日本で診断した際にHBs抗原が「陰性」、抗Hbs抗体が「陽性」のため、肝炎の心配はないといわれました。この「抗原」と「抗体」は何が違い、陰性と陽性のどちらが正しいのか、いまいちよく分かりません。
Point
- A型肝炎は経口感染。予後は良好
- B型肝炎とC型肝炎は血液感染
- A型肝炎とB型肝炎には予防接種あり
- B型肝炎とC型肝炎の慢性化は「肝がん」と関係
- B型肝炎とC型肝炎の治療薬あり
代表的なウイルス性肝炎
感染ルート |
感染ルート | A型肝炎 | B型肝炎 | C型肝炎 | |||
母子感染 | ◎ | △ | ||||
輸血 | ◯ | ◎ | ||||
食べ物 | ◎ | |||||
注射 | ◎ | |||||
性行為 | ◯ | ◯ | × |
肝がんのリスク | ||||||
A型肝炎 | B型肝炎 | C型肝炎 | ||||
肝がんリスク | あり | あり |
● 食物から感染するA型肝炎(Hepatitis A)
A型肝炎ウイルスで汚染された食物や飲料水を口にしたり、性行為により感染します。一部を除き予後は一般に良好です。
● 母子感染と血液感染のあるB型肝炎(Hepatitis B)
母親の胎内でB型肝炎ウイルスに感染する無症候性キャリアと、輸血(以前)、性行為、注射の回し打ち、刺青、ピアスなど血液を介しての感染があります。肝炎状態が持続し慢性肝炎になると、肝硬変や肝がん合併へと進むことがあります。
● 血液による感染のC型肝炎(Hepatitis C)
輸血(以前)、注射の回し打ち、刺青、ピアスなど血液を介して感染します。約70%が慢性肝炎に移行、約20年で30~40%が肝硬変に、うち年率約7%の人が肝がんを生じます(国立国際医療センター、肝炎情報センターより)。
肝炎感染の指標
B型肝炎の感染を調べる検査 |
HBs抗原 | HBs抗体 | HBc抗体 | 意 味 | |||
❶ | + | 現在、感染している | ||||
❷ | - | + | + | 過去に感染 | ||
❸ | - | + | - | ワクチン接種後 | ||
❹ | - | - | - | 感染したことがない |
※①、②の場合にはウイルス定量を行います
● A型肝炎はHA抗体
A型肝炎ウイルスに対するHA抗体(Hepatitis Aの略)は、以前の感染もしくはA型肝炎の予防接種で「陽性」になります。予防接種後の抗体価(Titer)が20 mIU/m1以上で有効と判断されます。
● B型肝炎はやや複雑
HBs抗原(Hepatitis B surfaceの略)の「陽性」はB型肝炎の感染を意味します。予防接種後はHBs抗体のみが「陽性」になり、抗体価が100 U/1以上で十分な予防効果で期待できます。HBc抗体(Hepatitis B core の略)、e抗原、抗e抗体などはB型肝炎の経過や活動性の指標として有用です。
B型肝炎ウイルスの構造とマーカー
● C型肝炎はHCV抗体
HCV抗体(Hepatitis C Virusの略)が「陽性」の場合にはC型肝炎に感染している可能性があり、「陰性」の場合はC型肝炎に感染している可能性が低いと判断されます。
● ウイルス定量とウイルス型
ウイルス性肝炎が疑われる場合には、ウイルス量(多さ)とウイルス型を調べることにより、より効果的な治療方針を決めることができます。
● IgM抗体とIgG抗体の違い
すべての抗体には IgM(免疫グロブリンM)抗体とIgG(免疫グロブリンG)抗体の2種類あります。IgM抗体は感染の初期に上昇、IgG抗体は過去の感染、感染の持続、あるいは予防接種後を意味します。
肝炎の予防ワクチン
肝炎ワクチンの有効性 |
マーカー | 値の読み方 | |||||
A型肝炎 | HA抗体 | 20mIU/ml以上で有効 | ||||
B型肝炎 | HBs抗体 | 100 U/l以上で有効 100 U/l未満では追加接種が必要 |
● A型肝炎ワクチン
ドイツのワクチン(Havrix®、Hepatyrix®など)の場合、初回接種で約1年間、2回目(1年後)の追加接種で10年以上(約15年)有効です。日本の国産ワクチンは3回接種(初回、2〜4週間後、6カ月後)で約5年間効果が持続します。 ドイツにはA型肝炎とB型肝炎の混合製剤(Twinrix®)もあります。
● B型肝炎ワクチン
ドイツでは基本的に3回接種します(初回、1カ月後、6カ月後)(Engerix®、HB VaxPro®など)。予防効果は10年以上(15〜20年)ですが、10年毎の追加接種が推奨されています。小児では2歳までの定期予防接種(ロベルト・コッホ研究所のSTIKOの推奨)に含まれ、6種混合ワクチンとして投与されます。日本でも2016年10月より小児の定期予防接種にB型肝炎ワクチンが加わりました。
● 日本のB型肝炎ワクチン
日本の国産B型肝炎ワクチンで抗体ができにくい人もいることが指摘されています。渡独前に初回もしくは2回まで日本で接種し、3回目をドイツでと希望する場合、まれに日本での接種による抗体価上昇が不十分のこともあります。
●C型肝炎ワクチンはありません
C型肝炎ウイルスの予防を目的としたワクチンはまだありません。
● 肝炎予防は肝がん予防
抗体が「陰性」ということは肝炎に対しての防御がない状態ともいえます。A型肝炎もB型肝炎はほぼ全世界(北米と西ヨーロッパを除く)で感染リスクが指摘されていますので、特に流行地への出張や中長期の滞在予定のある人は事前の予防接種が推奨されます(厚生労働省検疫所 FORTH)。
B型肝炎・C型肝炎が進行した場合
B型ならびC型の慢性肝炎の治療
●治療の目的
治療の目的は、肝機能の改善を目指すことはもちろんのこと、ウイルス量を減らして肝炎を沈静化し、将来の肝がんを防ぐことです。日本では「B型C型慢性肝炎・肝硬変治療ガイドライン(平成24年度)に従った治療が行われています。
●B型肝炎の治療
B型慢性肝炎(chronische Hetatitis B)では核酸アナログ製剤(バラクルード®など)やインターフェロン製剤などの抗ウイルス療法を行います。
●C型肝炎の治療薬
以前はインターフェロン製剤による療法が主体でしたが、最近は肝炎ウイルスのゲノタイプ、肝炎の状態、年齢やほかの合併症を考慮しながら抗ウイルス製剤が用いられます。
●抗ウイルス薬の価格
ウイルス性肝炎の抗ウイルス薬は、価格が非常に高額です(例えば核酸アナログ製剤のバラクルード®は、90錠でおよそ1900ユーロになります)。ドイツでのB型肝炎、C型肝炎の治療は消化器内科(Gastroenterologie)の肝臓病(Hepatologie)領域の専門医の指示に従ってください。