有名なプロテニス選手が小麦を使った食事を減らして、試合成績が良くなったという話を聞いたことがあります。ドイツでは小麦を使用した食品が多いですが、体にあまり良くないのでしょうか? また、グルテン(小麦)フリー食はダイエットにも役立ちますか?
Point
- 小麦アレルギーは、抗原抗体反応で発症
- セリアック病は自己免疫性疾患
- グルテン過敏症・耐性症の原因は不明
- 3疾患ともグルテン制限で症状改善
- グルテン制限は健康食、減量食ではありません
- お米はグルテンフリーです
小麦と関連する病気
食物アレルギーの症状
皮ふ | じん麻疹、かゆみ、発赤 |
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呼吸器 | ゼーゼー感 |
口・目・鼻・のど | 口の違和感、かゆみ・目の充血、鼻水 |
消化器 | 腹痛、下痢 |
循環器 | どうき、血圧低下、ショック |
● 小麦アレルギー Weizenallergie
小麦(Weizen)の摂取による抗原抗体反応(免疫反応)により、じん麻疹(Nesselsucht、Urtikaria)や下痢(Durchfall)を生じる、食物アレルギー(Nahrungsmittelallergie)のことです。小麦を食べた後に運動することによって発症する、運動誘発性アレルギーもあります。
● セリアック病 Zöliakie
聞き慣れない病名ですが、小麦に含まれるグルテンによって生じた自己抗体により、自身の小腸粘膜にダメージを与える、自己免疫性疾患(Autoimmunkrankheit)です。
● 非セリアック・グルテン過敏症 NCGS
上記のいずれでもなく、小麦を食べて生じる消化器症状と日常の疲労感、集中力低下がグルテンを制限することにより改善する比較的新しい病態です。英語でnon-celiac gluten sensitivity(NCGS)、日本ではグルテン過敏(症)、グルテン不耐(症)とも呼ばれています。
小麦の食物アレルギー
● 原因は小麦に含まれるタンパク成分
小麦に含まれるグルテン(及びαアミラーゼ阻害酵素)がアレルギーを引き起こす物質、アレルゲン(Allergen)です。大麦やライ麦には小麦のグルテンに非常に似た成分が含まれ、小麦のグルテンと交差抗原性よりアレルギーを生じることがあります。
● 小麦アレルギーの診断
食事内容と症状を記載した食物日誌、血中の小麦に対する特異IgE抗体検査、または、皮ふテストを行います。さらに小麦類を1〜2週間完全に除去する食物除去試験や、専門医による食物経口負荷試験が行われることがあります。
● 治療と緊急時への対応
原因となる食物である小麦の除去が治療の基本です。抗ヒスタミン薬などの薬物は補助治療になります。誤食時の即時型食物アレルギー症状への緊急対応として、エピペン®(ショックを防ぐためのアドレナリン自己注射薬)の準備が有用です。
食後の運動で誘発される小麦アレルギー
● アナフィラキシーに注意
全身に及ぶ急速で重篤なアレルギー反応をアナフィラキシー、さらに循環器系への影響から血圧が低下した状態をアナフィラキシーショックと言います。小麦やエビ・カニなどは、「食物依存性運動誘発性アナフィラキシー」を引き起こす代表的な原因食物です。
● 生活上の注意点
運動誘発性アレルギーと診断されている場合には、ケーキなど小麦の入ったものを口にしたら食後数時間(多くは2時間以内で発症)は運動しない、または運動する前には小麦を取らないようにしましょう。緊急時のための抗ヒスタミン薬やエピペン®の携帯も大切です。
セリアック病(Zöliakie)
● 欧米人に多い病気
欧米では約100人に1人にみられますが、日本人では比較的まれです。血清の免疫学的検査と十二指腸粘膜の組織検査で診断されます。小腸の炎症で栄養吸収が障害され栄養不良をていしていることがあります。
● 治療と日常生活の注意
少量のグルテン摂取でも病状の悪化がみられるため、小麦、大麦、ライ麦を含まないグルテン除去食(Glutenfreie Ernährung)を摂ります。栄養障害があれば必要なビタミン類や栄養素の補給が行われます。
グルテン過敏、グルテン不耐
●「非セリアック・グルテン過敏症」の診断は?
小麦アレルギーやセリアック病、その他の消化器疾患を除外した上で、小麦(グルテン)を含む食事を2〜3週間控えることにより、多彩な症状が消失すれば、非セリアック・グルテン過敏症の可能性があります。
● 過敏性腸症候群との関係
過敏性腸炎症候群(IBS)の中には、小麦摂取で症状が悪化する患者もいます。そのため、グルテン過敏とIBSの一部との重複が推測されています。
● どこまでがグルテンによるものか分かっていません
体調不良をすべてグルテンが原因とするような記載もあれば、この疾患自体を疑問視する専門家もいます。報告されている有病率が0.5〜13%と幅があるのもそのためで(2015年の医学誌「Aliment Pharmacol Ther」総括論文より)、実際の有病率は分かっていません。
グルテン関連障害の食事療法
● 小麦(グルテン)摂取の制限
小麦(グルテン)が入った食品を食べないようにします。加工食品では包装の成分表で小麦(グルテン)、大麦やライ麦(グルテンに似た成分)が含まれていないかを確認しましょう。
グルテンに関係するドイツ語
グルテン | Gluten |
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グルテンフリー | Glutenfrei |
小麦 | Weizen |
大麦* | Gerste |
ライ麦* | Roggen |
* 大麦とライ麦は小麦アレルギーに似た反応を引き起こすことがあります
● 日本での食品表示での注意
日本では、小麦は特定原材料7品目の一つとして食品表示が義務付けられています(消費者庁の資料より)。しかし、小麦との交差抗原性が指摘されている大麦、ライ麦の表示はなされません。
● ドイツ、EUの食品表示での注意
食品の成分リスト(Zutaten)にアレルギーの原因となる小麦(Weizen)、大麦(Gerste)、ライ麦(Roggen)、オート麦(Hafer)など、個別の穀類の表記が太字で強調されて記載されています(EU規則 1169/2011付属書 IIより)。
製品リストの例(日本の冷凍餃子)
Produktname | GYOZA |
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Zutaten | …, Sojabohnen, Sesamöl, … |
* アレルギー成分は太字で強調されて記載される
● グルテンフリー食品 Glutenfreie Lebensmittel、-Produkte
EU圏ではグルテン含有量が20ppm(20mg/kg)未満のものをグルテンフリーと定義しています。ドイツのスーパーマーケットでは、グルテンフリーのクッキーからビール(Glutenfrei Bier)まで豊富にそろいます(例えば「REWE frei von」シリーズなど)。また、グルテンフリーやラクトースフリー(乳糖を含まない)の冷凍食材の宅配サービスもあります(Bofrost®など)。
● レストランで
小麦はいろいろな料理に使われています。対応可能なレストランでは、小麦(グルテン)アレルギーがあることを必ず伝えてください。
グルテン制限での留意点
● 多い誤解
グルテン制限は、いわゆる「健康食」や「減量食」ではありません。小麦による障害を抱えていない人は、あえてグルテンフリー食にする必要はありません。
● 商品の栄養組成や価格
同じ加工食品でも通常品とグルテンフリーでは、栄養組成やカロリーが異なっています(2018年医学雑誌 「Nutrients」の総説論文より)。グルテンフリーの方が糖分、カロリー量、塩分が幾分多く、価格も割高のよう(2015年の米国のコンシューマー・レポート誌)。