左の乳房にしこりのようなものがあります。母が乳がんの手術を受けていることもあり、乳がんではないかと心配です。どのような検査を受けたら良いでしょうか?
Point
- 日本人女性の12人に1人が乳がんに罹患。
- 日本人女性の乳がん罹患率のピークは欧米人より若い。
- 早期に見つかった乳がんほど、生命予後が良い。
- 乳がん検診: 触診、マンモグラフィー、乳房超音波。
- 精密検査: 乳房の造影MRI、細胞診、組織診。
乳がんの基礎知識
●女性の12人に1人
乳がん(Brustkrebs、Mammakarzinom)は、乳腺(Milchdrüse)にできる悪性腫瘍です。日本人女性が一生のうちに乳がんに罹患する確率は9%(がん研究振興財団「がんの統計 2014」より)と高く、女性のがん全体の20%を占めています。乳がんで亡くなる女性は、2013年には年間1万3000人を超え、40代女性ががんで死亡する場合の最大の原因となっています。
●30代から要注意
乳がんは、ほかのがんよりも若い世代に多くみられる病気です。日本の集計によると、30代から増えはじめ、罹患率は40代と60代がピークです。欧米の女性と比べると、日本人女性の乳がん罹患率のピークは、かなり若いことが特徴です。
●早期発見が大切
腫瘍がまだ小さく、リンパ節転移のない段階で見つかった乳がんを、「早期乳がん」と呼びます。早期乳がんの5年生存率をみると、0期でほぼ100%、1期で約90%と、周囲への浸潤やがんの転移がみられる「進行乳がん」と比べてはるかに良好です。早期発見ができれば命にかかわる病気ではなく、乳がん検診が大切なのはこのためです。
●5~10mm大のしこりでも検査を
良性でも悪性でも、乳房の腫瘍が5~10mm大になると、しこり(Knoten、Steif)として触れるようになります。「しこり= 乳がん」ではありませんが、しこりの存在に気づいたら、早めに検査を受けるようにしましょう。
●血液の腫瘍マーカーでは不十分
乳がんの腫瘍マーカーとしては、CA15-3、CEA、NCC-ST-439などがあり、再発乳がんの経過観察に用いられています。ただし、これらの腫瘍マーカーは、早期の乳がんの診断に対しては陽性率が低いため、早期発見に役立つものではありません(日本乳癌学会のQ&Aより)。
乳がん発見のための検査
●セルフチェックの勧め
乳房のしこり、乳房の皮膚にえくぼのような引きつれ、脇の下のリンパ節に腫れがないか、月に1度のセルフチェックを習慣にすることで、乳房の変化に気づきやすくなります。乳房の部位でみると、左右とも外側上部が最もがんのできやすい場所とされています。セルフチェックは、生理が終わり、乳房に張りのない時期に行うと良いでしょう。
●マンモグラフィー
マンモグラフィー(Mammographie)は、レントゲンを使った乳房検査で、石灰化や腫瘤の診断に力を発揮します。特に、約半数の乳がん患者にみられる「微小な砂状の石灰化の集積群(微小石灰化群、gruppierte Mikrokalzifikationen)」という特徴的な病変は、マンモグラフィーにて検出されます。
●乳房超音波
超音波による乳房検査は、マンモグラフィーよりも簡便です。のう胞(Zyst)性の病変や、腫瘤を見つけるのに役立ちます。乳腺の発達した若い女性や妊婦の検査にも有用です。
●マンモグラフィーと乳房超音波検査の違い
マンモグラフィーと乳房超音波は、検査の対象とする病変が多少異なります。一般に、中高年の女性はマンモグラフィー、乳腺の発達している若い女性は乳房超音波が勧めらます。40代の日本人女性、約7万6000人を対象とした大規模臨床試験では、マンモグラフィーと乳房超音波検査を組み合わることで、乳がんの発見率が1.5倍に上昇することが示されました(英国の医学雑誌「Lancet」、2015年11月5日号の論文より)。
●乳房のMRI(核磁気共鳴画像法)
マンモグラフィーや乳房超音波の結果、疑わしい症状や部位が見つかり、さらなる精密検査が必要な場合、乳房のMRI(MRT)が行われます。MRIは磁石を用いて行う検査で、X線の照射はありません。通常は造影剤を用いての検査となります。
●組織診断
乳房に悪性を否定できない病変が見つかった場合は、病理学的な組織診断(細胞診や組織診)をします。これは、乳房の病変部位に針を刺して組織の一部を採取し、それを詳しく検査します。
●重要なBI-RADS分類
ドイツでマンモグラフィーや乳房超音波検査を受けると、報告書の評価にBI-RADS(ビラーズ)分類の「1~6の数字」が記載されます。このBI-RADS分類は世界共通の評価方法で、カテゴリー「3」の場合は短期的な経過観察、カテゴリー「4」の場合は悪性が疑われるため、組織診断が必要とされます。
●乳がん検査の費用負担は?
日本における女性の乳がん罹患率は30代から増え、第一のピークは40代です。しかしドイツでは、マンモグラフィーによる乳がん検診プログラムは放射線被ばく(日本までの飛行機の片道分に相当)の課題もあり、50歳以降からの適応となっています。ドイツにお住まいの日本人女性、特に40代の皆さんは、留意が必要です。
●日本では
厚生労働省は2006年に、「40歳以上の女性に対し、2年に1度、視診・触診およびマンモグラフィーの併用検診を行う」という指針を出しています。そのため、40歳以上の女性は、市区町村健診の一環として2年に1度、もしくは企業健診の規定に従って受診ができます。40歳未満の女性では自己負担、もしくは勤務する職場の規定による検診を受けることができます(企業により費用負担が異なります)。
●ドイツでは
30歳以上の女性は、年1回の触診による乳がんチェック、50~69歳では乳がん検診プログラム(Mammographie-Screening-Programm)に則って2年に1回のマンモグラフィーによる検診が勧められています。公的健康保険加入者の場合、このプログラムの枠内の検査においては、原則的に自己負担はありません。50歳未満のプライベート健康保険加入者では、検査の理由や契約内容などによって異なります。