ジャパンダイジェスト

さまざまな原因で起こるめまい

朝、歯を磨き始めると急にクラクラすることがあります。日本の病院で「持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)」ではないかと言われましたが、初めて聞いた病名で、どういう疾患なのかよく分かりません。

Point

  • めまいは平衡感覚の障害
  • 回転性と浮動性がある
  • PPPDは平衡感覚の過剰適応
  • 立位での体動や視覚刺激が誘因に
  • 前庭リハビリ、薬物、認知行動療法が有効

めまい(Schwindel)とは

● めまい「目眩、眩暈」の言葉

「外界が動揺、あるいは回転しているような感覚を生じる場合の総称」(日本国語大辞典、小学館)で、語源は「目舞(めまひ)」とされます(大言海、冨山房)。会話の中では、受けた印象が強烈、目のくらむような、の意味でも用いられます。

● 回転性めまい、浮動性めまい、立ちくらみ

自分や周囲が動いているような、一方に引っ張られるような感覚を「回転性めまい(英語でvertigo)」、頭がクラクラする、ふわふわと浮いたような感じは「浮動性めまい(英語でdizziness)」。どちらも日本語では「めまい」、ドイツ語では「Schwindel」と表現されます。立った瞬間にクラッとしたり、立っていて目の前が暗くなるのが「立ちくらみ(schwarz vor den Augen)」です。

めまいの種類

種類 回転性めまい 浮動性めまい 立ちくらみ
タイプ 自分や周囲が動いている 浮いた感じ、クラクラする 立上がった時にフラッとする
障害の部位・症状 耳(内耳)、脳 心因性、脳 貧血、低血圧、脱水

● めまいの頻度

日本人のめまいの有訴者率(人口1000人当たり)は女性30、男性13で、男女とも年齢と共に増加します(平成28年度国民生活基礎調査)。一方ドイツでは、めまいが原因で一度でも受診したことのある人の割合が全体の20〜30%にも上ります(2008年のドイツの週刊医学専門誌 Dtsch Arzteblの記事)。

● 平衡感覚の乱れ(Gleichgewichtsstörungen)

私たちは動いている時や重力に対して傾いた状態にある時、①目、②耳(前庭器官)、③体からの情報(体性深部感覚)を瞬時に捉え、その信号を小脳で統合して体の空間位置を把握しています。これらの信号のバランスが崩れた時にめまいを生じます。

めまいのさまざまな原因

● 貧血(Anämie)

貧血で立ちくらみ、だるさ、疲れやすさがみられることがあります。特に若い女性では徐々に生じた鉄欠乏性貧血に留意が必要です。

● 低血圧(Hypotonie)

低血圧(収縮期血圧100mmHg以下)は、早朝の立ちくらみの原因になるほか、入浴後や暑い日は血管拡張と汗によって血圧がさらに下がり、めまいを生じます。ドイツでも夏は脱水予防のため飲水への配慮が必要です。

● 耳からのめまい

回転性めまいは、耳の前ぜんてい庭(Vestibulum)機能の障害と関係します。例えば、メニエール病(Menière-Krankheit)、良性発作性頭位めまい、BPPV(後述)などが挙げられます。

● 目からのめまい

眼鏡補正が強すぎたり、左右の補正視力が極端に違う場合、また長時間のコンピューター作業から生じる疲れ目(さらに首こり、肩こり)もめまいの原因になります。

● 首からのめまい

筋緊張性頭痛や頚けいつい椎の障害からくる頚性めまいは、首を回したり、伸ばした時に生じます(日本平衡神経学会 1987年)。加齢と共に増加し、若い人ではデスクワーク、壮年以降では庭仕事など前かがみの労作、高齢者では上向きに寝そべってテレビを視聴するなどで生じることが多くなっています(2016年の日農医誌の論文)。

● 治療薬が原因のことも

降圧剤や前立腺治療薬のα1ブロッカーによる血圧の下がり過ぎ、もしくは睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、パーキンソン病の治療薬の副作用としてめまいがみられることがあります。

● 心の病としてのめまい?

診断の付かない時に「心因性では?」と疑われることがあります。過大なストレス、軽いうつ状況からめまいがみられることもあり、頻繁なめまいが逆に強いストレスとして作用している場合も。その診断は慎重に行われるべきものです。

今まで原因不明だっためまい

● PPPDは機能性のめまい

「持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)」とは、2017年に新しく確立された慢性の機能性めまいです(2017年のJ Vestibular Res誌)。発症のきっかけはさまざまな原因による急性めまい、これらが治った後に続発してみられます。今まで原因不明とされてきた多くのめまいがこれに含まれます。

めまいの原因の内訳
めまいの原因の内訳

● PPPDの原因

最初の急性めまいに対して体が適応し、平衡感覚のバランスがシフトしたままの状態となり、急性めまいが治った後も視覚や体動に対して過剰に反応し続けるためと考えられています。

● PPPDの症状

①3カ月以上にわたる自覚的なめまい、②何らかの急性めまいが先行して発症、③立位、体の動き、視覚(動いているものや複雑な模様)刺激の状況で増悪しやすい、などの特徴があります。

● PPPDの頻度

良性発作性頭位めまい(後述)に次いで、多くみられるめまいです。ドイツではめまい患者の15〜20%がPPPDと考えられています(2019年のDeximedの記事)。日本でも同様で、新潟大学のめまい外来では慢性の持続性めまい患者の23%がPPPDと診断されました(2018年の日経メディカル誌)。

● PPPDの診断

貧血、低血圧、神経学的異常など、ほかの病気では説明できず、先述の①〜③と一致する場合には強く疑われます。特に検査方法はありません。

● PPPDの治療法

患者による病態の背景の理解が大切です。目・頭・体の一定の動きを繰り返す「前庭リハビリ」と呼ばれる理学療法(Physiotherapie)を基本に、必要に応じてSSRI薬などを用いる薬物療法(2018年のNeurol Opthalmol Otol誌の論文)や認知行動療法が併用されます。PPPDは心の病とは独立しためまいですが、不安や苦痛が大きく、臨床心理士(klinische Psychologin/klinischer Psychologe)との連携も時として大切です。

そのほかのめまい

● 最も多い「良性発作性頭位めまい(BPPV)」

BPPV(paroxysmaler Lagerungsschwindel)は、寝返りなど頭の位置の変化でみられ、1〜2分の短時間で治まる回転性めまいです。三半規管の耳石の一部が剥がれ、浮遊して起こります。めまいを繰り返すことにより、症状が良くなります。最も頻度の高いめまいで、めまい患者全体の40〜50%を占めます。

● 脳血管障害によるめまい

平衡感覚の神経経路である小脳や脳幹の微小脳梗塞(2011年の臨床神経学誌)や栄養血管の椎骨脳底動脈循環不全でもめまいが起こります。アルコールを飲みすぎてフラフラと平衡感覚がにぶくなるのは、小脳機能の低下によるものです。

● 起立性低血圧によるめまい

立ち上がって収縮期血圧が20mmHg以上低下する場合を「起立性低血圧」と呼び、自律神経系の機能障害を伴う糖尿病患者などでよくみられます。自律神経の機能調節がまだ不十分な10〜16歳の子どもでは、「起立性調節障害(OD)」がみられることも。

● 脳脊髄液減少症とめまい

むちうち損傷などの交通事故、スポーツ外傷、尻もちなどに起因し、脳脊髄液が漏出して起こります。起立時の頭痛、めまい、頚部痛、耳鳴りなどの多彩な症状がみられます。

● 高所恐怖症のめまい

ヒッチコック監督の映画「めまい」のように、高所恐怖症により自分が置かれていた空間認識障害で生じるめまいです。目を閉じると改善しますが、もし落ちたらと想像する恐怖心が症状を強めます。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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