伝統的なお祭りからユニークなフェスまで ドイツの秋祭りガイド
食欲の秋、スポーツの秋、行楽の秋、芸術の秋……などの言葉があるように、秋はさまざまな風物詩が楽しめる豊かな季節。加えてドイツではビアフェストが始まり、「ビールの秋」が盛大に祝われる。今回の特集では、秋のドイツで開催される魅了いっぱいのお祭りをテーマ別にご紹介。長い冬が到来する前のこの時期に、ぜひ出かけてみては?(Text:編集部)
ドイツの秋はビールの季節! 三大ビアフェスト
秋といえば、ドイツにビールの季節がやってくる。ビールファンなら誰もが知っているミュンヘンのオクトーバーフェストをはじめ、ほかにも地方色が濃い個性豊かな各地のビール祭りをご紹介!
これぞ、ビール祭りの王様! Oktoberfest オクトーバーフェスト
ドイツビール好きが毎年待ち望んでいるのが、世界最大級のビール祭り「オクトーバーフェスト」。その起源は1810年10月12日、バイエルン皇太子ルートヴィヒとテレーゼ妃の結婚祝いにさかのぼる。当時は競馬や古代オリンピックのような競技会が催され、結婚祝いは大いに盛り上がった。その後、市民たちから毎年開催してほしいとの声が上がり、次第に世界最大のビールの祭典へと成長していった。オクトーバーフェストは、ミュンヘンっ子たちの間で親しみを込めて「Wiesnヴィーズン(野原)」と呼ばれている。およそ42ヘクタール(東京ドーム約9個分)の広大な会場は、テレーザ王妃にちなんで「Theresienwiese(テレージエンヴィーゼ)」と名付けられ、ミュンヘン市内の6つの醸造会社が運営する14の巨大ビールテントをはじめ、小さな屋台やアトラクションが並ぶ。華やかな民族衣装を身にまとった人々も、このお祭りのシンボル的存在だ。
2019年9月21日(土)~10月6日(日)
ミュンヘン(バイエルン州)
https://www.oktoberfest.de
オクトーバーフェストを紐解くキーワード
Reinheitsgebot ビール純粋令
1516年にバイエルン公ヴィルヘルム4世が制定した法令。「ビールは、麦芽・ホップ・水・酵母のみを原料とする」という内容で、ビールの品質を保証するために発布された。ドイツの醸造家は、現在でも純粋令に則った質の高いビールを造り続けている。
「O'zapft is!」樽が開いたぞ!
オクトーバーフェストの初日、開会式ではミュンヘン市長が「O'zapft is!(樽が開いたぞ!)」の掛け声とともに最初のビール樽を開栓。お祭りの始まりが高らかに宣言される。開会式の前に行われる、盛大なパレードも見どころの1つ。
オクトーバーフェストと並ぶ「ビールの祭典」 Cannstatter Volksfest カンシュタッター・フォルクスフェスト
ミュンヘンのオクトーバーフェストのおよそ1週間後から始まるのが、カンシュタッター・フォルクスフェスト。地元の人たちから「Wasenヴァーゼン(芝)」という愛称で呼ばれる会場に、毎年およそ400万人が集う。このお祭りは、1818年、のちに「農民の王」と呼ばれるヴュルテンベルク国王ヴィルヘルム1世によって、長い飢饉を乗り越えた感謝祭として開催されたのが始まり。翌年からも収穫祭として毎年開かれ、市民のためのビール祭りとして発展していった。
2019年9月27日(金)~10月13日(日)
シュトゥットガルト(バーデン=ヴュルテンベルク州)
https://www.cannstatter-volksfest.de/
ビアフェスト最古の歴史を誇る Freimarkt Bremen ブレーメン自由市場
北ドイツの「オクトーバーフェスト」と呼ばれることもあるが、その起源は1035年で、ビール祭りとしては最古。「フライマルクト(自由市場)」という名前は、当時の神聖ローマ皇帝コンラート2世がブレーメンに市場権を与え、この期間だけ市内・市外の人が関税なしの自由な商売を行っていたことに由来する。そのため郊外の商人や一般客が集まるようになり、商業の場から市民のお祭りへと姿を変えていった。この地方の名物「燻製うなぎ」は、ぜひお試しを!
2019年10月18日(金)~11月3日(日)
ブレーメン(ブレーメン州)
https://www.freimarkt.de
秋の夜長にタイムトラベル? 歴史を体感するお祭り
活気ある市場に商人や農民たちが集まり、騎士たちが通りを練り歩く……そんな歴史的なシーンを垣間見れる、タイムトラベルのような体験ができるお祭りはいかがだろうか。
街がまるごと中世時代に大変身 Freudenberger Mittelalter- und Herbstmarktフロイデンベルク中世秋祭り
白い壁に黒い木組みで造られた三角屋根の家屋が立ち並ぶ、フロイデンベルク。毎年開催される中世祭りでは、街の通りに中世商人の店が軒を連ね、騎士や農民の仮装をした人々や、大道芸人のパフォーマンスも楽しめる。フラスコ型の瓶に入った蜂蜜ワインや果実酒はお土産にもおすすめ。夜にはランタンで幻想的に街がライトアップされ、昼とは一味違う雰囲気が味わえる。
2019年10月19日(土)~20日(日)
フロイデンベルク(ノルトライン=ヴェストファーレン州)
https://www.freudenberg-wirkt.de
300年続く伝統的パレード Die Tölzer Leonhardifahrtレオンハルト騎士行列
動物の守護聖人である聖人レオンハルトの聖名祝日である11月6日に、1718年から毎年開催され、バイエルンの無形文化遺産(P12)に登録されている。メインの聖レオンハルト礼拝堂への騎馬行列では、聖レオンハルトの聖像を描いた馬車が花で装飾され、伝統衣装を着た人々が華やかに行進。ブラスバンドの演奏や、男性たちの鞭を使った迫力あるパフォーマンスもお見逃しなく!
2019年11月6日(水)
バート・テルツ(バイエルン州)
http://www.toelzer-leonhardifahrt.bayern
芸術の秋を堪能! アートフェスティバル
芸術をゆったりと味わえるイベントが盛りだくさんのこの季節。期間中にさまざまなアートやパフォーマンスを街中で楽しめるのは、アートフェスティバルならではだ。
光のアートに包まれる魅惑の夜 Festival of Lights ベルリン光の祭典
今年で開催15年目を迎える、ベルリンの秋の風物詩。ランドマークであるブランデンブルク門やテレビ塔をはじめ、50棟以上の新旧の建築物やモニュメントが色鮮やかなプロジェクションマッピングに彩られ、いつもと違った顔を楽しませてくれる。本年のテーマは、ベルリンの壁崩壊30周年にちなみ「自由の光」。ベルリンらしいメッセージ性の強い祭典になりそうだ。
2019年10月11日(金)~20日(日)
ベルリン(ベルリン州)
https://festival-of-lights.de
あらゆる芸術が集結する22日間 Düsseldorf festival!デュッセルドルフ・フェスティバル!
芸術の街・デュッセルドルフで毎年開催される芸術祭。国内外からアーティストが集まり、音楽イベント、演劇、ダンスなどが、街のいたるところで繰り広げられる。今年は、ダンスと現代アートが色濃く表現されたモダンサーカスが見どころ。期間中は旧市街に特設ステージが入った巨大テントが登場し、入り口にはレトロなバーも。ほろ酔い気分で芸術の秋を楽しもう。
開催中~2019年9月30日(月)
デュッセルドルフ(ノルトライン=ヴェストファーレン州)
https://www.duesseldorf-festival.de
食いしん坊はご注目! 実りの秋を楽しむお祭り
どこからともなくやってくる食欲を満たしたい……そんな人におすすめなのは収穫祭。色鮮やかな収穫物を目と舌で存分に味わおう。今回は野菜の種類を限定したユニークなお祭りをピックアップ。
華やかな玉ねぎ飾りはインスタ映え必至 Zwiebelmarkt Weimarワイマール玉ねぎ市
ワイマールの人口がまだ5000人にも満たなかった1653年に始まった、テューリンゲン州最古のお祭り。ワイマールの住人や周辺地域の人々が玉ねぎや野菜を冬の備えとして買い置きすることを目的に始まり、現在は約30万人が集まる大規模なイベントへと発展した。お祭りのシンボルである2色の玉ねぎや花を編み込んだ飾り(Zwiebelrispen)を売る屋台がとても華やか。食用の玉ねぎも農家から直接購入することができ、この地方の名物である玉ねぎケーキ(Zwiebelkuchen)が販売されるなど、左も右も玉ねぎ尽くし!
2019年10月11日(金)~13日(日)
ワイマール(テューリンゲン州)
https://www.weimar.de/kultur/veranstaltungen/maerkte-und-feste/zwiebelmarkt/
ユニークすぎるかぼちゃのオブジェは必見! Kürbisausstellung Ludwigsburgルートヴィヒスブルクかぼちゃ展示会
2000年に始まった、世界最大級のかぼちゃのお祭り。2019年のテーマは「Wald(森)」。およそ6万個のかぼちゃを用いて、会場であるルートヴィヒスブルク宮殿の庭園に森や動物たちが表現される。食事メニューももちろん、かぼちゃスープ、かぼちゃとリンゴのシュトゥルーデル、かぼちゃのお酒など、かぼちゃ好きにはたまらないラインナップ。期間中のイベントも豊富で、かぼちゃの大きさを競う「かぼちゃ選手権大会」やかぼちゃ彫刻の実演、キッズ向けのプログラムなどがある。
開催中~2019年11月3日(日)
ルートヴィヒスブルク(バーデン=ヴュルテンベルク州)
http://www.kuerbisausstellung-ludwigsburg.de
ちょっと斜めから見るお祭り文化 地域のお祭りをどう守っていくか?
消えつつある地域文化
ドイツでは秋になると、みんな当たり前のように「ビールの季節が来た」と思い、「そろそろビアフェストが開催される時期だ」と、お祭りによって季節の変わり目を知らされる人もいるかもしれない。その土地と深く結びついているお祭りのことを、誰も「今年も開催されるかな?」と心配しないだろうし、人々はお祭りの存在を「当たり前にあるもの」として日々の生活を送る。その一方で、実は今、世界では地域文化の消滅が加速している。担い手不足や資金難、グローバル化など、地域によってさまざまな問題を抱えているが、その土地固有の文化が消えてしまうことは、この世界の多様性を失うことでもある。
形なき文化を守るユネスコの無形文化遺産
そのような危機感から、地域に根付く文化を保護するために2003年から始められたのが、ユネスコの「無形文化遺産」だ。ドイツの「ケルン大聖堂」や広島の「原爆ドーム」など、後世に伝えるべき自然・文化を登録する「世界遺産」は一般に知られているが、それに対して「無形文化遺産」の保護対象は、お祭りや伝統工芸の技術、言語や伝承など、文字通り「形のない文化」。日本では2013年に「和食」が登録されたことが話題になったが、ドイツではこれまで「協同組合の思想と実践」や「オルガン製作とその音楽」などが無形文化遺産に認定されてきた。
また、ドイツのユネスコ協会が作成する国内のリストには、「ライン川地方のカーニバル」や、本特集でも紹介した「レオンハルト騎士行列」など数多くの地域に根付いたお祭りをはじめ、「ドイツのパン文化」や「陶器の絵付け技術」、比較的歴史の新しいものでは「モダンダンス」などが取り上げられている。さらには、「ビール純粋令」の無形文化遺産への登録を目指そうという活動もある。
「無形文化遺産」の特徴は、それらが現在も生き続けている文化であるということだ。そして「生きている文化」とは、文化を支えるために人々が「コミュニティー」をつくり、その文化を共有し、伝統として引き継いでいくこと。世界遺産のように「卓越した価値のある物(不動産)」ではなく、無形文化遺産では「人の営み」そのものに価値を見出すのだ。このような考え方は、私たちが当たり前に存在すると思っている自分や他者の文化が、実は人々の長い努力や時間によって積み上げられてきた大切な遺産であることに、今一度気づかせてくれるだろう。
グローバルな社会でローカルな体験を
グローバル化が進み、私たちは世界各地のお祭りへ簡単にアクセスできるようになった。資本主義経済が発展し、世界が均一化されていくこの時代にこそ、訪れた土地でローカルな人々が織りなす文化を体験することは、自分や社会をこれまでとは違った視点で眺めるきっかけになるかもしれない。お祭りが開催される場所、お祭りを担う人々、そして文化のあり様に思いを馳せながら、ドイツで開催される秋のお祭りを楽しんでみて。