第37回 コロナ追跡アプリのリスクとメリット
集中型システムと分散型システムの違い
コロナ禍でドイツを含むいくつかの国では、もうすでにさまざまな「追跡アプリ(または接触確認アプリ)」を開発、もしくは実用化している。その目的は、新型コロナウイルスの感染拡大をできるだけ抑えること。追跡アプリには主に集中型と分散型の二つのアプローチがあるが、必ず必要となるデータは以下の四つだ。
- ❶ ユーザーと他の人との距離
- ❷ 他の人と接近した日時・期間
- ❸ 誰が新型コロナウイルスに感染したか
- ❹ 一人ひとりを追跡するためのID
ドイツではまず、集中型システムである「Pan-European Privacy-Preserving Proximity Tracing(PEPP-PT)」の採用が検討されてきた。しかし、集中型では中央サーバーが全データを処理するため、ハッカーに狙われやすく、データ侵害が起こりやすいなどの欠点がある。そこで、ドイツでは分散型システムの「Decentralized Privacy-PreservingProximity Tracing(DP-3T)」を採用することが5月に決まった。分散型では、端末側でIDを匿名化してデータを処理するため、中央サーバーで扱うデータ量が最小限となり、GDPR(EU一般データ保護規則)の観点からも安全性が高いといえる。
国民の56%が使わなければ意味がない?
ドイツで著名なホワイトハッカー集団である「Chaos Computer Club( CCC)」 は、追跡アプリに完全性を求めないと述べている。その代わり、アプリを容認するための「最低条件」として、最低限達成されねばならない要件を提言している。例えば、透明性と検証可能性などの社会的要件、データの最小化や匿名性などの技術的要件である。
オックスフォード大学のビッグデータ研究所の調査では、国民の56%が追跡アプリを使用しなければ、あまり効果が得られないのではないか、と報告されている。ところが、4月に2258人のドイツ人を対象に行われたアンケート調査によれば、追跡アプリを使いたいと回答した人は44%にとどまった。
もしユーザーを一定数獲得でき、追跡アプリが効果的に機能すれば、ウイルスの拡大を抑えることができるだろう。しかし、望ましい結果を得るには、データの取り扱いにハイリスクが伴うことも念頭に置いておこう。
ドイツでは6月16日から追跡アプリを配信している