食欲の秋ですが、私は外食でクリームソースのパスタを頂くとお腹を壊すような気がします。また、最近父は昼食後にソファで倒れるように眠りこんでしまうことがあります。食事の成分や食品の種類と関係があるのでしょうか?
Point
- 乳製品でお腹を壊す乳糖不耐症
- 脂肪分の食べ過ぎでの胃もたれ
- 低カロリーのダイエット飲料で下痢
- 食事性低血圧による睡魔、だるさ
- スパイスが関係することも
牛乳でみられる消化器症状
● 牛乳アレルギー Milchallergie、Milcheiweißallergie
牛乳に含まれる成分(カゼインなど)がアレルギー反応の原因物質(Allergen、アレルゲン)として発症する食物アレルギー(本誌954号参照)。多くは子どもの時期だけにみられます。
● 冷蔵庫で冷やした牛乳
冷たい牛乳を一気に飲むと下痢をするのに、温めると大丈夫ということがあります。この場合は冷たい液体が腸を刺激、大腸の動きが活発になって水分を吸収しきれずに下痢になると考えられます。
● 乳糖不耐症 Laktoseintoleranz、Milchzucker-Unverträglichkeit
乳製品に含まれる乳糖(ラクトース、Laktose、Milchzuker)を分解する乳糖分解酵素(ラクターゼ、Laktase、呼名が似ているので注意)の分泌が不十分なために、乳糖を消化できずに起こる消化器症状です。主に大人にみられます。
乳糖不耐症と牛乳アレルギー
乳糖不耐症 | 牛乳アレルギー | |
原因 | 酵素の不足 | 免疫の反応 |
好発年齢 | 大人 | 乳児期、子ども |
発症する量 | 人によって異なる | 少量でも重症に |
症状の部位 | 消化器 | 消化器、皮ふ、呼吸器 |
対応 | 乳糖の多い食品を避ける | 乳製品を避ける |
好発年齢 | ・乳糖の多い食品を避ける ・ラクトースフリー乳製品 ・乳糖分解酵素薬の服用 |
乳製品を避ける |
予後 | 年齢とともに顕著 | 多くは自然に改善 |
日本人に多い乳糖不耐症
● 年齢とともに減る乳糖分解酵素
乳糖分解酵素は離乳時期が過ぎてから、年齢とともに次第に減っていきます。そのため、昔は牛乳を飲めたのに今は飲めないという年配の方も少なくありません。乳糖不耐症は北ヨーロッパの人々では少なく(5~ 15%)、程度に差こそあれ日本人を含むアジアの人に多く(65~ 90%以上)みられます。
地域・人種でみた乳糖不耐症の割合
(1988年のアメリカ臨床栄養学会誌の論文より)
● 下痢とお腹のガス
分解されなかった乳糖が大腸内に水を引っ張ることにより、下痢が生じます(浸透圧性下痢)。さらに大腸内の細菌(Bakterien)によって乳糖が発酵してできた①乳酸(Milchsäure)は腸管運動を刺激して下痢を助長し、②ガスでお腹が張ってきます。
● 乳糖フリーの乳製品、乳糖分解酵素の製剤
ドイツのスーパーには、乳糖分解酵素を加えた牛乳から作られた、乳糖を含まない(Lactosefrei)乳製品が並んでいます。また、薬局で購入できるものに乳糖分解酵素の製剤(Enzym Lactase 12000 FCC®や、Lactrase 3300®など)があり、外食前に服用すると、ある程度安心して乳製品を口にできます。
● 腸内細菌とヨーグルト
乳糖不耐症でみられる症状は、腸内細菌フローラ(Bakterienflora)の変化などほかの因子にも影響されます。例えば、牛乳より乳糖を含むヨーグルトは、乳酸菌の乳糖分解酵素により逆に症状が軽くなったり、乳糖分解酵素の補給源として役立つとも考えられています。
脂肪による胃もたれ
● ヨーロッパの食事は高脂肪
日本人の摂取カロリーに占める脂質(Fett)の割合は平均20%未満、ヨーロッパ各国では30〜40%(平成24年度の厚生労働省の報告書、2007年のWHOの報告書)。ドイツ料理も脂質成分がリッチな栄養組成。
● 胃もたれ・胸やけ、軟便
脂肪はタンパク質や糖質に比べて胃内に長くとどまるため、胃酸を分泌し続けます。そのため「胃もたれ(Magenverstimmung)」や「胸焼け(Sodbrennen)」を起こしやすくなります。また、胆汁(Galle)やリパーゼの働きでも消化しきれなかった脂肪分は、大腸では水分を引っ張るため便を緩くします。
人工甘味料(Süßstoff)で下痢
● ダイエット飲料でお腹がゴロゴロ
ダイエットコーラ®など、カロリーゼロや低カロリーの各種ダイエット飲料(Diät-Getränk、zuckerfreie Getränke)のほか、コーヒーや紅茶用の人工甘味料(künstliche Süßstoffe)でお腹を壊す人がいます。
● 何が原因ですか?
人工甘味料として用いられている天然甘味料のキシリトール(Xylit)、ソルビトール(Sorbit)、合成甘味料のスクラロース(Sucralose)などは腸管から吸収されないため、大腸内での浸透圧を上げ、腸管壁を通して大量の水分を腸管内に引っ張るため下痢を起こします。
食後の眠気、だるさ
● 皆が経験する昼食後の軽い眠気
食事をすると消化管の運動を促す副交感神経(迷走神経)の活動が優位になって血圧が下がりやすくなることと、消化運動のため内蔵血管へと血流分泌が変化すること、さらに最近は炭水化物(糖質)などの関与が推測されています。腹八分目で、一度にたくさん食べずに「Ich bin satt.(お腹いっぱい)」の気持ちが大切です。講演や会議で話の聞き手になると眠くなりやすいので、積極的に発言したり質問すると目が冷めてきます。
● 意識が遠のくようなだるさ
これに対し高血圧(Hypertonie、Bluthochdruck)を治療中の高齢者の中には、食後の集中力が低下し、場合によっては意識がすーっと遠のくような眠気を経験する人もいます。多くの場合、5〜10分ほど体を横にして休んだだけですっきりします。
● 動脈硬化と食事性低血圧が関係?
動脈硬化(Arteriosklerose)のため動脈壁の血圧センサーの働きが鈍り、食後の血圧低下に伴う心臓の反応による血圧調節がうまくいかずに、脳の血流も低下してしまうためと推測されています。一過性の起立性低血圧に似た状態ですので、10分ほど体を横にして休んでみましょう。ただし、同じような状態を繰り返す人は長距離運転前の食事(特に炭水化物 = 糖質)は控えた方が良いかもしれません。
意外な原因も
● 今まで何ともなかった食材
最近まで食べても何ともなかった食材(例えば、かぼちゃ、ズッキーニなど)でも、年齢とともに顔がむず痒くなったり、皮ふのあちこちがチクチクするという人はアレルギーの可能性があるかもしれません。なかにはフォアグラが原因で血圧低下を来す、珍しい食物アレルギーの例もあります。
● 香辛料や調味料
味をおいしくするために用いられている唐辛子、にんにくのほか、ナツメグ、シナモン、コリアンダー(パクチー)などのスパイスが原因になることも。
● 高級ミネラルウォーター
ミネラルウォーター(Mineralwasser)に含まれるマグネシウム(Magnesium)量が多い種類もあります(例えば、Gerolsteiner Sprudel®)。お通じが良くなるため、便秘(Verstopfung)がちの人には朗報ですが、人によっては便が緩めになるかもしれません。