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シュパーン保健相の第2波対策は成功するか?

欧州にコロナ第2波が襲来した。周辺諸国で感染者数が急増し、ドイツでもホットスポットが増えるなか、連邦保健省のシュパーン大臣は9月21日に、新たなコロナ対策を打ち出した。

9月18日の連邦議会で演説するシュパーン保健相9月18日の連邦議会で演説するシュパーン保健相

発熱外来を導入へ

冬には新型コロナウイルスだけではなく、インフルエンザに感染する人も増える。このため保健省は全国の特定病院に、風邪のような症状がある人のための発熱外来を設置する方針だ。熱のある患者とほかの病気で来院する人の入り口を分け、病院で検査や診察を待つ人たちの間でウイルスが広がることを防ぐ。

また最近は陽性・陰性が直ちに判明する抗原検査キットが増えているので、介護施設などで検査数を大幅に増やす。さらに政府は、リスク地域から帰国した市民を保健所が容易に把握できるように、デジタル化された登録システムの導入も検討している。

英仏スペインで感染者が急増

この背景には、9月に入ってから欧州の一部の国で感染者数が急増しているという事実がある。世界保健機関(WHO)によるとスペインでは9月上旬に、一時毎日約1万人の感染者が見つかった。首都マドリードでは、政府が一部の地区で事実上の外出禁止令を発布。約85万人の市民が仕事や通院、食事の調達以外は外出を禁じられた。

フランスでは9月以降、毎日感染者数が数千人ずつ増加。19日には1日で約1万3000人も増えた。累計死者が約4万2000人と欧州で1番多い英国でも、毎日数千人単位の新規感染者が見つかり、ジョンソン政権は「このままでは10月中旬に毎日感染者が5万人ずつ増え、11月には毎日500人が死亡する」として、レストランの営業時間の短縮などを命じた。WHOのデータバンクで欧州の感染者数のグラフを見ると、夏休みが終わってから急カーブを描いて上昇している。

ドイツでも増加ペースが速まっている

ドイツの状況は、今のところフランスやスペインほど悪化していない。それでも夏休み以降、感染者が増加するテンポが加速している。8月中旬頃までは毎日数百人単位だった新規感染者数は、8月下旬から千人単位となり、9月19日には2300人と今年4月以降で最高の水準に達した。

ドイツでは市・郡単位で直近1週間の新規感染者数が10万人当たり50人を超えると、「危険信号」である。バイエルン州の州都ミュンヘンでは、9月下旬に一時この数値が50人を超えた。このため市当局24日から中心部のマリエン広場などで市民にマスク着用を義務付けたほか、レストランなどで5人もしくは二世帯を超えての会食を禁止。さらに屋内での催し物の参加人数の上限を100人から25人に引き下げた。

このほかロベルト・コッホ研究所の9月22日付の報告によると、ノルトライン=ヴェストファーレン州のハム、バイエルン州のヴュルツブルクやニーダーザクセン州のクロッペンブルクでも、直近1週間の新規感染者数が住民10万人当たり50人を超えた。

全国的なロックダウンを回避せよ!

現在ドイツ連邦政府が狙っているのは、今年3~5月に実施したような全国的なロックダウンを回避することだ。シュパーン大臣はドイツ第2テレビ(ZDF)でのインタビューで、「当時、新型コロナウイルスについてのわれわれの知識は、非常に少なかった。従って厳しいロックダウンを実施した。しかし過去6カ月間にわれわれは多くのことを学んだので、第2波では全国的なロックダウンは避けられると考えている。重要なのは、他人との間で1.5メートルの最低距離を保ち、公共交通機関などでマスクを着けるという規則を全員が守ることだ」と述べている。さらに、「5月以降、商店や理髪店で集団感染が起きたという報告はない。したがって第2波が来ても、商店や理髪店、美容院などを閉鎖する必要はないと思う」と語っている。

ベルリン・シャリテー大学病院のドロステン教授も「欧州のほかの国の数字を見ると、警戒が必要だ。ドイツも感染者増加の初期の段階にある。しかし現在では、今年3月よりも検査数が多く、感染者増加の動向に対する監視システムが整っている。このため第1波の時のような全国的なロックダウンは避けられるのではないか」と述べている。またドロステン教授によると、現在の新規感染者では若者の比率が高い。若者は、高齢者に比べると重症化・死亡の危険が低い。

ロックダウンが経済に深い傷

メルケル政権が全国的なロックダウンを避けようとしている理由の一つは、経済的な打撃があまりにも大きいからだ。欧州連合(EU)加盟国ではコロナ不況が深刻化している。EU統計局の9月8日の発表によると、今年第2・四半期のEU加盟国の国内総生産(GDP)は、第1・四半期に比べて11.4%も減少した。スペイン、フランス、イタリアではGDPの減少率がいずれも2桁に達している。

第1波でのドイツの経済活動の制限は、イタリアやフランスに比べると緩かった。だがそのドイツですら、第2・四半期のGDPは、第1・四半期に比べて9.7%も減少した。連邦政府は今年の通年のGDPが前年比で5.8%減ると見ているが、これは第二次世界大戦後、最悪の減少率だ。ドイツだけでなく欧州各国は、来年の春まで、感染拡大防止と経済活動のバランスを取るという困難な作業に取り組まなくてはならない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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