ドイツ人の友人に自分の事前指示書の存在を知らせる方法を尋ねたら、緊急時に使える携帯カードがあると言われました。あまり聞いたことがないのですが、どのようなものなのか教えてください。
Point
- 「緊急連絡カード(Notfallausweis)」は、医療上の緊急時に役立つ情報を記載したメモ
- 緊急連絡カードの形式、書式は自由
- 記載内容例:緊急時連絡先、掛かりつけ医の氏名、事前(医療)指示書、治療中の病名、薬剤アレルギーの有無、後見人の有無、救命のための心肺蘇生を希望するか……など
救急・救命医療をサポート
● 「ノートファール・アウスヴァイス」Notfallausweis
直訳すると、緊急時(Notfall)の身分証明書(Ausweis)で、「医療上の救急時のために必要情報を記したメモ」のことです。多くは名刺大の大きさで、財布の中などに入れて携帯することを目的とします。名称はさまざまで、緊急時ID、メディカルID、救急IDと呼ばれることもあります。
チェックするだけで作成できる緊急連絡カード(フランクフルトの例)
● どのようなときに役立ちますか?
交通事故(Autounfall、Verkehrsunfall)や不測の急病で、救急外来(Notfallambulanz)や救急車(Rettungswagen)で救急処置を行う際に役立ちます。
● 自分でプリントアウトして使えます
身分証明書(Ausweis)といっても公的機関の証明書ではなく、形式、書式は自由です。そのため、各都市や地域で作ったもの、個人で作成したものなど多くの例があります。インターネットで「Notfallausweis」と検索し、自分が使いやすそうなものをダウンロードし印刷して用いるのもおすすめです。
● 患者カードとの違い
日本にも「喘息患者カード」や「糖尿病患者カード」など、病気や特殊な治療薬ごとの携帯用カードがありますが、緊急連絡カードは健康な人でも用いることができるのが特徴です。
緊急連絡カードで必要な事項
• 本人の氏名、生年月日、住所
• 緊急時連絡先(氏名、電話番号)
• 掛かりつけ医の氏名(いれば)
• 事前(医療)指示書の有無
• 重要な病気(あれば)
● 緊急時の連絡先、掛かりつけ医
いざというときの連絡先(家族や友人の氏名、電話番号)を日頃から携帯しておくことは大切です。医療施設から連絡を受けることになりますので、ドイツ語あるいは英語で話せる人を選んでおくことがベスト。自分の掛かりつけ医(家庭医、Hausarzt/-ärztin)も記しておくと良いでしょう。
● 事前(医療)指示書の有無(後述)
医療上の事前指示書(Patientenverfügung、本誌1065号参照)を作成してあるか、万が一意思の疎通ができなくなった場合の後見人を定めているか(後述)を記載しておきます。
● 服用中の薬や薬剤アレルギーの有無
現在治療中の病気(Krankheit/気管支喘息、高血圧、糖尿病、心臓病など)、服用している薬剤(Medikament、Arzneimittel)、薬剤過敏性アレルギー(Arzneimittelallergie)の有無などを記載します。
● 心肺蘇生(Wiederbelebung)を希望するか?
いざというときに心肺蘇生など、どのような救命処置を望むか、チェックを入れて示せるようになった緊急連絡カードもあります。
事前指示書の有無を伝える
● 大切な事前指示書(Patientenverfügung)の役割
万が一自ら判断する能力を失った状況に陥り、医療行為に対し自らの意向を伝えられなくなったときのために、前もって治療の方向性(救命処置を望むか、延命治療を望まないかなど)の意思表示をしておくもので、ドイツでは法的に効力のある文書です。
● どうやって事前指示書の存在を示すか
仮に事前指示書を作成していたとしても、いざというときにその存在を知らせる手立てがないと困ります。「緊急連絡カード」では、事前指示書があるか否かの欄にチェックを入れる形で、その存在を簡単に示すことができます。
後見人や任意代理契約の有無を示せる
● 法定後見人と任意代理契約について
ドイツでは自分の判断能力が失われたり病気や事故で意思表示がきなくなった場合には、裁判所で決める法定後見人(Gesetzlicher Betreuer)が健康や住居の問題を管理をすることになります。しかし、前もって信頼する人と契約(Vorsorgevollmacht)を交わし、自身が判断能力を失ったときに自分の意思を代行してもらえる代理人を選んでおくことができます(本誌 944号参照)
● どうやって任意代理契約の存在を示すか
例えば委任代理契約を結んでいる人がいる場合には、その欄にチェックを入れておくことで示すことができます。治療上の判断を必要とする際に、早めに代理人と連絡を取ることができます。
臓器提供の意思を示せる
● ほかの患者への臓器提供の現状
腎臓などの臓器移植(Organtransplantation)は、臓器不全に陥った場合の大切な治療法の1つです。亡くなられた方からの臓器提供件数は、ドイツでは人口100万人当たり11.5件で、日本の0.9件の約10倍です(臓器移植・臓器提供国際登録機関の2019年3月の報告書より)。
● どうやって臓器提供の意思を示すのか
交通事故などで救急搬送されたものの、万が一不幸にも亡くなられた場合、臓器提供の意思が確認できていれば、臓器を必要とするほかの患者に提供することができます。臓器提供意思表示カード(ドナーカード、Spenderkarte)や事前指示書に、その旨を記載しておくこともできます。
緊急連絡カードのQ&A
● 特にどのような人に必要ですか?
事前指示書を作成してある人、老若を問わず一人暮らしの人、心肺蘇生などの救命処置を望まない人、薬剤アレルギーがある人、治療上知らせておくべき基礎疾患がある人。
特に携帯が望ましい人
• 特別な基礎疾患や治療中
• 事前(医療)指示書を作成した人
• 日常的に長距離運転が多い人
• 出張、旅行が多い人
• 一人暮らしの人
• 高齢者
● 小児用の緊急連絡カードもありますか?
大人用だけではなく、いざというときの連絡先を記載した子ども用のカードもあります。特にお子さんだけで出かけることが多い場合は、作成をおすすめします。
子ども用の緊急連絡カード(Nord-Ostsee Sparkasseの例)
● 法的な効力はありますか?
カード自体に法的な効力はありませんが、法的に有効な事前指示書や任意代理契約の存在を医療機関に伝えることができます。
● 誰が記載しますか?
多くのものは自分で記載できるようにできています。なかには、治療を行っている自分の掛かりつけの医師に記載してもらう形式のものもあります。