ジャパンダイジェスト
特集


クラシックの本場で特別な時間を欧州の音楽祭に行こう!

ドイツやオーストリア、イタリアなど、クラシック音楽の発祥の地であり、数々の音楽家たちを生んできた欧州では、毎年さまざまなクラシック音楽の祭典が開催されている。本特集では、そんな欧州を代表する音楽祭について、その歴史や見どころを一挙にご紹介。クラシック音楽の本場である欧州の音楽祭に出掛けて、思う存分その世界に浸ろう!(文:英国・ドイツニュースダイジェスト編集部)

ドイツ ドイツBayreuther Festspieleバイロイト音楽祭

バイロイト音楽祭バイエルン王ルートヴィヒ2世からも資金を借りて完成した祝祭劇場

リヒャルト・ワーグナーのオペラ作品に特化した音楽演劇祭。バイロイトの緑の丘にある祝祭劇場で開催され、毎年7月末〜8月末の約1カ月間続く。劇場はワーグナー自ら建築家のオットー・ブリュックヴァルトと協力して建設したもので、1875年に完成。ワーグナーの思い描く世界観を完璧に上演できる会場に仕立てた。豪華さや華やかさの代わりに実用性を重視し、唯一無二の音響効果につながっており、毎年約5万8000人の来場者を魅了する。チケットの競争率が高いので、前年の12月からウェブサイトをチェックするのがお勧め。ぜひワーグナーの世界を堪能してみては?

2024年の開催日程: 7月25日(木)〜8月27日(火)
www.bayreuther-festspiele.de

ドイツ ドイツDresdner Musikfestspieleドレスデン音楽祭

ドレスデン音楽祭
ゼンパーオーパー専属楽団のシュターツカペレ・ドレスデン
ドレスデン音楽祭
音楽祭独自のオーケストラであるドレスデン祝祭管弦楽団

東ドイツ時代に始まったドレスデン音楽祭は、毎年5~6月に1カ月かけて行われる欧州最大で最も有名なクラシック音楽祭の一つ。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団などの名だたるオーケストラのほか、国際的に有名なソリストやアンサンブルが招待され、トップクラスの音楽を堪能することができる。また2012年以降は音楽祭のために創立されたドレスデン祝祭管弦楽団が、ロマン派音楽に焦点を当てた演目で音楽祭を盛り上げている。さらにジャズやロック、ポップスなどのプログラムも充実。ゼンパーオーパーをはじめとした歴史的な文化施設など市内20会場で行われ、街を挙げてのお祭りとなっている。

2024年の開催日程:5月9日(木)~6月9日(日)
www.musikfestspiele.com

ドイツ ドイツBeethovenfestベートーヴェン音楽祭

ベートーヴェン音楽祭
2023年のオープニングではドヴォルザークのチェコ協奏曲が演奏された
ベートーヴェン音楽祭
マルクト広場では年齢や経験にかかわらず演奏に参加できるフラッシュ・モブ企画も

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの生まれ故郷ボンで毎年開催されるベートーヴェン音楽祭。1845年にフランツ・リストによって始められ、ドイツで最も古い音楽祭の一つに数えられる。交響曲第9番で歌われる「歓喜の歌」に「人類みな兄弟」という一節があるように、近年、本音楽祭は多様性にフォーカスした21世紀にふさわしい祝祭を目指している。そのためクラシック音楽にとどまらず、ジャズや参加型コンサート、ダンス・イベントなど、多様なプログラムが用意される。2024年のプログラムは4月に発表される予定。またボンにはベートーヴェンの生家が博物館になったベートーヴェン・ハウスもあるため、ファンなら併せて訪れたい。

2024年の開催日程: 9月5日(木)~10月3日(木)
www.beethovenfest.de

英国 英国BBC PromsBBCプロムス

BBC Proms
主な会場となるロイヤル・アルバート・ホール
BBC Proms
毎年恒例、最終日にハイド・パークで行われる「プロムス・イン・ザ・パーク」

ロンドンの中心部に位置するロイヤル・アルバート・ホールで、華やかに幕を開ける世界最大級の音楽祭、BBCプロムスは英国では夏の風物詩。世界に名だたる演奏家やオーケストラが約2カ月間、毎日演奏を繰り広げる。この音楽祭の魅力は、筋金入りのクラシック音楽ファンだけでなく、普段はあまり音楽を聴かないという人や小さな子どもまで、ありとあらゆる人を楽しませるユニークなプログラムにある。毎年趣向を凝らした構成になるので今年も期待したい。最終夜の様子は全英各地の公園でパブリック・ビューイングが開催されるので、親しい人たちとピクニックがてら楽しめる。

2024年の開催日程: 7月19日(金)~9月14日(土)
www.bbc.co.uk/proms

英国 英国Glyndebourne Festivalグラインドボーン音楽祭

グラインドボーン音楽祭
東京ドーム約1個分の12エーカー(4万8562平方メートル)もある立派な庭園
グラインドボーン音楽祭
1200席を有するオペラ・ハウスで連日さまざまな演目が上演される

演劇プロデューサーであり、音楽をこよなく愛したジョン・クリスティとオードリー・ミルドウェイ夫妻によって始められたイングランド南東部ルイスのオペラの音楽祭で、今年で90周年を迎える。初期はモーツァルトのオペラ作品を中心に上演されていたが次第に多様化し、今年は5作品が上演される。毎年ソールド・アウトが続出し、チケットの入手困難な音楽祭としても知られている。観客はドレスアップが求められ、特に男性は黒の蝶ネクタイが伝統の装いだ。開演2時間前に開場されるので、広大な庭園を散策したり、併設のギャラリーを訪れたりとオペラ以外の楽しみも盛りだくさん。90分のインターバルでは、庭園でのピクニックやレストランでの食事を楽しみ、1日を通して優雅に時を過ごすことができる。

2024年の開催日程: 5月16日(木)~8月25日(日)
www.glyndebourne.com

フランス フランスChorégies d'Orangeオランジュ音楽祭

オランジュ音楽祭古代劇場の舞台のハイライトは公共テレビで放送される

ショレジ・ドランジュは、1869年に始まったフランス最古のお祭りで、1971年に現在のオペラとクラシック音楽の祭典という形になった。名称はギリシャ語の「コレゴス」(合唱団がお祭りのために集結すること)で、古代ギリシャ・ローマの悲劇の源流に立ち返るとともに、当時のフランス人劇作家を奨励する目的で行われるようになった。現在も叙情的なオペラ、音楽を中心に演目が選ばれている。この音楽祭の最大の魅力は古代ローマの遺跡であるオランジュの古代劇場を中心にして行われること。劇場全体が石で造られているため、屋外の劇場にもかかわらず卓越した音響効果があるという。世界でも類を見ない遺跡の舞台は一見の価値あり。

2024年の開催日程: 6月14日(金)~7月22日(月)
https://www.choregies.fr

フランス フランスFestival d'Aix-en-Provenceエクサンプロヴァンス音楽祭

エクサンプロヴァンス音楽祭アルシュヴェシェ劇場の中庭のパフォーマンスは圧巻

1948年、音楽家であり後援者でもあるリリー・パストレ伯爵夫人の援助により、音楽活動を奨励することを望んだガブリエル・デュスルジェによって創設された音楽祭。モーツァルトの初期作品や有名なオペラ作品、現代作品、バロックの傑作の再発見など、非常に多様なプログラムとなっている。若い才能の発掘にも力を入れており、芸術創作の分野に新たな地平を切り開くことを目標としている。アルシュヴェーシェ劇場、プロヴァンス大劇場、ジュ・ド・ポーム劇場、オテル・メイニエ・ドペードなど、アイコニックな会場で上演が行われ、音楽祭を通してオペラに現代的な息吹が感じられる。

2024年の開催日程: 7月3日(水)~23日(火)
https://festival-aix.com

オーストリア オーストリアSalzburger Festspieleザルツブルク音楽祭

ザルツブルク音楽祭かつて指揮者のカラヤンが芸術監督に就任したことも有名

ザルツブルクでは毎年7月から8月にかけて、祝祭劇場のあるホーフスタールガッセの通りとバロック様式の旧市街全体が、オペラ、演劇、コンサートのための祝祭の舞台へと変貌する。音楽祭が誕生したのは1920年8月22日。マックス・ラインハルト演出による詩人フーゴー・フォン・ホーフマンスタールの道徳劇「イェーデルマン」がドーム広場で上演されたのが始まりだ。その1年後には、オーケストラと室内楽のコンサートが追加上演されることになり、1922年にはモーツァルトのさまざまなオペラが初めて上演されるなど、今日まで残る演劇、コンサート、オペラの三つの礎を築く。モーツァルトからモダニズム、そして古典的な解釈から前衛的な試みまで、幅広い芸術プログラムを堪能できる。

2024年の開催日程: 7月19日(金)~8月31日(土)
www.salzburgerfestspiele.at

オーストリア オーストリアWiener Festwochen 2024ウィーン芸術週間

ウィーン芸術週間ウィーン市庁舎前で行われる華やかな開会式

第二次世界大戦直後、オーストリアがまだ連合国4カ国の軍による占領統治を受けていたときに創設されたフェスティバル。ナチス・ドイツに統治されていた時代のイメージを払拭し、首都ウィーンに新しい文化を創造する目的で始められた。芸術による世界に開かれた都市をモットーに、クラシックやオペラばかりでなく、演劇、パフォーマンス、美術など、ジャンルを超えたアーティストたちが一堂に会する。若手に門戸が開かれており、現代の社会的な課題にも目を向けたプログラムが多いのも特徴だ。例年、開会式はネオ・ゴシック建築で知られるウィーン市庁舎前の広場で盛大に行われる。

2024年の開催期間: 5月17日(金)~6月23日(日)
www.festwochen.at

イタリア イタリアMaggio Musicale Fiorentinoフィレンツェ五月音楽祭

フィレンツェ五月音楽祭今も音楽祭の顔としてタクトを振るズービン・メータ

今年で86回目を迎えるフィレンツェ五月音楽祭は、イタリアの名指揮者ヴィットリオ・グイによって創設された、オペラを中心にしたフェスティバル。1985年からは巨匠ズービン・メータを首席指揮者に迎え音楽祭を発展させてきた。会場は音響の良さで知られるコムナーレ劇場、2011年にオープンしたばかりの新オペラ劇場、そして1656年からの歴史を誇りヴェルディの「マクベス」が初演された場所でもあるペルゴラ劇場の3カ所。オペラに詳しくなくても、古都フィレンツェにふさわしい重厚かつきらびやかな劇場の中に身を置くだけでも価値があるといえそう。また、オペラ作品以外にも若手のミュージシャンや作曲家による演奏もあり。

2024年の開催期間: 4月13日(土)~6月13日(木)
www.maggiofiorentino.com

イタリア イタリアArena di Verona Festivalアレーナ・ディ・ヴェローナ音楽祭

アレーナ・ディ・ヴェローナ音楽祭夏の夕暮れを彩る「カルメン」のステージ

古代ローマの円形闘技場跡地、アレーナ・ディ・ヴェローナで毎年開催される野外音楽祭。101回目を迎える今年は、オペラの巨匠ジャコモ・プッチーニの死から100年、演出家ジャンフランコ・デ・ボシオの生誕100周年に当たるため、この2人にオマージュを捧げたプログラム構成となっている。「カルメン」や「トスカ」をはじめとした7本のオペラのほか、午後9時過ぎからのイブニング・プログラムも用意されている。野外で行われる利点を生かした、雰囲気満点のステージとなるはずだ。昨年12月にはイタリアのオペラ歌唱がユネスコ無形文化遺産に登録されたばかり。本場イタリアでオペラの魅力に触れてみてはいかがだろうか。

2024年の開催期間: 6月8日(土)~9月7日(土)
www.arena.it/en/arena-di-verona

スイス スイスLucerne Festivalルツェルン音楽祭

ルツェルン音楽祭
メイン会場はさまざまな音響に対応したKKLコンサート・ホール
ルツェルン音楽祭
2023年には96歳の指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットも登場した

春に2回、夏に1回、秋に1回とほぼ1年を通して音楽祭を開催する、オーケストラによるコンサートやリサイタルが堪能できる世界有数のクラシック音楽祭。メインは夏のコンサートで、今年のテーマは「好奇心」(Neugier)。より多くの人にクラシック音楽のコンサートを楽しんでもらうために導入された、長過ぎず短過ぎずな入場無料のコンサート「40分」シリーズや小さな子どもも鑑賞できる家族向けのプログラムなど、クラシック音楽に興味を持つきっかけとなるような演出が多数用意されている。今年は2022年に同音楽祭でデビューを果たし、3年連続の公演となるピアニストの藤田真央さんが招待されている。

2024年の開催日程: 8月13日(火)~9月15日(日)
www.lucernefestival.ch

チェコ チェコPražké jaroプラハの春音楽祭

プラハの春音楽祭
オープニング・コンサートは市庁舎内のスメタナ・ホールで開催される
プラハの春音楽祭
パイプオルガンなどの荘厳な音色をカジュアルな雰囲気の中で鑑賞できる

チェコスロヴァキアがナチス・ドイツから解放されてわずか1年後に、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団創立50周年を記念して創設された、管弦楽と室内楽の国際音楽祭。同音楽祭は、チェコで生まれた音楽と国内での音楽活動の促進を目的とした30歳以下の若手演奏家が出場できるコンクールが組み込まれているのが特徴だ。1994年以降、国内の作曲家に依頼した新作が課題曲となり、毎年優れたチェコ音楽が生まれている。プラハの春音楽祭は、毎年チェコの作曲家ベドルジフ・スメタナの命日に「ヴルタヴァ」(モルダウ)を含む「わが祖国」の演奏で幕を開ける。今年は、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が出演予定。

2024年の開催日程: 5月12日(日)~6月3日(月)
https://festival.cz

フィンランド フィンランドSavonlinnan Oopperajuhlatサヴォンリンナ・オペラ・フェスティバル

サヴォンリンナ・オペラ・フェスティバル
2023年はドラマチックなセットで観客を魅了した「魔笛」が上演
サヴォンリンナ・オペラ・フェスティバル
1900年初頭の帝政ロシアを舞台にした躍動感あふれる米国発のミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」

古典作品や世界初演作品、また著名なオペラ・ハウスの公演を観に、毎年約7万人が訪れるオペラ・フェスティバル。会場は現存する中世の城で世界最北にあるオラヴィ城だ。湖水地方独特の風光明媚な景色と、優れた音響効果を生み出す城内の講堂での公演は、訪れた人に感動の時間を与えるだろう。周辺各国による支配が長年続いたフィンランドだが、同フェスティバル創設時は国家独立の機運が高まった時期で、1912年の第1回目では同国で生まれたオペラ作品が多数上演された。しかし第一次、第二次世界大戦やフィンランド内戦など度重なる戦争による財政難で、約40年もの間休催を余儀なくされた歴史を持つ。1967年に復活を遂げ、今では世界中に多くのファンを持つフェスティバルとなった。

2024年の開催日程: 7月5日(金)~8月4日(日)
https://operafestival.fi
最終更新 Mittwoch, 21 Februar 2024 15:23
 

音楽祭に行く前の準備に!クラシック音楽をもっと楽しむヒント

「クラシック音楽の聴き方が分からない」「音楽祭でのマナーや服装は?」「事前知識がないと楽しめないのでは?」……そんなクラシック音楽初心者の方に向けて、登録者20万人超えの人気YouTubeチャンネル「厳選クラシックちゃんねる」のnacoさんが、クラシック音楽をもっと身近に感じ、コンサートを思う存分味わう方法を伝授。nacoさんのお勧め動画で楽しく予習をして、音楽祭へと出掛けよう!

お話を聞いた人 nacoさん
厳選クラシックちゃんねる

会社員として勤務するかたわら、2020年4月にYouTubeチャンネル「厳選クラシックちゃんねる」を開設。クラシック音楽の作曲家や音楽史についての分かりやすい解説で人気を集め、2024年1月現在のチャンネル登録者数は20万人超え。YouTubeでの発信のみならず、クラシック・コンサートの企画やMC、エッセイの執筆など、活動の場を広げている。
www.youtube.com/@nacoclassic

Q: そもそもnacoさんがYouTubeを始めたきっかけは?
A: 自分の「好き」を広めたいという気持ちから

YouTubeを始めたのは2020年で、ちょうどコロナが蔓延した年でした。私はそれまで外に出掛けることが好きだったので、家にいる時間をどんなふうに使おうかなと思っていたときに、知人がYouTubeをやり始めて。面白そうだから私もやってみたい! と思ったのがきっかけでした。自分の好きなことで、かつ自分のための勉強になって、発信することで誰かにとっても有益になるもの……。そう考えてたどり着いたのが大好きなクラシック音楽でした。そして2020年の4月に「厳選クラシックちゃんねる」を立ち上げ、今に至ります。

Q: 数ある音楽祭プログラムの中から、どのようにコンサートを選べば良いですか?
A: 「誰が出演するか」「何を演奏するか」「どこでやるか」などから考えてみて

コンサートを選ぶ基準は、言ってしまえば人それぞれだと思います。あえて私が初めて音楽祭に行った際のことを思い返してみると、まずは「誰が出演するか」「何を演奏するか」で探しましたね。この指揮者や演奏家を知っているとか、名前を聞いたことがあるとか。また、自分の好きな曲、生演奏で聴いてみたいと思うプログラムを選びました。もちろん反対に、全く知らない曲を聴くという楽しみ方もあると思います。

また特に欧州の場合ですと、「どこでやるか」も大きなポイントですよね。例えばバイロイトのあの祝祭劇場でコンサートを聴くという体験には、ものすごく価値があると思うんです。単に音楽の響きが良いかということだけでなく、歴史ある歌劇場や、面白い建築のコンサート・ホールなど、場所から感じる特別感を味わえるかどうか。それもコンサート選びの基準の一つかなと思います。

Q: nacoさん自身は欧州各地のコンサートを回る際、どんなふうに過ごしていますか?
A: 音楽祭だけでなく、開催地の風土や文化も一緒に味わう

私の場合は、結構コンサート漬けにしてしまうんですよね(笑)。まずは自分が現地にいる間のコンサートの開催プログラムをチェックして、どの演奏会に行きたいかを優先して旅程を組んでいく。なので割と非効率な移動の仕方になってしまっているかもしれません。とはいえ現地に着いてからは、演奏会の前後でその土地のおいしいものを食べたり、音楽に限らずその場所の文化を感じられる場所に行ったりしますね。曲としてアウトプットされたもの、演奏されたものだけでなく、それを育んだ土地の風土を一緒に味わいながら、その空気感の中で音楽を聴く。これこそ、欧州で音楽祭を回る際の醍醐味になるのではないかなと思います。

Q: 音楽祭を訪れる際の服装やマナーは?
A: 訪れる音楽祭の歴史や価値観によってそれぞれ

演奏会での服装やマナーについて、私は音楽祭の歴史や特徴によってそれぞれ違いがあるように感じています。例えば同じ欧州でも、バイロイト音楽祭の場合は「バイロイト詣」といわれるように、夏なのにタキシードやドレスなどで来ている人が多くて。そうした正装でワーグナーの聖地を巡礼することが、ファンたちの楽しみ方の一つだったり、場合によってはステータスだったりします。反対にBBCプロムスは、席によってはものすごくカジュアルで、寝転んで聴くこともできます。そのため服装やマナーは、これという正解があるというよりも、その音楽祭がどういう価値観で運営されているか、どんな人にどんなふうに楽しんでもらいたいか、どのような歴史から始まったかなどによって結構違いがあるような感じがします。

もし服装やマナーについて心配という方がいれば、事前に音楽祭の様子を少し調べてみるのが良いと思います。平均的には、オフィス・カジュアルと呼ばれるようなレベルの服装であれば、大体どこの音楽祭に行っても浮かないかな。着物やドレスなどでしっかりおしゃれをしている人もいらっしゃいますが、私はほとんどの場合、カジュアルな普段着で行きますね。

バイロイト音楽祭正装でバイロイト音楽祭を訪れる人々

Q: お勧めの座席はありますか?
A: コンサートで自分がどんな体験をしたいかで選ぶと◎

どの席が良いか悪いかというよりは、どんな体験をしたいか、行く人の価値観によって選ぶのが良いと思います。席によってチケットの価格が違うのですが、例えば安い価格の席でなるべくたくさんのコンサートを回りたいという人と、できるだけ近くでオペラ歌手の服装や表情、演技が観たいという人では、選ぶ席も変わってきますよね。あるいはポディウム席(演奏者の後ろに設けられた席)から、指揮者の表情やオーケストラの動きを見たいという人もいます。

私は以前、イタリアのスカラ座に3日間連続で行ったのですが、天井桟敷、ボックス席、アリーナ席と毎日違う席を取ってみました。それぞれの席で違いがあってどの日も楽しかったです。オペラ座の歴史を調べたら、かつてボックス席は貴族の所有物、いうなれば不動産だったんですね。内装も所有者の自由に施してあって、それが今でも残っているところもあります。一方のアリーナ席は、今でこそ舞台がバーンと見えてチケットの価格が一番高い席として販売されることも多いのですが、昔は一般市民たちが立って聴くところでした。このように時代によっても文化や価値観が変わっているのを見ると、「どの席が一番良い」という正解はないのだと思います。逆に言えば、どの席でも楽しめるポイントがあるので、自分が何を観たい・聴きたいかによって選んでみてください。

ミラノのスカラ座のイラスト1900年ごろのミラノのスカラ座

Q: nacoさんが今年注目する音楽祭は?
A: ヴェローナの野外オペラフェスティバル!

今年めちゃくちゃ行きたいのが、ヴェローナの野外オペラ・フェスティバルです。前回が第100回で盛大なお祝いムードだったのですが、2024年は次の100年に向けての第1回目。新しい100年の始まりという意味でも特別ですし、さらに2024年はこのフェスティバルの監督を務めた演出家のジャンフランコ・デ・ボシオの生誕100周年、さらにイタリア・オペラの巨匠ジャコモ・プッチーニの没後100周年にも当たります。まさにイタリアのオペラ界が沸きに沸くメモリアル・イヤーなのです。

ほかにも私の動画「死ぬまでに行きたい音楽祭ベスト7」でご紹介していますが、ザルツブルク音楽祭やバイロイト音楽祭、BBCプロムスなどもいいですよね。

プッチーニの傑作オペラ「トゥーランドット」フェスティバルで上演されたプッチーニの傑作オペラ「トゥーランドット」

Q: ずばりnacoさん流のコンサートの楽しみ方とは?
A: コンサートを聴いているときの「自分」にも耳を傾けてみる

クラシックの演奏会にはいろいろと楽しめる要素があると思いますが、もちろん聴き方に正解があるわけではないと思います。私自身がどういう風に楽しんでいるかを考えると、音楽を聴きながらも、同時に聴いているときの自分を味わっているような感じがします。演奏会中、全然音楽と関係ないことを考えていることもあるし、ちょっと落ち込んだ気分でホールに来たけれど、聴いているうちにいつの間にか楽しいことを考えていたりとか。音楽を聴きながら、自分の中に起こる変化みたいなものを楽しんでいると思うんですよね。

そういう意味では、自分にとってのコンサートへ行く醍醐味は「ゆとり」を持つことなのかもしれません。特に現代では、多くの人が忙しく働いているし、とにかく時間がない。そういうなかで演奏会へ出掛けて、ゆっくり腰を据えて数十分〜数時間の音楽を聴くってとてもぜいたくなことだと思います。しかもクラシック音楽は、聴けば聴くほどいろいろなことが分かってくるので、心や時間に余白が生まれることで、自分の中で音楽がもっと豊かになっていくような感じがします。

もちろんこの体験が録音されたものでできないわけではありませんが、コンサートは本当に一期一会。音楽がその場で立ち現れては消えていく空間と時間のなかで、自分が何を感じているのかを味わうのは、私にとって特別な時間です。聴いたまま、感じたままでいいし、あまり難しいことを考えずに、皆さんにも自分らしくクラシック音楽を楽しんでいただければと思います。

Information
絶対知ってる!厳選クラシックコンサート Vol.3
2024年7月18日(木)
会場:サントリーホール 18:00開場、19:00開演
「クラシックを、もっと身近に。」をモットーに活動するnacoさんが企画する、誰もが一度は聴いたことがある曲を集めたコンサート。nacoさんのクラシック愛あふれるMCと、国内外で活躍する若手音楽家たちによる新進気鋭のオーケストラ「タクティカートオーケストラ」がコラボレーションし、クラシック音楽初心者でも気軽に楽しめる演目をお届けする。
コンサートの詳細:www.tacticart-orchestra.com/gensen3

初心者必見!厳選クラシックちゃんねるのお勧め動画3選

死ぬまでに行きたい!音楽祭Best7

世界中で開催されている音楽祭の中から、タイトルの通りnacoさんが「死ぬまでに行きたい!」音楽祭を、その歴史や見どころと共に解説する。さらに、日本国内で開催されるクラシック音楽祭についても魅力を紹介。

初めてのクラシックコンサート

「ドレスコードってある?」「拍手のタイミングは?」「遅刻はOK?」など、今さら聞けないコンサートのマナーや注意事項などを初心者向けに解説。初めてコンサートに出掛けるという方も、この動画を見れば準備万端。

初めてのオペラ

ドラマと音楽が融合した「総合芸術」としてのオペラ。その成り立ちをはじめ、お勧めの予習方法や、座席の選び方などを解説。オペラの物語の内容や、劇中の有名曲など、どのオペラを観劇するか選ぶための参考にも。



最終更新 Mittwoch, 21 Februar 2024 15:17
 

本を借りるだけじゃない
市民の新たな憩いの場
ドイツの図書館ガイド

昨今、ドイツの図書館は来館者の居心地を良くする工夫がなされ、本の貸し出しにとどまらないさまざまな取り組みを行っているところが増えている。またドイツ各地には、伝統的な建物から美しいモダン建築まで、一度は訪れてみたい図書館が数多く存在する。本特集では、もっと気軽に図書館を利用したり、旅行で各地のすてきな図書館を巡ったりできるよう、ドイツの図書館の魅力をお届けする。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

図書館

ドイツの図書館の特徴は?

ドイツの図書館に足を運んでみると、日本の図書館との違いに驚くこともあるかもしれない。まずはどんな特徴があるのか、いくつかポイントを絞ってご紹介しよう。

参考:ドイツ図書館協会(Deutscher Bibliotheksverband e.V.)ホームページ、 伊藤白「<研究ノート>ドイツの図書館事情」

1 日本よりも図書館の数が多い

日本では国が運営する図書館は国立国会図書館のみだが、ドイツにはライプツィヒとフランクフルトにあるドイツ国立図書館、ベルリン国立図書館、バイエルン国立図書館と三つもある。さらに、ケルン・ボンに医学、ハノーファーに工学、キール・ハンブルクに経済学をそれぞれ扱う国家レベルの専門中央図書館が存在する。一般市民向けの公共図書館はおよそ1万館あり、日本(2022年時点で3305館)よりもはるかに多い。これは州や自治体の図書館だけではなく、キリスト教会がボランティアで運営する小規模の図書館が多いことが理由の一つだ。公立図書館のある自治体は全体の42%にとどまっており、過疎地域などでは教会母体の図書館が大きな役割を果たしている。

2年間利用料がかかる

日本には図書館法第17条により「図書館無料の原則」があるため、誰もが無料で本を借りることができる。一方ドイツでは入館や閲覧自体は無料でも、本を借りるのには利用料がかかる。利用料は自治体によって異なり、年間10~30ユーロほど。本やDVD・CDが借りられるだけなく、近年では電子書籍の貸し出しやeラーニングの利用など、さまざまなサービスを提供する図書館が増えている。ちなみに延滞料もあるため、返却し忘れにはご注意を。

3電子図書館サービスが充実

ドイツの公共図書館では早くから電子図書館サービスに力を入れており、現在国内3700以上の公共図書館で電子書籍のほか、音楽や映画などをオンライン上で借りることができる。コロナ禍では紙媒体の書籍の貸し出しが大幅に減ったが、電子書籍は増加傾向にあったという。さらに一部の図書館では、さまざまな分野のeラーニングコースが設けられており、市民に学習機会を提供している。

4公共図書館と学校が連携

ドイツでは日本のように学校に図書室を設置する義務がないため、十分な設備のある学校は全体の6%ほど。そうした背景からも、14~15歳までの年齢層が最も多く公共図書館を利用しており、絵本や児童書、ヤングアダルトコーナーに力を入れている図書館も多い。さらに子どもや学校向けにイベントを開催したり、コンピューターゲームを含むさまざまなメディアを扱ったりする図書館も増えている。また、2000年に実施された国際学力調査でドイツが下位だったいわゆる「PISAショック」により、学校と公共図書館の協力は必須となり、例えば図書館が学習スペースを充実させるきっかけにもなった。

5「みんなの居場所」を目指している

今日、ドイツの公共図書館の多くが「サードプレイス」(自宅や職場ではない居心地のよい場所)を目指して運営されている。特に新しい図書館を造ったり改築したりする場合、都市そのものやそこでの生活をより豊かにするために、美しい建物や魅力的な内装にするなど、これまでよりも図書館のコンセプトに注意が払われるようになった。また同じ建物内や周辺には、カフェやレストラン、展示室、セミナールームなどさまざまなサービス施設が集まっていることも多い。ドイツの図書館は、本来の機能にとどまらないオープンな場所としてその姿を変えつつある。

世界遺産から現代建築まで 一度は訪れてみたいドイツの図書館6選

あまり本を読まない……という人でもきっと行ってみたくなる、ドイツ各地の伝統的な図書館からコンセプトにこだわった図書館まで6カ所をピックアップ。ツアーやイベント開催のほか、カフェテリアが併設されている場所も多いので、気になったところにぜひ足を運んでみて。

ヴァイマール
Herzogin Anna Amalia Bibliothek
アンナ・アマーリア図書館

アンナ・アマーリア図書館

1750年から1850年にかけてのヨーロッパ文学・文化史に特化した図書館。同館の名称となっている1739年生まれのアンナ・アマーリア公爵夫人は、18歳でザクセン=ヴァイマール=アイゼナハ大公国の摂政となった人物だ。ヴァイマールが知的・文化的中心地として発展するための基礎を築いた公爵夫人は1761年、16世紀に建てられたルネサンス様式の3階建ての「プチ・シャトー・フランセ」を図書館に改築するよう、国営建築家に依頼した。1797~1832年までは文豪ゲーテが館長を務めていたことでも知られる。これらの背景からヴァイマール古典主義運動における文化的重要性を証明するものとして、ユネスコ世界遺産に登録された。建物の保存のため入場者数が制限されており、見学は要予約。

Platz der Demokratie 1, 99423 Weimar
火~日9:30-18:00 
入場料:大人8ユーロ
www.klassik-stiftung.de/herzogin-anna-amalia-bibliothek

ウルム
Kloster Wiblingen
ウィブリンゲン修道院

ウィブリンゲン修道院

ヴィブリンゲン修道院の図書館ホールは1740年から10年かけて建設された。装飾が施された人物像や天井に描かれたフレスコ画などが見事で、ロココ様式の傑作だ。壮麗な調度品を備えた図書室は、膨大な蔵書を保管するためだけでなく、賓客のための格調高いレセプションホールとしても使われていたという。図書館の門の上の碑文には「知恵と科学の全ての宝物がここにある」と刻まれており、当時のあらゆる知識と思想が手に入る重要な場所だったことを示している。最盛期の蔵書数は約1万5000冊。背表紙はそれぞれ白く塗られるか、淡い色の紙で覆われていた。これは内装と完璧に調和させることが目的だったが、おかげで高価な革装丁の費用を節約することができたという。

Schlossstr. 38, 89079 Ulm-Wiblingen
11~2月:土日祝13:00-17:00、3~10月:火~日10:00-17:00
入場料:大人5.5ユーロ
www.kloster-wiblingen.de

ミュンヘン
Juristische Bibliothek
法学図書館

法学図書館

1843年にミュンヘンに設立された法律図書館は、1906年にゲオルク・フォン・ ハウベリッサーが設計したマリエン広場に面した新市庁舎の閲覧室に移転した。現在は1万点あまりの書物を蔵書している。鍛造のアール・ヌーヴォー様式の螺旋階段と鉄の手すり、花と蔓で飾られた壁の燭台が美しく、高さ10メートルの天井まで続く棚に本が並べられた部屋は一見の価値あり。映画「小さな魔法使いと秘密の城 リトル・ウィッチ2」の舞台としても使用されている。事前の参加登録が必要だが、定期的に朗読会、講演会、討論会が開催されており、さまざまなイベント主催者にも高く評価されている。見学したい場合は、市役所のツアーに参加すると館内を見ることができるので、気になる人はチェックしてみよう。

Marienplatz 8, Zi. 367, 80331 München
月~金9:00-16:30
www.muenchner-stadtbibliothek.de/juristische-bibliothek-im-rathaus

ライプツィヒ
Deutsche Nationalbibliothek
ドイツ国立図書館

ドイツ国立図書館
ドイツ国立図書館
ドイツ国立図書館

前身となるのは、1912年に出版業界の中心地だったライプツィヒに設立されたドイツ図書館。東西分断時代に西側の国立図書館としてフランクフルトにもドイツ図書館ができ、再統一後に現在の2拠点からなるドイツ国立図書館となった。1913年以降にドイツや周辺国、ドイツ語で出版された文書、画像、音声の全てのメディアを収集し、アーカイブしている。国立図書館法では全ての出版物の原本をドイツ国立図書館に納めることが規定されており、何を隠そう、本誌「ドイツニュースダイジェスト」も毎号コレクションに追加されている。現在4630万点を超える出版物を所蔵し、世界でも最大規模を誇る。ライプツィヒの国立図書館はその長い歴史から4回にわたって拡張され、一番新しい建物(写真左上)は2011年に開館。定期的に無料ツアーが開催されている。

Deutscher Platz 1, 04103 Leipzig
月~金 9:00-22:00、土10:00-18:00
www.dnb.de

シュトゥットガルト
Stadtbibliothek Stuttgart
シュトゥットガルト市立図書館

シュトゥットガルト市立図書館
シュトゥットガルト市立図書館
シュトゥットガルト市立図書館

シュトゥットガルト市立図書館は、韓国人建築家のイ・ウンヨン氏によってデザインされ、世界で最も美しい図書館の一つといわれている。立方体の建物で吹き抜けからは4~8階までを見渡せ、壁から床、階段まで白一色に統一された内装が印象的だ。また、同図書館は早くから「革新的な学習の場としての図書館」をコンセプトに掲げ、インターネットとRFID技術(電波・電磁波によって情報を読み書きする)を導入した最初の図書館の一つだった。2011年に現在の建物に移ってからもデジタル教育の分野に力を入れ、そのコンセプトを貫いてきたことが評価されて、2013年に年間図書館大賞を受賞している。50万点を超えるメディアを貸し出しており、子ども向けワークショップなどをはじめとしたイベントも多く開催している。館内は自由に見学可能。

Mailänder Platz 1, 70173 Stuttgart
月~土 9:00-21:00
https://stadtbibliothek-stuttgart.de

ベルリン
Jacob-und-Wilhelm-Grimm-Zentrum
ヤーコプ・アンド・ヴィルヘルム・グリム・センター

ヤーコプ・アンド・ヴィルヘルム・グリム・センター
ヤーコプ・アンド・ヴィルヘルム・グリム・センター

グリム兄弟の名を冠した、ベルリンの名門フンボルト大学に属する中央図書館。市内に点在していた12の分館が一つに統合され、2009年に開館した。スイス人建築家のマックス・ダドラー氏による幾何学的なデザインで、建物中央にある格子状の吹き抜け空間は圧巻だ。日の光が差し込むガラスの天井からは青空を眺めることができ、階段状になったテラスには250席分の座席がある。シックな机やランプもダドラー氏のデザイン。建物全体にはさらに1250席分のワークスペースが完備されており、プレイルームや児童書を備えた親子エリアも。2009年には、建築賞の一つであるBDA Preis Berlinを受賞した。入館は自由で、一般公開されているおよそ150万点の所蔵物に誰もがアクセスできる。

Geschwister-Scholl-Straße 1/3, 10117 Berlin
月~金 9:00-22:00、土日10:00-20:00
www.ub.hu-berlin.de/de/standorte/jacob-und-wilhelm-grimm-zentrum

祝!年間図書館大賞2023 変わり続けるデュッセルドルフ中央図書館

「Bibliothek des Jahres」(年間図書館大賞)はドイツで唯一の図書館アワードだ。ドイツ図書館協会とドイツ・テレコム財団が主催し、模範的および革新的な図書館に贈られる。このたび、ドイツニュースダイジェストのオフィスからもほど近い「デュッセルドルフ中央図書館」が、年間図書館大賞2023を受賞。どんな点が評価されたのか、同館のカンプ館長とレシュナーさんに話を聞いた。

デュッセルドルフ中央図書館デュッセルドルフ中央図書館のDr. ノルベルト・カンプ館長(右)とマルティナ・レシュナーさん(左)

リニューアルして来館者が倍増!

デュッセルドルフ中央図書館は2021年11月6日、中央駅前の文化施設KAP1に新しいコンセプトのもとリニューアルオープンした。2フロアに分かれ、総面積はサッカーコート二つ分(8000平方メートル)だ。白に統一された本棚にはカテゴリが大きく表示され、棚の高さは大人の顔よりも低いため、館内を見渡せばどこにどんなジャンルの本があるのかすぐに分かるつくりになっている。さらに、ゆったりと勉強したり作業したりできるスペースがあらゆる場所に設置されており、若者の姿も多い。

「年間図書館大賞を受賞した理由はたくさんありますが、一番大きな理由は市民にとってサードプレイスとなっていることでしょう」と話すのは、同館のカンプ館長。リニューアルオープン前のデュッセルドルフ中央図書館は別の場所にあり、十分な数の座席もなく、カフェも併設されていなかった。さらに天井が低く全体的に暗い印象があり、決して居心地が良い場所とはいえなかったという。

図書館の移転に当たり、そうした背景を踏まえて、人々に焦点を当てたコンセプトが打ち出されることになる。レシュナーさんもコンセプトづくりを担当した一人だ。「私たちは本当に多くの時間を費やしました。来館者がさまざまなものを探したり何かをしたりできるよう、いろいろなアイデアを出し合って」。そうして出されたアイデアが形となり、新しい図書館には600に上る座席を設置。ほかにも個別学習ボックス、VRや3Dプリンターなどのデジタル技術を試せる工房、楽器の演奏や録音できる音楽室など、図書館の域を超えた場所づくりが実現した。

そんな新しい図書館体験ができる場所として評価されたデュッセルドルフ中央図書館は、2023年に年間図書館大賞を見事受賞した。旧図書館時代と比較して、来館者数はなんと2倍に。今年に入ってからも2週間弱でおよそ400人の新規利用登録があり、来館者数は増え続けているという。

デュッセルドルフ中央図書館若者の意見も取り入れながらデザインされたヤングアダルトコーナー

市民の望みをかなえる場所に

デュッセルドルフ中央図書館は、誰もがいつでも自由に出入りできるオープンライブラリーをうたっている。平日は夜21時まで開館。図書館員が不在の時間帯もあるが、自動貸し出しやオンライン図書館サービスなどは24時間利用できる。さらに、ドイツではまだ珍しい日曜も開いている図書館であることは特筆すべきだろう。日曜の開館時間は13~18時の5時間だけだが、子ども連れのファミリー層が多く来館し、1時間当たりの来館者数は1週間のうちトップだという。市民にとって週末に過ごせる新たな居場所となったことも、年間図書館大賞で評価された点だ。

デュッセルドルフ中央図書館3Dプリンターは事前講習を受けると使用できる

また、多数のイベントや会合が開催されており、年齢、職業、社会的背景などにかかわらず、多くの人にとって出会いの場ともなっている。例えば、多言語による読み聞かせの会、日本語とドイツ語を話す練習ができるドイツ語・日本語ラウンジなども定期開催しているので、ドイツ語を勉強中という人にもぴったりだ。

そんなデュッセルドルフ中央図書館が最も大切にしていることをお二人に聞いてみると、「常に変わり続けること」という答えが返ってきた。来館者が何を望むのか、何が必要か、何が親しみやすいのかを考え、それに合わせて図書館が変わっていく必要があるという。先の日曜開館もその一環だといい、「2024年の新たな取り組みとしては、日曜のイベント開催を予定しています」とカンプ館長は意気込む。週末にいかに魅力的な機会を市民に提供できるのかは、今後の課題の一つとなっている。

デュッセルドルフ中央図書館絵本・児童書コーナーには想像力をかき立てる遊具も

年間図書館大賞を受賞して、同館へはほかの地域の図書館からの問い合わせや視察も増えたという。これからもドイツの図書館は切磋琢磨しながら、より面白くより居心地の良い場所へと少しずつ姿を変えていくことだろう。

Zentralbibliothek der Stadtbüchereien Düsseldorf
デュッセルドルフ中央図書館
Konrad-Adenauer-Platz 1, 40210 Düsseldorf
月~金9:00-21:00、土9:00-18:00、日13:00-18:00
※毎週土曜11:00に無料ツアーを開催
www.duesseldorf.de/stadtbuechereien/bibliotheken/zentralbibliothek

最終更新 Mittwoch, 07 Februar 2024 10:16
 

ベルリン国際映画祭:ベルリナーレを楽しむための3STEP

2024年2月15日(木)~2月25日(日) ベルリナーレを楽しむための3STEP

11日間のベルリン国際映画祭(ベルリナーレ)で上映される作品数は、新旧作合わせて約400本。注目の作品はもちろん、自分の興味に合った映画を鑑賞できるかどうかは、実は事前準備にかかっている。最後に、実際ベルリナーレに行ってみたいという方のために、映画祭を楽しむヒントを伝授する。

公式ウェブサイト:www.berlinale.de
開催期間:2024年2月15日(木)~2月25日(日)

Step 1観たい作品をリストアップ プログラムをチェックする

チケット購入前にどの作品を観たいか、必ずチェックしよう。おすすめは公式アプリ。ウェブサイトと同様に上映作品を部門や国などジャンル別に検索でき、気になる作品にチェックを入れると一覧となってタイムテーブルが表示される仕組みになっている。観たい作品の上映時間が被っていたり、会場間の移動に時間がかかることもあるため、スケジュール確認は重要。うまくスケジュールを組めば、1日に数本鑑賞できる。チケットが売り切れる場合もあるため、第2希望以降の作品も候補に残しておくのがベター。

プログラム公開日:2024年2月6日(火)

Step 2取れるかどうかは運次第!? チケットを購入する

会期3日前から販売開始されるチケットのために、PC前でスタンバイするのはベルリナーレの醍醐味。チケット数に余裕がある場合、各会場で当日券の販売もある(原則上映30分前から)が、確実に観たい作品や人気作品の場合はチケットの事前購入が必須だ。ここでは、ちょっと複雑なベルリナーレのチケット入手方法を解説する。
参考:https://www.berlinale.de/de/programm/ticket-info.html

チケット発売開始日:2024年2月12日(月)10:00

チケット購入ルール

  • チケットの値段は11~18ユーロで、部門によって異なる
  • チケットの販売はオンラインのみ
  • 1度に購入できるチケット枚数は、1人2枚まで(ジェネレーション部門は1人4枚まで)
  • 各作品の上映3日前から購入可。例えば、土のチケットは水から販売される(ただし、下記に例外あり)
  • 2月26日(日)のパブリックデーで上映されるプログラムは、2月12日(月)から毎日購入可

Step 3座席は早い者勝ち! 作品を観に行く

上映会場は基本的に完全入れ替え制の自由席。大きな会場では列ができるため、スクリーンが見やすい席を確保したい場合は早めに会場に向かうと安心だ。作品によっては、監督や出演者によるアフタートーク付きの場合も。ここまで来たら、あとはゆっくりと映画の世界を堪能して!

そのほかのTIPS

● 宿はできるだけ早めに確保しよう
映画祭期間中は宿泊代が値上がりし、立地のいい場所はすぐに予約で埋まってしまう。宿を先に押さえておくのがベター。ただし、滞在期間中に観たい作品が上映されるとは限らないので、これも運次第だ。

● パンフレットを手に入れよう
プログラムが出揃うと、街中で無料パンフレットの配布が開始される。部門ごとの作品紹介(英独)や11日間のタイムスケジュールを一覧で見られるので、ぜひ手に入れたい。記念に持ち帰るのもおすすめ。

● お土産はオリジナルグッズで決まり!
毎年デザインの違うオリジナルグッズの販売も。特にバッグは人気で、期間中それを持って会場間を移動する鑑賞者をよく見かける。販売場所はPotsdamer Platz Arkadenのほか、オンラインショップでも購入可。

最終更新 Donnerstag, 01 Februar 2024 09:15
 

ベルリン国際映画祭70年史 社会とともに歩み続けるベルリナーレ

ベルリン国際映画祭70年史 社会とともに歩み続けるベルリナーレ

ベルリナーレ

2024年で第74回を迎える、ベルリン国際映画祭(ベルリナーレ)。社会派の作品が多く集まることで知られるこの映画祭では、これまでドイツや世界が直面する問題をさまざまな視点で切り取り、社会に対して問いを投げかけてきた。映画という「社会の鏡」を通して、私たちは未来に何を見出すことができるだろうか?ベルリナーレ74年の歩みを歴史とともに振り返ってみよう。(Text:編集部)

ベルリン国際映画祭とは?

カンヌ国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭と並ぶ世界三大映画祭の1つ。例年2月の開催で、来場者数は50万人、上映本数は400本にも上る。愛称は「ベルリナーレ(Berlinale)」。コンペティション部門では、最高賞である「金熊賞(Goldener Bär)」を狙う作品が世界中から集められる。金熊賞のほかにも、監督や俳優、短編映画に贈られる「銀熊賞」、観客の投票によって選ばれる「観客賞」、LGBTをテーマにした優秀作品への「テディ賞」などがそれぞれ選ばれる。また、コンペティション部門には入らなかった優れた作品を上映するパノラマ部門や、若手監督作を多く上映するフォーラム部門など、多彩なプログラムが魅力だ。

主な部門

コンペティション部門 Competition
毎年約20作品が選ばれ、その年の最優秀作品に「金熊賞」が贈られる。

フォーラム部門 Forum
さまざまなジャンルから選ばれ、実験的な作品などもこれに含まれる。

パノラマ部門 Panorama
現代社会を映し出すような、少し変わった視点から描かれた作品が選ばれる。

ジェネレーション部門 Generation KPlus
(子ども向け)と14plus(ティーン向け)があり、若者に焦点を当てた作品を選出。

ベルリナーレの歴史

黒字は世界で起こった社会的出来事

1950

ベルリナーレの準備が始まる

1951

初めてベルリナーレが開催される

1955

ベトナム戦争開戦 / アジア・アフリカ会議

1956

国際映画祭として認められる

1961

アントニオーニが「夜」(イタリア・フランス / 1961)で金熊賞受賞

1961

ベルリンの壁建設

1963

カウンター映画祭が実施される

1965

ゴダールが「アルファヴィル」(フランス / 1965)で金熊賞受賞

1968

「プラハの春」

1970

「o.k.」(西ドイツ / 1970)がスキャンダルに

1970

ブラント独首相がワルシャワで跪く

1971

ヤング・フォーラム部門がつくられる

1974

ソ連作品が公式プログラムとして初上映される

1986

チェルノブイリ原発事故

1987

テディ賞がつくられる

1989

ベルリンの壁崩壊

1990

東西ベルリンで初開催される

1991

ソ連崩壊

1998

コソボ紛争勃発

1999

コソボ紛争終戦

2001

米国同時多発テロ

2003

米イラク戦争開戦

2011

イラク戦争終戦

2015

難民危機

2016

「海は燃えている~イタリア最南端の小さな島」(イタリア / 2015)が金熊賞受賞

2017

トランプ米大統領が誕生 / #MeTooムーブメントが盛り上がる

2019

「男女同比率に関する誓約書」に批准

「自由世界のショーケース」
政治的な国際映画祭の誕生

ベルリナーレの構想は、第二次世界大戦が終戦して間もない1950年に始まる。当時のベルリンでは戦後復興は始まっていたものの、街にはまだ戦時中の瓦礫が残り、芸術文化が花開いた1920年代の生き生きとした雰囲気には程遠かった。そんななか、ドイツに駐留する米軍の映画担当の士官だったオスカー・マーティを中心に、ベルリン市民のための映画祭の準備が進められた。そして1951年6月、アルフレッド・ヒッチコック監督の「レベッカ」(米国/1940)をオープニング作品に迎え、第1回ベルリナーレが開催される。また同時にベルリナーレは声明を発表し、西ベルリンが冷戦の前線都市として「Schaufenster der freien Welt(自由世界のショーケース)」を目指すことを明言。すでにベルリナーレには政治はつきものだったのである。

第1回目のベルリナーレのポスター記念すべき第1回目のベルリナーレのポスター(1951年)

米国に支援されていたことから、初期のベルリナーレはハリウッド色が強く、当時米国で活躍していた映画スターもゲストとして多数招かれていた。1956年には国際映画祭として認められ 3、初めて国際審査員を迎えることになり、いよいよコンペティションの場として世界から注目を浴びるようになる。1959年には53カ国から参加があり、60年代にはフランスのジャン=リュック・ゴダール監督やイタリアのミケランジェロ・アントニオーニ監督が最優秀賞である金熊賞を受賞する 4 6など、米国の映画産業以外にも光が当たるようになっていく。ベルリナーレは徐々に国際映画祭としての地位を確立していくが、冷戦の真っただ中で、まだ西側諸国だけで完結していたのだった。

東西ベルリンの境界に立てられた映画祭のポスター東西ベルリンの境界に立てられた映画祭のポスター

ピンチをチャンスに?
冷戦を越えた映画祭への成長

1960年代後半の欧米諸国では、冷戦による世界の二極化やベトナム戦争の泥沼化によって大規模な反体制運動が加速していく。映画批評家のウルリッヒ・グレゴールをはじめとする西ベルリンの若手映画人たちは、当時ハリウッドなどの西側商業映画が主流であったベルリナーレに対抗し、1963年からベルリナーレの開催時期に合わせてカウンターパートの映画祭を実施。前衛映画や社会批判の要素が強い映画を積極的に紹介していた。

そして1970年に事件は起きた。コンペティション部門に選出されたドイツ人監督ミヒャエル・ヘルホーファンの映画「O.K」(ドイツ/1970)で、ベトナム戦争で実際に起きた事件が描かれていたことから、当時の米国人審査委員長が「反米映画だ」と抗議したのだ 7。結果として、映画祭が終わる2日前に審査員たちが辞任し、それに抗議する若者たちが映画館を占拠。設立以来のコンセプト「自由世界のショーケース」は、危機を迎えることになった。

この事態に対し、当時のベルリン文化相ヴェルナー・シュタイン(社会民主党・SPD)は、グレゴールたちによるカウンター映画祭をベルリナーレに組み込むことを提案。翌年には、ヤング・フォーラム部門(Internationale Forum des Jungen Films)がベルリナーレの公式プログラムの1つに採用された。この部門はヴィリー・ブラント首相(SPD)が展開していた東方外交政策の波に乗り、1974年には初めてソビエト連邦の映画が公式プログラムとして上映。以降も社会主義諸国の優良な映画を積極的に取り上げるなど、「冷戦の壁を越えた国際映画祭」としての基盤を強固にしていった。

ベルリナーレ例年6月開催だったが、1978年からは2月開催に

ベルリナーレ1980年のポスター

人々を隔てる「壁」へのベルリナーレの応答

1989年、ベルリンの壁崩壊当日、ベルリナーレのディレクターだったモーリッツ・デ・ハーデルンが、東ドイツのホルスト・ペーネルト文化大臣に早速手紙を送った。次のベルリナーレで東ベルリンでも作品を上映することや予算を割くように提案したのだった。そして翌年、第40回ベルリナーレが東西ベルリンで開催。東西間の移動が自由になり、東ドイツ作品が賞を受賞するなど、2つの都市が再び1つとなったことを象徴する出来事となった。

2000年のポスター2000年のポスター

それから25年後の2015年、大量の難民がドイツへ流入。最初は快く受け入れるが、やがて欧州各地の国境沿いに有刺鉄線が張り巡らされた。この新たな「壁」はベルリン市民に衝撃を与え、翌年の第66回ベルリナーレでは難民をテーマとする作品が多数選出されることに。そして金熊賞は、地中海を渡る難民たちを描いた「海は燃えている~イタリア最南端の小さな島」(イタリア/2015)に贈られた。

翌年の第67回ベルリナーレは、トランプ米大統領の誕生直後に開催。同氏がメキシコとの国境に「壁」を造ると宣言していたため、審査委員でメキシコ人のディエゴ・ルナは「壁を崩壊させるための方法を学びにここに来た」とコメント。また、昨年までディレクターを務めたディーター・コスリックは「Mit Vielfalt gegen die Einfalt(多様性で画一性に立ち向かおう)」というテーマを掲げ、過度なナショナリズムに対抗する姿勢を見せた。近年いわゆる主要国以外の国の作品に各賞が贈られる傾向にあるが、この年もハンガリーの作品が金熊賞を受賞するなど、より国際色豊かな映画祭となった。

トルコ系ドイツ人監督のファティ・アキン2004年に金熊賞を受賞したトルコ系ドイツ人監督のファティ・アキン

社会の多様な声に耳を傾け続けること

ベルリナーレは74年の歴史のなかで、これまで社会的に構築された差別(性別、民族性、出生地域、年齢、障がい、性的アイデンティティ、宗教などの理由)によって疎外されてきた人々の視点や、彼らの生活を照らし出すことに力を注いできた。LGBTQをテーマにした作品に贈る世界初の賞として1987年に「テディ賞」が設立されたほか、2013年からは先住民族出身の映画監督作品を紹介するプログラムも継続中だ。

ベルリナーレ1987年、テディ賞がつくられる

また、2017年ごろから広まった「♯MeToo」と呼ばれる世界的なムーブメントによって欧米の映画業界での男女格差が注目されるなか、ベルリナーレは2019年 に「男女同比率に関する誓約書」に批准。誓約書には映画祭内での男女の割合を同率にするという内容が盛り込まれており、この年のベルリナーレでは約400本のうち半数、コンペ部門では17本中7本が女性監督作品で、審査員の半数以上を女性が務めた。「女性監督作品だからではなく、素晴らしい作品だから選ばれた」というコスリックの言葉がその通りである一方、ある程度意図的に女性比率を引き上げることは、既存の男性中心的な価値観を揺さぶることにもつながると言えるだろう。

また2020年からの新ディレクターは、カルロ・シャトリアンとマリエッタ・リッセンベークが務める。男女1名ずつの共同ディレクター体制という新たな試みに加え、三大映画祭のトップ職を女性が担うのは史上初。今後のベルリナーレがどのように映画界や社会に「問題提起」を続けていくのか、さらに注目度が高まっていくだろう。

2014年、黒木華が銀熊賞を受賞2014年には映画「小さいおうち」で日本人俳優の黒木華が銀熊賞を受賞

2019年のアワード審査員2019年のアワード審査員を務めた6人

2019年のアワード審査員2020年のポスターは、70周年を記念したデザイン

最終更新 Donnerstag, 01 Februar 2024 09:14
 

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