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少子化対策、奏功せず

経済協力開発機構(OECD)によると、2009年のドイツの出生率は1.36人。加盟国34カ国中31位という、極めて低い数字が出た。ドイツは、かねてから少子化対策に力を注いできた国の1つに挙げられる。それなのにどうして、子どもの数は一向に増えないのだろうか。今回はOECDの調査を参考に、出生率と少子化対策の関係を探ってみたい。

現金支給額ではトップクラス

ドイツは少子化問題に対し、さまざまな対策を講じている。特に重点を置いているのが、子どもを持つ家庭の経済的負担を軽減させること。子どもが18歳の誕生日を迎えるまで毎月支給される児童手当のほか課税上の優遇措置で、子ども1人当たりの支給額の合計は14万6000ユーロに上る。これはOECDの平均12万4000ユーロをはるかに超える、トップクラスの水準だ。

しかしながら、出生率はOECD平均の1.74人を下回る1.36人。それも韓国(1.15人)、ポルトガル(1.32人)、ハンガリー(1.33人)に次ぐワースト4位というありさまだ(→図表参照)。1980年は辛うじて1.56人(OECD平均2.18人)を記録したが、83年以降はずっと1.5人を下回り、この30年近くほとんど変化が見られない。長期にわたる多額の現金支援も、功を奏してはいないと言えよう。

2009年におけるOECD加盟国の合計特殊出生率
(quelle: OECD)
2009年におけるOECD加盟国の合計特殊出生率

保育所施設の拡充が鍵

少子化はドイツだけが抱えている問題ではない。ほかの国も同じように各種対策に試行錯誤している。その中でも特に結果を出しているのが、隣国のデンマーク。30年ほど前は今のドイツと同水準だった出生率も、現在は1.84人にまで伸びた。デンマークもドイツと同様、各種対策に多額の予算を割いている。その予算は、国内総生産(GDP)の3.67%で、フランスに次ぐ2位。ちなみにドイツは2.78%(OECD平均 2.23%)。

しかしその予算の使い道で、ドイツとデンマークに大きな違いが見られる。それはデンマークの現金支給額が1人当たり3万8000ユーロ程度と、OECDで最も低い国の1つであること。ドイツでは前述の通り、現金支給(税優遇含む)が政策の大半を占めているが、デンマークは育児と仕事の両立ができる環境を整えることに重点を置き、保育所や学校などの施設拡充により多くの費用を投じているのだ。

課題は仕事と育児の両立

ドイツでは保育・幼稚園不足が問題視され、小学校もほとんどが半日で終わる。子どもたちが昼食を自宅で食べるという状態では、母親の育児休暇後の復職も困難だ。「母親」の育児休暇というのが、自然な流れとなっている。ドイツでは女性の所得が男性の所得より平均25%少なく(OECD平均では女性が16%少ない)、これが「育児は女性の仕事」という構図につながってしまっているからだ。さらに子どものいる家庭で、父親か母親のどちらか一方のみに収入がある場合、税金面で優遇されることも、「母親」が仕事をあきらめる事態に“加担”している。また高学歴の女性ほど、子どもを持たない傾向が顕著に高いこと、また子どもがいる女性の生涯賃金は、子どものいない女性のそれより半分以上少ないこともそれを裏付けているように、少子化対策と、仕事と育児の両立という問題の間で根本的な矛盾が生じている。

ドイツは今後、出生率を効果的に上げていくため、デンマークの成功例を参考に、先に挙げた男女の所得格差問題などを改善し、保育園や幼稚園、小学校などの施設や受け入れ時間を拡大、充実させていく必要がある。OECDも幼稚園や小学校の拡充に集中して尽力するよう推奨している。というのも、両親が育児と仕事を両立できる環境を整えるという 理由だけでなく、家庭環境が異なっても教育面でのスタートに差がなければ、すべての子どもに平等のチャンスを与えられるからだ。十分な教育を受ければ、それが子どもの将来、そして国の将来に役立っていくと考えている。

ドイツの各種少子化対策

● 児童手当(Kindergeld)
子どもが18歳(学生の場合は25歳)になるまで保護者に支給される手当。1カ月当たりの支給額は現在のところ、第1、2子が 1人当たり184ユーロ、第3子は同190ユーロ、第4子以降は同215ユーロとなっている。非課税。

● 両親手当(Elterngeld)
「育児手当(Erziehungsgeld)」に代わり、2007年1月から導入された。育児休暇中の12カ月間は、休暇に入る前の手取り月収の67%(月額上限1800ユーロ)が支給されるというもので、仕事を持つ親をより支援するのが目的。またもう一方の親も育児休暇を取ると、支給期間が2カ月延長されることから、父親の育児休暇取得率も増えた。

● 児童控除(Kinderfreibetrag)
児童手当の代わりに受けることができる減税政策。高所得者が受けると有利になる。また共働きの夫婦より、片方のみが働いている夫婦の方が税負担が少ないという、共働きの魅力を大幅に軽減してしまう“不公平”な税制度(Ehegattensplitting)もある。これはほかの先進国では見られないドイツ特有の制度だ。

ドイツでは子育てを支援する各種政策のうち、減税による対策が全体の32%を占め、OECD平均の10%を大きく上回っている。現金支給も39%と高かったが、学校施設などへの投資はわずか28%。一方、本文で比較したデンマークでは学校施設などへの投資が全体の60%と大半を占め、現金支給はそれより低い40%。

用語解説

出生率 Geburtenrate

人口統計における出生数の割合で、OECDの調査では、1人の女性が一生の間に生むとされる子どもの平均数を導き出す合計特殊出生率(Total fertility rate=TFR)を用いている。人口を一定に保つためには、2.1人が必要。だが主に先進国では大学進学率の増加、女性の社会進出、子育てに掛かる経済的負担などを背景に、低下傾向にある。日本も1.37人と少ない。

<参考文献>
■ OECD „Doing Better for Families“ (4. 2011)
■ Die Welt „Viele Länder melden mehr Geburten – nur Deutschland nicht“ (28.04.2011)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Mittwoch, 19 April 2017 13:34
 

躍進する緑の党

日本の原発事故を背景に、ドイツでは反原発を掲げる緑の党が支持率を大きく伸ばしている。世論調査によると、2大政党の1つである社会民主党(SPD)を追い抜き、第2党へと躍り出た。実際、3月のバーデン=ヴュルテンベルク州議会選挙では歴史的勝利を収め、緑の党から初の首相が誕生することになっている。今回は、大躍進している緑の党について見ていこう。

環境政党

緑の党は、平和運動や女性解放運動などが盛んに行われていた1980年、当時の西ドイツで誕生した。緑色にひまわりが描かれているロゴからも分かるように、原発廃止のほか、 遺伝子組み換え作物に反対するなど、環境問題を党の方針としている。また党内に女性比率をいち早く導入し、女性の 社会進出にも取り組んできた。権力が1カ所に集中しないよう、連邦議会議員と党役員の兼任を規制していることも、同党の特徴となっている。

同党は83年に行われた総選挙で、議会入り。85年にはヘッセン州議会で初の政権参加を果たした。しかし東西ドイツ統一直後の90年に行われた総選挙では敗北。他党が統一問題に焦点を合わせていた一方、緑の党はこれまで通り環境問題に集中したことが災いした。その後、東ドイツの「90年連合」と合併して巻き返しを図り、98年にはSPDの連立パートナー として連邦レベルでの政権を担うまでに至った。同連立政権は2005年までの2期におよび、00年には、22年をもって原発を全廃すると決定。大きな足跡を残した。

うなぎのぼりの支持率

しかしキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)の現連立与党は昨秋、一転して原発の稼働期間 延長を決定。緑の党はこの“脱”脱原発政策を厳しく批判していた。福島第1原発事故が発生したのはそんな折。ドイツではそもそも反原発の動きが強かったが、国民の意識はこれ をきっかけにさらに高まり、反原発を訴え続けてきた緑の党の支持率も、同時に急上昇していった。

世論調査機関フォルサ(4月6日発表)によると、緑の党の支持率は28%。SPD(23%)を抜き、メルケル首相率いる CDU・CSU(30%)にも迫る勢いを見せている。逆にFDP は3%にまで低下。現連立与党はこのため過半数を失い、緑の党とSPD(これまでのようにSPDが率いる形ではなく、 緑の党がリードする形)による連立政権が支持された結果になった。

緑の党から連邦首相誕生も?

現に、3月下旬に行われたバーデン=ヴュルテンベルク州 議会選挙でも、緑の党が前回の倍となる24.2%を得票。第3党に交代したSPDと連立し、クレッチュマン氏が同党初の首相になる見通しとなっている。同州はこれまでの58年間、CDUが政権を担ってきた保守的な土地柄。緑の党はそんな州で、政権交代の立役者となったのだ。


© BÜNDNIS 90/DIE GRÜNEN

今年はちょうど、全16州中7州で議会選挙が行われる選挙の年で、首都ベルリンでも9月に市議会選挙が予定されてい る。このまま行けば、緑の党の連邦議会議員団長を務める キューナスト氏が、ヴォーヴェライト現市長(SPD)と交代するというのも、十分に考えられる筋書きだ。また州レベルだけでなく、連邦レベルで緑の党の首相が誕生する可能性 もある。次の総選挙は2013年──。

支持率急上昇が選挙年に、原発事故という特別な状況下で起こったということは、緑の党自身も冷静に受け止めている。周囲で緑の党の首相候補をめぐり憶測が飛び交う中でも、 浮き足立つような議論は行っていない。原発を廃止するのは 良いが、その後の電力供給はどうするのか。代替となる再生 可能エネルギーの拡大はどう促進していくか。原発廃止により不足する電力は、どうやって補っていけば良いのか。メル ケル首相は脱原発へと政策を戻し、さらに早期の原発廃止 を決めた。緑の党にとっても、「これから」こそが大きな課題となっている。

総選挙における緑の党の得票率(%)

※ 薄い色は議員獲得に必要な5%に満たなかった回

緑の党を率いるメンバー
  党首
クラウディア・ロート(Claudia Roth)

2004年から現職。55歳
© BÜNDNIS 90/DIE GRÜNEN
  党首
ジェム・エツデミール(Cem Özdemir)

ロート氏と共同党首を務める。ドイツ初のトルコ出身党首。45歳
© BÜNDNIS 90/DIE GRÜNEN
  連邦議会議員団長
レナーテ・キューナスト(Renate Künast)

元消費者保護相(2001~05年)。ベルリン市議会選では次期市長候補として、ヴォーヴェライト現市長に挑む。55歳
© gruene-bundestag.de
  連邦議会議員団長
ユルゲン・トリティン(Jürgen Trittin)

キューナスト氏と共同で連邦議会議長団長を務める。元環境相(1998~2005年)。56歳
© gruene-bundestag.de
用語解説

90年連合・緑の党 Bündnis 90/Die Grünen

緑の党の正式名称。1980年に西ドイツで結成された環境政党「緑の党」と、東ドイツの市民運動グループから誕生した「90年連合」が、93年に合併した。ハンブルク市議会ではGAL(Grün-AlternativeListe)と呼ばれる。2009年には4万5000人程度だった党員も、原発事故後は急激に増加、11年4月18日には5万5555人を超えた。

<参考文献>
■ Bündnis 90/Die Grünen Bundespartei(wwww.gruene.de)
■ Die Welt „Grüne auf dem Weg zur stärksten Partei“ (07.04.2011)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Donnerstag, 14 Januar 2016 13:06
 

会社役員の女性比率 - 法定の必要はあるか

フォン・デア・ライエン労働相(キリスト教民主同盟= CDU)が、会社役員に占める最低女性比率を法律で定める考えを示した。同相は7人の子どもを持つ母親でもあり、女性の社会進出に熱心に取り組む政治家の筆頭に挙げられる。しかし反対意見が多勢を占め、同じ女性党員であるメルケル首相、シュレーダー家庭相とも意見が対立している。今回はこの「女性比率」問題について見ていこう。

女性比率を法定

ドイツ経済研究所(DIW)によると、国内主要30社の取締役員のうち、女性が占める割合はわずか2.2%。欧州では最低水準で、さらに中国やブラジルといった中進国にも水をあけられている(→図表参照)。大学卒業者の51%が女性だというのに、このありさまだ。2001年にも問題となり、政府と各企業が女性役員の割合を増やすことで任意の合意に至ったが、この10年間ほとんど変化は見られていない。

各国主要企業の取締役に占める女性の割合(%)

Quelle: DIW(2010年)

そこでフォン・デア・ライエン労働相は、法的拘束力を与えることでその割合を確実に高めていこうと提案。主に上場企業を対象に、取締役および監査役会における女性比率(→用語解説)をそれぞれ最低30%に規定するとした。違反した企業には、制裁を科すことも盛り込んだ。さらに法律で定めることで、有能な女性の早期発掘、女性社員の育成強化が進むことを期待している。

“比率の女”を懸念

野党である社会民主党(SPD)および緑の党は、かねてから女性比率の導入に積極的で、それぞれ独自の目標値を掲げながら女性の登用を進めてきた。しかし肝心の与党からは、反対意見が相次いでいる。CDUの姉妹党キリスト教社会同盟(CSU)および連立を組む自由民主党(FDP)は、企業の自由を制限することになるなどとして断固拒否。メルケル首相も、企業の自主性に任せるべきだとし、法定比率には反対の立場を取った。さらに実際に管理職に就いている女性からも、女性の進出を促すためには比率よりも、保育所や全日制の学校の拡大、フレックスタイムの充実など、仕事と家庭を両立させるための対策の方が必要だという意見が上がっている。

また数字のせいで、女性役員が“比率の女”と見なされてしまう懸念もある。実力で役員になっても、正当に評価されないかもしれない。また数字を満たすために、適任ではない女性を仕方なく起用することになるかもしれない。女性比率の設定は男女同権に基づいた考えだが、女性優遇、つまり男性差別につながる危険性もあるのだ。会社にとっても女性にとっても、そして男性にとっても、数字は利益より害になるという見方が多い。

企業の自主性に期待

それでは、どうしたら良いのだろうか。シュレーダー家庭相は、各社に独自の女性比率の目標値を設定、発表させ、2年以内に実現するよう義務付ける考えを提示した。フォン・デア・ライエン労働相が提唱する法定女性比率には反対していないものの、メディア業界では女性の割合が比較的高く、鉄鋼産業では低いなど、業種によって男女比も異なると説明。そのため比率は一律にすべきではないとしている。家庭相は3月にも主要企業代表者などを招き、同案について話し合いを行っていく予定。

女性比率の設定も、期限付きで導入すれば有意義だとの意見もある。女性の登用が目に見えて増加するきっかけになるのは確かだからだ。そして今回の議論は実際、企業にも圧力を掛けることになった。ドイチェ・テレコムはすでに女性役員率を30%にまで引き上げる考えを発表していたが、ここに来てエネルギーのエーオンや自動車のBMWおよびダイムラー、自動車部品のボッシュなども、独自の目標値を自発的に発表し始めている。ダイムラーは早速実行に移し、同社初となる女性取締役員を迎えた。女性比率を法律で決められることは、企業にとっても好ましいことではない。法定比率問題は少なくとも、企業自らが少しずつ動き出すきっかけにはなったようだ。

ドイツ経済研究所(DIW)によると、2010年における主要30企業の取締役(Vorstand)の内、女性が占める割合はたったの2.2%(182人中4人)。上位100企業でも2.2%(490人中11人)だった。女性社長はゼロ。上位200企業まで広げて、ようやく3.2%(906人中29人)にまで増えるが、それでも女性の進出率が欧州内で最低レベルであることに変わりはない。女性社長もここに来てようやく、2人(医薬品のサンド・インターナショナル= 116位、イケア・ドイツ= 174位)になる。

監査役会(Aufsichtsrat)では、女性の割合が取締役よりも高い。上位200企業で10.6%、100企業で9.6%、30企業では13.1%だ。主要30企業の1つである化学メーカーのヘンケルでは、女性が会長を務めている。

監査役会に女性が多い背景に「共同決定法」がある。ドイツの会社は実際に業務を担当する取締役と、それを監督する監査役会の二重構造で成り立っており、さらに「共同決定法」に基づいて、監査役会の一部が従業員代表で成り立つという独特のシステムを取っている。そして女性役員の70%以上が、従業員からの代表だ。この関係で、主要企業の監査役会における女性の比率は欧州連合(EU)加盟27カ国の平均を1ポイント上回っている。

【ランキング】欧州各国主要企業の監査役会における女性の割合

1 フィンランド 26%
2 スウェーデン 26%
3 ラトビア 23%
4 スロバキア 22%
5 ルーマニア 21%
6 デンマーク 18%
7 オランダ 15%
8 ハンガリー 14%
9 ドイツ 13%
10 リトアニア 13%
11 英国 13%
EU27カ国平均 12%
12 チェコ 12%
13 フランス 12%
14 ポーランド 12%
15 ブルガリア 11%
16 ベルギー 10%
17 スペイン 10%
18 スロベニア 10%
19 オーストリア 9%
20 アイルランド 8%
21 エストニア 7%
22 ギリシャ 6%
23 イタリア 5%
24 ポルトガル 5%
25 キプロス 4%
26 ルクセンブルク 4%
27 マルタ 2%
用語解説

女性比率 Frauenquote

ノルウェーでは2003年、上場企業の監査役会における男女の比率を、それぞれ40%以上にすることを決定。02年は6%だった女性比率が、09年には目標値に達した。フランスでもこのほど監査役会および取締役の女性比率40%を決定。ほかスペイン、オランダなどでも導入、もしくは導入が決まっている。ちなみに女性首相を擁するドイツでは現在、14大臣のうち5人が女性(36%)。

<参考文献>
■ DIW Wochenbericht Nr. 3/3022 vom 18. Januar 2011
■ Der Spiegel“ Warum Deutschland die Frauen-Quote braucht” (Nr.5/31.1.11)
■ Die Welt
“ Vorzeige-Ministerinnen im Clinch über Frauenquote”(30.1.11),
“ Daimler holt erstmals Frau in den Vorstand”(15.02.11)ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Mittwoch, 19 April 2017 13:27
 

エコ社会には不要?!白熱電球が消える

2009年9月以来、店頭に並ぶ照明器具に大きな変化が生じている。暖かく柔らかい光が好まれてきた白熱電球が、効率の悪いものから順に廃止され、2012年9月以降は店頭から一切姿を消すことになっているのだ。理由は省エネルギー対策と二酸化炭素(CO2)排出削減のため。今回は、白熱電球廃止の背景とこれからの照明に光を当ててみよう。

白熱電球と環境問題

白熱電球は、導体を発熱させることによって生じる光を利用したもの。しかし発光率は極めて低く、光となっているのは全電力のわずか5%程度。残りの95%は熱として放出されているだけだ。

つまり消費電力が極めて多い。このことはまた、地球温暖化の原因とされるCO2をたくさん排出することになり、環境に非常に悪い影響を与える。そのため欧州連合(EU)は2008年、白熱電球の販売を禁止することに決めた。

EUは、少しの電力で長く使える効率の良い照明を「A」、反対に効率の悪いものを「G」として、7段階に分類。2009年9月には早速、Gクラス、Fクラスのほか、Eクラスの一部を廃止した。

今後も廃止の対象を拡大していき、2012年以降はA、B、Cクラスのみしか販売されないようになる。Dクラス以下の白熱電球はこのため、店頭から消えることになるのだ。白熱電球の廃止は、オーストラリアから始まり、現在はEUのほか日本もこれに倣うなど、世界的な傾向となっている。

省エネ照明の利点

白熱電球に代わって増えているのが、電球型蛍光灯。この蛍光灯は、白熱電球よりも75%も少ない電力で、同じ明るさを生み出すことができる。電力消費量が4分の1ということは、CO2排出量も4分の1。白熱電球をすべて電球型蛍光灯に変えると、EU全体で年間消費電力量を400億キロワット時(ルーマニアの年間電力消費量に当たる)も削減、年間1500万トンのCO2削減につながる計算だ。蛍光灯と言えば、明々とした光というイメージがあるかもしれないが、色温度も豊富に出ている。

また電球型蛍光灯は環境だけでなく、家計にもやさしい。電球型蛍光灯の価格は白熱電球の10倍と高いが、寿命も白熱電球の10倍程度長い。そのため、家の大きさや使用頻度によっても異なるが、最終的には年間約60ユーロの節約につながる。現在まだ使える白熱電球を処分する必要はないが、次の買い換え時にはエネルギー消費量の少ない照明(A、BもしくはC)を買うのが賢明だ。今後普及が進めば、商品価格も低下するだろう。さらなる負担減も期待できる。


©Initiative EnergieEffizienz / dena

問題点と課題

以上のように、2012年を待たずして、なるべく早く白熱電球を電球型蛍光灯に変えるメリットは十分にある。しかし、やはりデメリットもあるのだ。それは電球型蛍光灯には有毒な水銀(用語解説)が含まれているということ。白熱電球には水銀は含まれておらず、普通ごみとして処分できるが、電球型蛍光灯は商品取扱店に持って行くか、指定のごみ捨て場に運ぶなど、適切なごみ処理が必要になってくる。しかし実際、各家庭で正しく廃棄されているかどうかは、コントロールできない。1つ1つに入っている水銀は少量だが、今後普及が進めばその総量も増えていくことになる。環境保護のために白熱電球に取って代わることになった電球型蛍光灯が、環境に悪影響を及ぼしてしまっては本末転倒だ。そのため、白熱電球廃止を止めようとする動きもある。

また、さらに効率が良く、しかも水銀を含んでいない「LED(発光ダイオード)照明」(写真右)の開発も急速に進められている。ただ、現時点では白熱電球の代替となれるほどの技術にまでは達しておらず、環境対策にすぐさまつながるレベルでもない。しかし“将来の照明”として注目されていることは確かだ。さらなる技術の発展を期待するとともに、省エネ問題、地球温暖化問題、ごみ問題と、環境に対する我々消費者の意識も高めていかなければならない。

白熱電球 電球型蛍光灯 節約分
100ワット 20〜23ワット 192ユーロ
75ワット 15〜20ワット 144ユーロ
60ワット 11〜16ワット 118ユーロ
40ワット 7〜9ワット 79ユーロ
25ワット 5〜7ワット 48ユーロ
15ワット 3〜5ワット 29ユーロ

寿命が1万時間の電球型蛍光灯を使用し終えた場合(平均的な電気代1キロワット時24セントで計算)

照明の種類と比較
各照明器具のメリット(+)とデメリット(-)について比較してみよう。

● 白熱電球(Glühlampe)
=Dクラス以下

+ 安価
- 電力消費量多い
- 寿命は1000時間(約1年)

● ハロゲンランプ(Halogenlampe)
=C~Eクラス

+ ハロゲン技術を施した白熱電球で、機能や見た目などは白熱電球とほぼ同じ
+ 安価
- 白熱電球に比べ、わずか25~45%の省エネ
- 寿命は2000時間(約2年)

● 電球型蛍光灯(Kompaktleuchtstofflampen)
=A、Bクラス

+ 白熱電球に比べ、70~80%の省エネ
+ 寿命は1万時間(6~10年)
- 明るさの調節ができないものがある
- スイッチを入れてから完全に明るくなるまで、時間が掛かるものが多い
- 水銀を含む

● LED照明(Leuchtdioden-Lampen)
=A、Bクラス

+ 白熱電球に比べ、80%以上の省エネ
+ 寿命は1万5000時間(10年以上)
- 単価が非常に高く、現在のところ種類もまだ豊富ではない
- 周囲の温度に敏感
- 明るさの調節ができないものもが多い

用語解説

水銀 Quecksilber

1つの電球型蛍光灯に含まれる水銀の量は最高で5ミリグラム。電子体温計が普及する前に使われていた水銀式体温計に入っていたのが数グラムだったのに比べれば小量だが、毒性が強く、健康を害する恐れがある。使用の際に割れたりした場合は、窓を開けるなどして換気を良くする、肌への接触を避ける、掃除機は使わず、ぬれた布で拭き取ること(参考:Europälsche Kommission)。

<参考文献>
■ Europälsche Kommission (http://ec.europa.eu/energy/lumen/index_de.htm)
■ Deutsche Energie Agentur (dena)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Dienstag, 04 Juni 2019 17:57
 

緑の再生マーク誕生から20年

環境先進国と言われるドイツ。ごみの分別、再利用にい ち早く取り組んできたのが、そのゆえんだ。中でも商品を入れている包装材や容器の回収・再生を促す「緑のマーク(Der Grüne Punkt)」は、ごみリサイクルのシンボルとして、各国の手本にもなっている。今回は、今年で誕生から20年を迎えたドイツ生まれの「緑のマーク」について見ていこう。

包装廃棄物政令

「緑のマーク(→用語解説)」誕生のきっかけは、1991年に発効された「包装廃棄物政令(Verpackungsverordnung)」。増え続けるごみの山を減らすため、そして限りある資源を再利用するため、産業界、包装関連業界、流通業界に対し、パッケージ類の回収および再利用を義務付けたものだ。しかし衛生上、業務上の問題から、実際に小売店や製造元が回収・再生作業を行うのは難しい。そこで法令が発効される直前の1990年、代行業者として「デュアル・システム・ドイチュラント(DSD)」社が設立された。

DSDは「緑のマーク」をデザイン、商標化し、このマークを回収・再利用の義務対象となっている包装材や容器に印刷させることで、関連業者からライセンス料を徴収。これにより、緑のマークが付いたごみを無料で回収する形で運営している。ライセンス料は生産者側が商品価格に上乗せしているので、実際は消費者が負担している格好だ。月額にして、1人当たり1.90ユーロほどの計算になっている。


©Der Grüne Punkt - Duales System Deutschland GmbH

デュアル・システム

DSDの社名にもなっている「デュアル・システム」とは、これまで1つしかなかった自治体によるごみ処理に加え、企業によるごみ処理を平行して行うということ。自治体によるごみの回収は有料(各土地所有者に設置が義務付けられているごみ回収コンテナの容量や回収頻度により異なる)だが、企業が行う緑のマークの回収は、前述の通り無料。デュアル・システムの下ではつまり、ごみを分別すれば、ごみの有効利用に貢献できるだけでなく、有料で回収されるごみを減らすことで、家計の負担減にもつながることになるのだ。

緑のマークに対する住民の関心やごみに対する意識は、この20年で大きく変わった。世論調査によると、同マークの知名度は98%。デュアル・システム開始からしばらくはDSDが独占状態にあったが、知名度の上昇、回収・再生率の増加に伴い、現在では全部で9社が競合、総従業員数25万人を抱える市場に発展している。売上高は年間15億ユーロ。包装材・容器市場研究所(GVM)によると、昨年は85.7%のパッケージ類が有効利用された。

欧州26カ国で導入

DSDだけでもこの20年で包装材7800万トンを再生、それにより2300万トンの二酸化炭素(CO2)排出量を削減させてきた。昨年は275万トンを再利用、600億メガジュールの1次エネルギーおよび150万トンのCO2を削減している。この成果が評価され、今日では欧州26カ国が「緑のマーク」システムを導入。米国、アジア、アフリカでも導入を検討、計画している国が増えている。

批判的な意見ももちろんある。分別技術が今日ほど発展していなかったスタート時は特に、新しく作るよりもコストが掛かり、環境にも負荷を掛けているという意見が多かった。またデポジット制で回収されるビールのビンなど、何度も繰り返し利用できるビン容器の価値が保護されているかどうかを懸念する声も多い。

回収したごみの分別は手作業でも行われており、ごみ処理の効率化は、捨てる側の住民の協力なしには実現しない。正しく分別することはもちろん、例えば空き缶の中にヨーグルトの容器を重ねたりしないことで、分別作業の手間は大きく省ける。またヨーグルトの容器など、中身が食べ終わった状態であれば、洗う必要はない。水の無駄使いになるからだ。この機会にもう一度ごみの分別について見直してみたい。

再利用の基準値およびDSDが行った再利用率(2009年)

ドイツの一般家庭にあるごみ箱(コンテナ)は主に4種類。ごみの分別はどうなっている?

灰色コンテナ:燃やすごみ(Restmüll)
いわゆる“普通のごみ”で、最低でもこのコンテナは手配、設置しなくてはならない。設置、回収は有料。

茶色コンテナ:生ごみ(Biomüll)
食べ残しや、植物など。自宅の庭などで処理する場合は、設置しなくても良い。有料。

青色コンテナ:古紙(Altpapier)
新聞、ダンボール、紙類。道路脇などの公共の場に設置されている。灰色、茶色のコンテナとは異なり、設置の義務はないが、希望者は自宅にも設置することができる。無料

黄色コンテナ:容器・包装材(Grüner Punkt)
本文で取り上げたパッケージ類用のコンテナ。無料。ただし、ここに入れるのは缶類、紙パック(牛乳やジュースなど)およびプラスチック(シャンプーやヨーグルトなどの容器)のみ。コーンフレークの箱といった紙製のパッケージは上記「青いコンテナ」に、デポジット制で回収されないビン類は道路脇などに備え付けられている専用の回収コンテナへ。


プラスチックでも、おもちゃやボールペンなどは「普通ごみ」。黄色いコンテナはあくまでも包装用のみ。これは、黄色いコンテナの回収・処理が緑のマークのライセンス料で運用されているため、ライセンス料が支払われていない「商品」は対象外となるからだ。ただしいくつかの都市では“プラスアルファ”として、おもちゃや鍋なども一緒に回収する試験的プロジェクト「Gelbe Tonne plus」も行われている。また、パッケージ類は黄色い専用の袋に入れて捨てることもできる。袋は無料で配布されているが、こちらも同様、ライセンス料でまかなわれているので、ほかの用途には使わないように。
(注)ごみの分別は自治体によって異なることがあります。

用語解説

緑のマーク Der Grüne Punkt

濃い緑と薄い緑の2本の矢印が円を描いているデザイン。陰と陽をモチーフに作られた。「緑」のマークだが、パッケージの配色の関係で、緑ではないものもある。最近では同マークの商標権を持つDSD以外の会社も参入しており、必ずしも同マークを表示する義務はなくなったが、ごみ分別の際の識別マークとして一役買っている。日本にも「プラマーク」など容器包装識別表示がある。

<参考文献>
■ Duales System Deutschland GmbH (www.gruener-punkt.de) 
■ Die Welt "Im Recyclingzirkus" (22.11.2010) ほか
■ Bundesministerium für Umwelt, Naturschutz und Reaktorsicherheit (www.bmu.de)

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
最終更新 Donnerstag, 14 Januar 2016 13:07
 

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