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冬の感染性胃腸炎

学校で、下痢や嘔吐といった不調を訴える生徒が多かったと聞きました。ノロウイルスが原因でしょうか? その場合、下痢が治まったら学校に行かせても良いのでしょうか?

Point

  • 冬はウイルス性の感染性胃腸炎が多くなります
  • ノロウイルスの流行は10月~翌年5月
  • ロタウイルスの流行は2月~5月
  • 下痢・おう吐に伴う脱水症状を防ぐことが大切
  • 効果のある抗ウイルス剤はなく、治療は対症療法
  • 患者の排泄物はできるだけ早急に処理・廃棄する

感染性胃腸炎

● 冬はウイルス、夏は細菌が原因

感染性胃腸炎(流行性下痢嘔吐症)は、細菌、ウイルス、原虫などが原因となって発病する病気です。冬はウイルスによる感染性胃腸炎(Magen-Darm-Grippe)が流行します。原因としてノロウイルス、ロタウイルス、アストロウイルス、腸管アデノウイルスが知られています。通常の非感染性の急性胃腸炎であれば、他人には感染しませんが、感染性胃腸炎の場合、複数の人が同時に発症し、広がりがみられます。

感染性胃腸炎
 ウイルス性細菌性
流行季節 冬に多い 夏に多い
代表的な例 ノロウイルス
ロタウイルス
病原性大腸菌
サルモネラ菌
腸炎ビブリオ
カンピロバクター
黄色ブドウ球菌
ボツリヌス菌

ノロウイルス感染症

● 冬に多く発症

ノロウイルス(Norovirus)は10月~5月(特に11~3月)の冬の季節に流行し、どの年齢層の人にも感染します。一度感染しても、翌年に再び感染する可能性があります。ドイツ国内では、2016年の10月後半からノロウイルスによる感染性胃腸炎の流行がみられました。ノルトライン=ヴェストファーレン州では前年同期比で患者届出数が3~4倍の流行です。

ルール地域のノロウイルス患者数(住民1000人当り)
都市患者数(人)
ボーフム 27
ドルトムント 103
デュイスブルグ 109
エッセン 57
ゲルゼンキルヒェン 14
ミュールハイム 6
オーバーハウゼン 39
(2016年12月1日号のDer Westen誌より)

● 経口感染と飛沫感染、2つのルート

ノロウイルスに汚染された食材を口にする(経口感染)、またはノロウイルス患者の排泄物が乾燥して飛散し、口に入ると感染します(飛沫感染)。10〜 100個とわずかでも、ウイルスが口に入ると感染します。

● 主な症状はおう吐と下痢

潜伏期は半日~2日間で、突然の激しい吐き気(Übelkeit)やおう吐(Erbrechen)、37~38度の発熱(Fieber)、腹痛(Bauchschmerz)と水様性の下痢(wässriger Durchfall)を起こします。症状は2~3日で回復します。

ノロウイルスに感染しても何の症状も現れない不顕性感染の人もいます。しかし、不顕性感染者も発病者と同じようにノロウイルスの感染源になり得ます。

● 下痢が止まっても要注意

下痢は発症後1~2日で治まります。しかし下痢が治まった後も、便中へのウイルス排出は1週間から1カ月間近くも続き、そこが感染源となることがあります。

● ノロウイルスによる食中毒

ノロウイルスに汚染された二枚貝(生ガキなど)が食中毒の原因になることもあります。


ロタウイルス感染症

● 毎年2~5月に流行

ロタウイルス(Rotavirus)の流行時期は2~3月で、ノロウイルスよりやや遅れて出現します。ロタウイルスによる急性胃腸炎は、0~6歳以下の子ども(特に生後6カ月~2歳)がかかりやすい病気です。

● 症状はおう吐、白色の下痢

1~3日の潜伏期間の後、最初は吐き気で始まり、水様性の下痢、37度前後の発熱、腹痛がみられます。米のとぎ汁のような白い下痢便はロタウイルスの特徴です。3日~1週間で回復に向かいます。

● 非常に強い感染力

ノロウイルスと同様、わずか10~100個のロタウイルスが体内に侵入しただけでも感染します。再感染の場合は、多くの場合、初回の感染に比べて軽症で済みます。

ノロウイルスとロタウイルスの特徴
 ノロウイルスロタウイルス
患者年齢 小児〜成人 乳幼児
感染力 強い 強い
流行時期 秋〜翌年の春 2月〜春
感染ルート 経口、飛沫 経口
感染力 強い 強い
学校での集団感染
食中毒
潜伏期 1~2日 1~3日
おう吐・水様性下痢
白色便
症状の回復まで 2~3日 5~6日
不顕性感染 * 多い
下痢回復後の菌排出 1週間〜1カ月
抗ウイルス薬 なし なし
予防ワクチン なし
* 感染はしても発病しないで経過する場合

感染性胃腸炎に感染したら

● 脱水症状を防ぐ

ノロウイルスもロタウイルスも、特効薬となる抗ウイルス薬はありません。症状に応じた、対症療法が行われます。症状が少し落着いたら、少量ずつ水分を摂取します。舌が乾く、皮膚に艶がないなど、脱水症状が疑われる場合は早急に医療機関を受診してください。

● 下痢止め薬は使用しない

整腸薬を除き、強い下痢止めは腸管内の原因微生物の体外への排泄を抑え、逆に回復を遅らせてしまう可能性があります。原則、強い下痢止め薬は使用しません。

● 吐物・排泄物の処理は迅速に

患者の吐物、便には大量のウイルスが含まれています。使い捨てのゴム手袋とマスクを着用し、排泄物が乾燥する前にできるだけ早く処理してください。処理後は十分な手洗い、うがい、鼻腔洗浄などを必ず行ってください。ノロウイルスで汚染された場所には、かなりの時間が経っても、まだ感染力を保ったノロウイルスが残っている可能性があります。

● 消毒には次亜塩素酸ナトリウム

ノロウイルスとロタウイルスはアルコール消毒薬に対して抵抗力があり、効きません。消毒には、0.1%以上の家庭用の塩素系漂白剤が用いられます。

  • ウイルス性胃腸炎に際して
  • ● 脱水症状の予防と対策が基本
  • ● 強い下痢止め薬は原則用いない
  • ● 脱吐物・排泄物は早急に処理する
  • ● 乾燥した残留排泄物も感染源
  • ● ノロウイルスの排泄は1週間以上続くと認識
  • ● 消毒には次亜塩素酸ナトリウムが効果的
  • ● ノロウイルス対策は85度以上の加熱1分以上で
  • ● 早すぎる登園、当校、職場復帰は控える

予防のためのQ & A

● 予防接種はありますか?

ロタウイルスに対しては、ワクチンの予防接種が効果的です。しかし、残念ながらノロウイルスに対する予防ワクチンはありません。

● 幼稚園・学校はいつから?

ノロウイルス感染については、ノルトライン=ヴェストファーレン州の労働安全衛生研究所で、「ノロウイルス感染症の患者は、下痢が止まってから48時間(可能であれば72時間)は他者との接触を控えた方が良い」とされています。

● 加熱の予防効果は?

厚生労働省によると、ノロウイルスは加熱に弱く、85度の環境では1分間で感染性がなくなります。料理の十分な加熱(中心温度を85~90度以上に)が基本です。まな板、包丁、食器、布類は85度以上の熱湯に1分間以上、浸けておきます。

● 手洗いの効果は?

手洗いは付着しているウイルスを減らす有効な手段です。調理や食事の前、トイレの後に必ず実施。オムツ交換の後は手袋を用いたとしても手洗いをしましょう。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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