脂肪分の多い食品は摂らないほうがよいのでしょうか。
和食は元々炭水化物が主体だったため、以前はもっと チーズやバターを食べて体力を向上させよう、というキャンペーンもあったほどです。実際、脂肪含有量の多い食品は希少価値があり、お寿司屋に行ってもウニ、大トロ、数の子など脂肪を含んだものほど高価ですし、霜降りの和牛は誰もが知る高級品ですね。エネルギー面からみると、炭水化物が1グラムあたり4キロカロリーであるのに対し、脂肪は倍以上の9キロカロリー。そう聞くと現代人はすぐに「危険」と感じますが、炭水化物が中心の伝統的な日本の食事の中にあっては、脂肪分を含む食品は美味しいだけではなく、エネルギー源としても貴重品であったと言えます。
しかし、日本人の脂肪摂取量は国の経済発展とともに増えて(図1)、脂肪分を含む食品と日本人の関係は確実 に変わってきています。
脂肪分は何のために必要なのでしょうか。
脂肪分は3大栄養素の1つで大変重要な役割を果たしています。脂肪は神経系の主要な構成要素であり、ステロイドホルモン(副腎皮質ホルモン、性ホルモン)も実はコレステロールが元になっています。また、中性脂肪(別名トリグリセリド)は心臓を動かす大事なエネルギー源です。
脂質は生きて行く上で欠かせない栄養素なので、体内には脂肪分が食べられない場合でも糖質またはタンパク質から脂質合成できるしくみが備わっています。また余分に摂ったエネルギーは、飢餓に備えてトリグリセリドとして体内に蓄えられます。これは人類誕生以来の体のシステムで、エネルギーを蓄える能力が高いほど生き残りには有利でしたが、現代ではそうした長所が生活習慣病に結びついているのは何とも皮肉ですね。余談ですが、デリカテッセンのフォアグラは、ガチョウの肝臓にトリグリセリドがたくさん溜まった脂肪肝です。
欧米人並みの脂肪分を摂取するとどうなりますか。
もともと日本人は農耕民族で長年に渡り脂肪摂取量が少なく、コレステロール値が低い国民でした。現在でも、欧米人の食事に比べると日本人の栄養素に脂肪分が占める割合は低めです。ところが、ここで冒頭の質問に触れますが、一般的にドイツの食事(外食)は日本の平均的な栄養素摂取構成比からみるとやはり脂肪量が多くなっています。若い世代は別にしても、私たち日本人の体は欧米人ほど長期にわたる過度の脂肪摂取に対応できないと考えてください。
平成11年の「厚生労働省国民栄養調査結果」によると、日本人男性の30~60歳代の半数以上は中性脂肪が150mg/dl以上、もしくは総コレステロール値が220mg/dl以上の高脂血症であるとの結果が出ました。特に最近は若年層の動物性脂肪の過剰摂取で、高脂血症患者はますます増える傾向にあると言えます。
高脂血症とは何でしょうか?
血中の脂質が高くなることです。痛みはないのですが、長年放置すると動脈硬化が進み、結果として心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などの原因になります。そのためサイレント・キラー(音もなく忍び寄る殺し屋)と呼ばれています。血中のコレステロール値が高いほど心筋梗塞の発症頻度も高くなります(図2)。また、高脂血症の1つ、 高トリグリセリド血症は高血圧や糖尿病に関連することが多いので知られています。
高脂血症の最大の原因はなんといっても食生活の偏りです(表1)。運動不足も高脂血症を引き起こす危険因子と言えます。同じ高脂血症でも、高コレステロール血症は過多の脂肪摂取、高トリグリセリド血症は糖質、アルコールの摂り過ぎが原因です。
表1 高脂血症の原因 |
食事 - 高コレステロール血症は脂肪分の取りすぎ - 高トリグリセリド血症は糖質・アルコールの取りすぎ 家族性素因によるもの - 家族性高コレステロール血症 他の病気によるもの - ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下症、糖尿病など |
コレステロールには悪玉と善玉があるって本当ですか。
血中コレステロール値が220mg/dl以上の場合を高コレステロール血症と呼びます(表2)。高コレステロール血症が続くと皮膚に黄色腫という脂肪の固まりができたりします。また、血管の内壁にプラークと呼ばれる脂肪腫ができ、これが傷付くことにより血栓(血塊)ができ心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こします。食事療法の基本は脂肪分を減らすことです。
表2 高脂血症の診断基準(空腹時採血による血清脂質値) | ||
診断名 | 血清脂質 |
値(mg/dl)
|
高コレステロール血症 | 総コレステロール |
≥ 220
|
高LDLコレステロール血症 | LDLコレステロール |
≥ 140
|
低HDLコレステロール血症 | HDLコレステロール |
< 40
|
高トリグリセリド血症 | トリグリセリド(中性脂肪) |
≥ 150
|
動脈硬化症疾患検診ガイドライン2002年版より
コレステロールには、悪玉のLDLコレステロールと善玉のHDLコレステロールがあることが分かっています。LDL(悪玉)コレステロールは、数値が高いほど前述の血管内プラークを形成しやすくなります。一方、HDL(善玉)は血中のコレステロールを掃除する働きがあり、値が高いほど動脈硬化を起こしにくくなります。適度な運動と適度なアルコール摂取がHDL(善玉)コレステロールを増やします。
高脂血症は遺伝するのでしょうか。
遺伝性が強いのが高コレステロール血症です。LDL(悪玉)コレステロールを細胞内に取り込む受容体の異常が原因で、血中のLDLコレステロールがうまく処理されず蓄積されます。若くても動脈硬化や心筋梗塞を起こしたりします。特徴的なのは、アキレス腱に黄色腫と呼ばれるコレステロールの固まりができるため、アキレス健が通常より太く(1cm以上)なります。治療は脂肪摂取の制限と薬物療法が基本です。
日本人の場合、高コレステロール血症患者の20人に1人が家族性高コレステロール血症と考えられています。そのような要因を持つ人は500人に1人で、一般に血中コレステロール値は260mg/dl以上を示します。またその親兄弟の半数が同様の高コレステロール血症になっています。食事に十分気を付けているにもかかわらず、またほかの病気がないのに血中コレステロール値が高いという方は、かかりつけの医師に相談してみると良いでしょう。
どのような治療が一般的ですか。
食事療法と運動が大切で、高脂血症と診断されたらまずタバコは控えてください(表3)。血中コレステロール値が高い人は、最近ではスタチン系と呼ばれる非常によく効く血中コレステロール降下剤を用いることができます。日本人でもこの薬で治療を受けた人は、心筋梗塞の発症頻度が少なくなることが明らかになっています。ただし、これはあくまでコレステロール値を下げる薬で、治す薬ではないということはお忘れなく。
表3 高脂血症治療の基本となるポイント |
食事療法 (1) 肉類から魚・穀物中心に (2) 食物繊維を多く摂取する (3) 高トリグリセリド血症ではスナック菓子、清涼飲料水、アルコールは減らす (4) ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール、βカロチンの摂取 運動療法 (1) 運動はHDL(善玉)コレステロールを増やしトリグリセリドが減少 (2) 生活の中での運動(電車、バスはひとつ手前で降りて歩く、エレベーターを使わないなど) (3) 有酸素運動がベスト(医師に相談してください) (4) 効果が出るまで3ヶ月はかかることを知っておく その他 (1) ストレスを避ける (2) 高血圧、糖尿病を合併に注意 |
中性脂肪が高いと言われました。
空腹時の血中トリグリセリド(中性脂肪)値が 150mg/dl以上の場合を、高トリグリセリド血症といいます。食事をすると短時間で血中濃度が上がりますので、採血は夜間絶食後の空腹時に行う必要があります。
高トリグリセリド血症は肥満者にみられることが多く、糖尿病や高血圧に関与するインスリン抵抗性に関係すると考えられています。結果的に心筋梗塞などの虚血性心疾患を助長することになり、非常に高値(1,000mg/dl以上)になると急性すい炎を惹起したりします。最近は、空腹時の血中トリグリセリド値が正常でも、食後の値が高い場合も問題があることが分かってきました。多くの人は、1日の半分以上が食後の状態といえるからです。 食事療法の基本は糖質とアルコールを控えることです(表2)。
40歳を過ぎたら、年に1度は血中のLDL(悪玉)コレステロール、HDL(善玉)コレステロール、トリグリセリド(中性脂肪)をチェックされることをおすすめします。