日本の父と叔母が脳卒中で倒れているので、自分は脳卒中の家系ではないかと心配しています。脳卒中について詳しく教えてください。
Point
- 脳卒中は日本人の病気による死因の第3位
- 脳血管が破れる脳内出血
- 脳血管が詰まる脳梗塞
- くも膜下出血は脳動脈瘤の破裂が原因
- 疑ったら迷わず専門病院へ
- 脳内出血と脳梗塞の危険因子は生活習慣病
脳血管障害 = 脳卒中
● 「脳卒中」という言葉
脳卒中(Schlaganfall)は、古くは卒中風(そっちゅうぶ)と呼ばれていました(小学館「日本国語大辞典6巻」より)。「卒」には「にわかに」の意味があり、急に中風(半身不随の状態)になることを指します(大修館書店「大漢和辞典、巻2」より)。
● 日本人の病気による死因の第3位
がん、心臓病に次いで日本人の死因の3番目を占め、要介護・寝たきりに至る原因として最も多い病気です(厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」より)。
● 脳出血と脳梗塞
脳卒中は、①脳の血管が破れる脳出血(Hirnblutung、脳内出血、クモ膜下出血など)、②脳の血管が詰まる脳梗塞(Hirninfarkt、脳血栓、一過性脳虚血発作など)に分けられます。日本人の脳卒中の約75%は脳梗塞、20%が脳(内)出血、5%がくも膜下出血です(日本脳卒中データバンク報告書2018年より)。
脳出血と脳梗塞
● 症状は脳と反対側の身体に
身体の末梢神経と脳の中枢神経は途中で左右が交差しているため、障がいを生じた大脳と反対側の身体に症状が現れます(例えば、右脳の障がいでは左半身に)。
脳内出血(Intrazerebrale Blutung)
● どんな病気ですか?
脳内の細い血管が破れて血の塊(血腫、Hämatom)が直接的に脳にダメージを与えたり、脳圧を高めることにより、正常な脳を圧迫して障がいを起こします。
● 危険因子は高血圧 Bluthochdruck
脳内出血の多くに高血圧が関係します。高い圧力が絶えず血管壁に加わり、血管が脆くなっているためです。「高血圧性脳出血」とも言われます。また、治療に用いられている抗血栓治療が出血の危険因子となることも指摘されています(日本脳卒中学会の脳卒中治療ガイドライン2015「追補2019」より)。
● 出血部位と症状
大脳の出血(被殻出血、視床出血、皮質下出血)では、運動と知覚の麻痺(Lähmung)を生じます。小脳出血では、めまいや運動失調(Ataxie)が見られます。脳幹部の「橋」は生命維持に必要な機能を持っていることから、「橋出血」は生命に関わることが少なくありません。どの部位の出血でも、意識障害(Bewusstseinsstörung)のある場合の予後は予断を許せません。
● 脳内出血の治療
血圧のコントロール、脳浮腫の予防が基本。小さな出血の場合、血液はやがて自然に吸収されますが、出血が多い場合には内視鏡下、もしくは開頭による血腫除去が行われます。脳圧が亢進し脳ヘルニアが危惧される場合には、手術により減圧を図ります。
脳梗塞(Hirninfarkt、ischämischer Schlaganfall)
● ラクナ梗塞(微小脳梗塞)
動脈硬化などで非常に細い血管(穿通枝)が詰まり、1.5センチ以下の小さな梗塞像(Lakunäre Infarkte)を生じます。日本(アジア)人に多いとされる脳梗塞です。
● アテローム硬化による脳梗塞
血管内にできたプラーク(コレステロールを中心とした血管内の粥状の塊)に傷が入って血栓(血の塊、Thrombus)ができ、血流を遮断することにより発症します(アテローム血栓性脳梗塞)。半身の運動麻痺(片麻痺、Lähmung)などが見られます。
● 心臓にできた血栓による脳梗塞
心房細動、弁膜症などによって心臓内にできた小さな血栓が血流に乗って脳血管まで流れ、脳の血管を詰まらせてできる脳梗塞です(心原性脳塞栓症)。
● 脳梗塞の治療
発症後数時間以内の早い時期に血栓を溶かす薬を用いたり(血栓溶解療法)、場合によってはカテーテルという細長い管を用いて血栓を取り除く方法(脳血管内血栓回収療法)があります。
一過性脳虚血発作(TIA、transitorische ischämische Attacke)
● 短時間だけの血流障害、しかし……
脳梗塞と同じ症状が短時間(数秒〜24時間)だけ見られ、再び元に戻ります。3カ月以内に脳梗塞を発症する危険性が高く(2007年の米国医師会誌より)、症状が消えても注意が必要です。
● 脳梗塞を発症するリスク計算
年齢、症状の期間、麻痺や言語障害の有無、高血圧や糖尿病の有無などをスコア化して、2日以内に脳梗塞が生じるリスクを予測することができます(例えば、ABCD2スコア、前述の脳卒中治療ガイドライン2015「追補2019」より)。
● TIAの治療
症状のある急性期は脳梗塞と同じ治療が行われます。発作消失後は前記のABCD2スコアなどの脳卒中予測リスクを考慮して、抗血小板作用のあるアスピリンの少量投与が行われます。
くも膜下出血(Subarachnoidalblutung)
● 脳動脈瘤の破裂が原因
多く(80〜90%)は脳血管にできた血管の「こぶ(脳動脈瘤、Aneurysma)」に急な圧負荷が加わり、破裂して発症します。日本人では、欧米人には少ない「もやもや病(Moyamoya Erkrankung)」や脳動静脈奇形が原因になることもあります(10〜20%)。
● バットでなぐられた? 突然の頭痛
突然バットで頭を殴られたような強烈な頭痛が特徴です。くも膜下出血全体での死亡率は10~ 67%と高く(日本脳卒中治療ガイドライン2009より)、一般に意識障害を伴う場合の予後はよくありません。
● くも膜下出血の治療
24時間以内に再破裂する確率が特に高いため、できるだけ早く出血源の動脈瘤を見つけて処置します。治療としては、①血管内から動脈瘤内にプラチナのコイルを詰めて閉じる方法(Coliling)、②開頭して動脈瘤の根本にクリップをかける方法(Clipping)があります。
治療とリハビリ(Rehabilitation)
● 急性期の早期治療が重要
診断と治療開始が早いほど良い効果が得られます。脳卒中を疑わせる症状が見られたら、すぐに救急車(Krankenwagen)にて専門病院(Krankenhaus)を受診してください。
● 機能回復をめざす
意識障害がなく、血圧、呼吸、体温などが安定していれば、早い時期から座位、ベッドからの起立、移乗動作、歩行訓練へと進めていきます。廃用症候群を予防し、日常生活の基本的な活動(ADL)の向上と早期の社会復帰を図るためです(脳卒中治療ガイドライン2009より)。
● 脳の可塑性(かそせい)
脳細胞が一旦死滅するとその領域の機能は失われますが、リハビリにより脳への刺激を続けると周りの脳細胞が役割を代替して機能を回復する「脳の可塑性」(neuronale あるいはKortikale Plastizität)という特質があります。失われた機能の回復がリハビリによって期待できるのはこのためです。
脳卒中予防のために
•血圧の管理
•脂質値の適正化(国際基準)
•糖尿病があればコントロール
•十分な睡眠と休養
•適度な運動を続ける
•むやみに急に興奮して怒らない
•くも膜下出血の家族歴があれば留意
•心房細動、弁膜症は専門医に相談