第29回 業務プロセスの文書化
社内業務プロセスのデジタル化が加速的に進展する中、業務プロセスの文書化に対する要請が高まっています。会計情報に関する業務手順の透明化を企業自身が必要とするだけでなく、税務署が税務調査の一環としてこうした文書を要求する事例が増えてきたためです。
今回は、業務プロセス文書化(Verfahrens-dokumentation)について概要をまとめました。
1)業務プロセス文書化の原則
2014年11月、連邦財務省はある書面の中で、帳簿の電子化、各種記録と書類の適切な作成と保存、データアクセスの原則などと並び、業務プロセスの文書化を取り上げました。今日では、電子レジスターや請求書作成ソフトといったデータ加工システムの利用、在庫管理の電子化やペーパーレス化、またレジと帳簿など複数の会計システム間のインターフェースなどにより、税務署が加工後のデータを検証することが難しくなっています。さまざまなデータ加工システムの利用と、そのプロセスを把握するため、税務署がこうした手続きの文書化を求める傾向が強まっているのです。
2)業務プロセス文書化における法的義務
業務プロセスの文書化について、明確な義務はありません。義務があるとすれば、それはむしろ関連法規に照らして導き出されるものです。
たとえば商法238条では、帳簿記帳について、その分野に通じた第三者が、それほど時間をかけずに取引内容や企業の財務状態を把握できる形で作成しなければならない、としています。ドイツ税制の原則である租税通則法では、145条で上記の商法を補足し、取引行為の発生と経過を第三者が確認できるようにすること、と記述しています。
従来、税務調査官は、紙の会計書類をチェックして収支を確認したり、逆に収支結果から元の書類を確認したりすることができました。今日ではデータ加工システムの利用と自動処理の増加により、紙の書類を確認できなくなったため、税務調査もデータ加工システムに対する調査という形に移行しつつあります。
租税通則法147条によると、納税義務者はデータ化された書類を常に閲覧できる形で保存し(5項)、そのデータを常に確認できる状態にしておく義務があります(6項)。これにより税務署は、データ加工システムを電子的に読み取る権限を与えられています。帳簿を適正に記帳する目的で、どのように各種システムが使われたかを確認するため、各レジシステム、商品管理システム、書類管理システムなどについての業務プロセス文書が必要になるのです。
ただ、税務署も言及しているように、業務プロセス文書がなくても、税務検査が可能であり、取引内容の確認ができれば、会計内容の検証が不可能であると非難されることはありません。 とはいえ、こうした文書があれば、税務調査の際に納税者に有利な展開になると言えるでしょう。
3)業務プロセス文書で求められる項目と内容
業務プロセスの文書化に関して法的義務はなく、文書をどのように構成するかの定義も存在しません。
税務署は独自の定義を公表しています。それによると業務プロセスの文書化とは、データ加工システムに関して望ましいとされる組織上、また技術上のプロセスの記述です。文書化においては電子化プロセスにおける業務の内容、構成、手順、結果が100%論理的に明記されている必要があります。
文書の一例を挙げましょう。まず、その文書の記載情報がどのように発生したかに始まり、索引、加工、保存などの各手順について明記し、さらには保存場所をすぐに確定できること、データ閲覧による内容の検証が可能であること、文書の紛失や改ざんの防止策、そしてデータ複製のルールといった項目に至るまでの説明をまとめます。
これと並んで重視されるのは、文書化したプロセスが検証可能であることを保証する内部統制システムの存在です。たとえば、社員による文書アクセスと閲覧に対するチェック、業務プロセス文書の作成、承認、加工など各段階でのチェックがこれにあたります。また、プログラム、データ、文書の故意または過失による改ざんに対する予防措置も講じる必要があります。
3)まとめ
業務プロセスの文書化が明確な義務ではないとはいえ、このテーマに前向きに取り組み、重要性を意識することには意味があります。万一、税務調査が入った場合には、第三者が見て即座に社内の業務プロセスを理解できることが、税務署から信頼を勝ち取るための大きなメリットになるからです。それがあれば、貴社がデータ加工システムを終始、適正に導入したことを証明できます。
業務プロセス文書化の内容、規模などについて、当社では喜んで皆様のご相談を承っています。
(筆者:税理士ファブリス・ベーナー)
リンケ・トロイハント会計税理事務所
ジャパンデスク
担当:田中
www.rinke-japan.de
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