が身体全体に対して予想以上に悪影響を及ぼすことが分かってきました。その影響は高齢者だけではなく、若年者にも発生することが多く報告されており、なんと妊婦の羊水にも歯周病菌が侵入していることが分かってきました。
米ノースカロライナ大学の研究では、歯周病のない妊婦の早産率が6%であるのに対し、歯周病があって妊娠中に悪化した妊婦では43% にまで上昇したとのことです(歯周病によって早産率が7倍に)。
歯周病は定期的な口腔クリーニングや日々のケアによって、比較的簡単に予防や治療ができる疾患です。特に長い海外生活では病気にばかり敏感になってしまいがちですが、簡単にできる「口の中から健康生活」を今からはじめてみませんか?
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