ジャパンダイジェスト

名前は「文化」を表す?! ドイツ人のお名前解剖

日本でもドイツでも、「人の名前」にはさまざまな思いが込められていると同時に、その土地の歴史や文化が色濃く反映されている。本特集では、そんなドイツ人の名前の由来を探るべく、「Vorname(名前)」と「Nachname(苗字)」をそれぞれ徹底解剖! さらに、私たちが人生で経験するかもしれない「名前の選択」について、日独の人々に経験を語ってもらった。(Text: 編集部)

名前編 VORNAME

「ドイツ人の名前」と聞いて、どんなものを思い浮かべるだろうか? ここでは、ドイツ人の名前の意味や由来をはじめ、最新トレンドや命名ルールなどを解説。ドイツ人の名前を知れば、この国の歴史や社会、さらには身近なドイツ人たちの知られざる一面が見えてくるかもしれない。

1キラキラネームはNG?! ドイツの厳しい命名ルール

ドイツでは、子どもが生まれたら生後4週間以内に戸籍局(Standesamt)へ届け出る必要がある。子どもの命名(Namensgebung)について法的な決まりはないが、慣習や裁判官法をもとにガイドラインが定められている。このガイドラインは「子どもの最善の利益と幸福を保護する」という目的のもと作成されており、提出された名前を戸籍局が却下することも。両親がその決定に納得しない場合は、裁判所に判断を仰ぐことになる。2008年までは、名前から性別が分かる必要があったが、現在はニュートラルな名前を付けることが可能。また、親がドイツ以外の国に文化的背景を持つ場合などは、子どもの名前について配慮されるケースが多い。

参考:Vorname.com「Einblick ins Gesetz: Das deutsche Vornamensrecht」、WELT「Welche Vornamen genehmigt und welche abgelehnt werden」、Rheinische Post「Zwölf Vornamen sind zuviel: Klage einer Mutter abgewiesen」

命名のガイドライン

● 名前(Vorname)として判別できない名前は不可
却下された例:「Müller ミュラー」「Hemmingway ヘミングウェイ」などの苗字、「Pfefferminza プフェッファーミンツァ」(ペパーミント)、「Kirsche キルシェ」(さくらんぼ)など。

● 子どもの人格を否定したり、子どもが嘲笑の対象となるような名前は不可
却下された例:「Popo ポポ」(ドイツ語の俗語で「おしり」)、「Waldmeister ヴァルドマイスター」(「クルマバソウ」という植物)など。

● 広く一般に普及している地名やブランド名、主や王女のような称号は不可
却下された例:「McDonald マクドナルド」、「Newyork ニューヨーク」、「Prinzessin プリンツェシン」(王女)など。一方、「Chanel シャネル」、「Fanta ファンタ」などは過去に許可されている。

● 敬虔なキリスト教信者を傷つけるような名前は不可
却下された例:「Christus クリストゥス」(キリスト)、「Juda ユダ」(イエスを裏切った使徒)、「Kain カイン」(アダムとイヴの長子で弟を殺害した人物)など。ただし、「Jesus イ エス」はスペインでは一般的な名前であり、1998年以降ドイツでも許可されている。

● ファーストネームは3つまで、ミドルネームは2つまで
例:2004年にある母親が、子どもに12個の名前を付けようとして、戸籍局が却下。最終的に連邦憲法裁判所の判決により、5つに制限された。

● 兄弟で同じ名前は不可

● ドイツ以外の文化圏から名前を選択する場合、その名前がその土地で名前として使用されていることを証明する必要がある

2時代が変われば、名前のトレンドも変わる

ドイツ人の名前には、キリスト教や聖書に関連する名前のほかに、ギリシャ語やローマ起源、ラテン・ロマンス語源、ゲルマン・古ドイツ語源のものが多い。名前のトレンドは時代からも大きく影響を受けており、例えば「ゲルハルト」や「ヒルデガルド」などのゲルマン・古ドイツ語に由来する名前は、第二次世界大戦後に少なくなっていった。これは、大戦中のナショナリズムへの反動でもあるといわれ、ヒトラーの名前である「アドルフ」(ゲルマン由来)も戦前はよくある名前だったが、現在はほとんど使われていない。最近の傾向としては、伝統的な名前を短く呼びやすい形にしたものや、外国語読みの名前が流行しているようだ。

参考:beliebte-Vorname.de、FOCUS Online「Ist Name Adolf für Kinder in Deutschland verboten? Alle Infos」

名前の由来

50年ごとの名前の変遷 女の子版

ドイツ 50年ごとの名前の変遷 女の子版

50年ごとの名前の変遷 男の子版

ドイツ 50年ごとの名前の変遷 男の子版

3ユニセックス&グローバルな名前が人気上昇中!

どちらかと言うと伝統的な名前を好むドイツだが、多様化する社会に合わせて、名前を取り巻く環境も変化している。例えば2008年以前は、ドイツ(欧米)の感覚で男子か女子を区別できる名前を付ける必要があったが、移民を背景に持つ人々やジェンダー中立の名前を付けたいという要望が増加。連邦憲法裁判所の判決により、多様な文化や性的アイデンティティーに対応できる名前を付けることが可能になった。

ユニセックスな名前(Geschlechtsneutrale Name)が受け入れられるようになった背景には、グローバル化やメディアの発達も大きく影響している。例えば「Kim キム」は欧米文化圏では主に女性の名前だが、韓国では最も多い苗字の一つ。また、エリザベスの短縮形である「Lisa リザ」は、アフリカでは男性名であることが多いそう。文化や言語が違う人々が入り混じり、互いの文化を理解し合おうとする過程で、既存の枠組みに縛られない名前がドイツでも受け入れられているようだ。

参考:Vorname.com「Unisex-Vorname」、ZDF「Unisex-Vorname beliebter „Chris“ und „Toni“ für das dritte Geschlecht」、Bundesverfassungsgericht「1 BvR 576/07 - Im Namen des Volkes」

ユニセックスな名前の例

Anouk アヌーク
「アンナ」のフランス語の愛称として「才能のある」と翻訳できる。男性名としては、イヌイット語で「クマ」という意味がある

Devin デヴィン
古いアイルランド語で「詩人」などの意味。英語圏では男性名に使われていたが、トルコ語では「熱心な」という意味で男女両方の名前として使用されている

Lian リアン
もとは男性名「キリアン」の短縮形だが、中国語で「蓮華」を意味することから、男女両方の名前として使われるように

Mika ミカ
フィンランド語で「マイケル」の短縮形、米国では「ミカエラ」の短縮形であることから、男女両方の名前として使われるように

Sascha サシャ
「Alexander」「Alexandra」のロシア語形式で、男女両方の名前として使用される

4独英仏のお国柄が出る? 名前の綴りと読み方

欧米文化圏の名前は、同じ起源を持つものも多いが、その綴りや読み方を比べてみると各国の個性が表れていて興味深い。また最近のドイツでは、英語読みやフランス語読みの名前が人気上昇中。例えば、ハインリヒの英語読み「ヘンリー」や、マリアのフランス語読み「マリー」など、名前から出身国を判別することが難しいケースが増えている。

参考:beliebte-Vorname.de

英独仏で異なる綴りと読み方

英独仏で異なる綴りと読み方

名前の選択にまつわるエピソード子どもの名前はどう決めた?

名前がアイデンティティーを育む

お話を聞いた人

国本隆史さん Takashi Kunimoto ドイツ人のパートナーとの出会いにより、2012年にドイツへ移住。ブラウンシュバイク在住の映像作家で、三児の父。

子どもの名前を考えるとき、パートナーと共通で意識したことがあります。①日本名、ドイツ名をそれぞれ付けるのではなく、一つの共通した名前にする、②双方の祖父母が同じように呼べるよう、日本語・ドイツ語で発音が同じになること(日本人に発音が難しい「R」や、日独で別の発音になる「J」などは避ける)、③短く覚えやすいもの、④最終的には生まれた子どもの顔を見てから決める、などなど。日独共通の名前で呼ばれることで、彼らの軸となるアイデンティティーを育む助けになれば、という思いがありました。パートナーと2人でそれぞれ名前の候補を紙に書いて見せ合い、話し合って決めました。

1人目の子は「ノア」。「の」んびり「あ」せらず、という意味を込めています。また、僕たち夫婦は船上で知り合い、ノアの妊娠を機にドイツ移住を決めました。ノアが僕たちの人生を導いてくれているような気がしていたので、「ノアの箱舟」のイメージも重ねています。2人目は「花(はな)」、3人目は「怜央(れお)」という名前にしました。

余談ですが、ほかにもいろいろな候補を考えました。例えば、「元気」の意味から「元(Gen)」という名前を考えたら、ドイツ語では「遺伝子」の意味だと言われたり。また、末広がりの意味から「八(Hachi)」という名前はどうかと提案したら、それはドイツ語だと「くしゃみの音」、というやりとりも。それもいい思い出ですね。

日本生まれのドイツ人3兄弟

お話を聞いた人

Dr. アンネグレート・ベルクマンさん Dr. Annegret Bergmann ベルリン自由大学美術史学科准教授。日本に約20年間滞在し、その間、三児の出産・子育てを経験した。

日本に住んでいる間に、ドイツ人の夫との間に3人の男の子が生まれました。名前はそれぞれ、「Felix(フェリックス)」、「Jesko(イェスコ)」、「Thiemo(ティーモ)」です。「フェリックス」は「幸福」という意味で、夫婦で話し合って決めました。ただし「生まれてみたら印象が違うこともあるかも」と思い、生まれるまでは周囲には内緒にすることに。実際に生まれた子の顔を見たら、私たちの目には「フェリックス」という名前がぴったりだと思えて、そのまま名付けました。「イェスコ」は、夫が最も好きな名前の1つでした。スラブ語が語源で「強い、誇り高い」というような意味があります。「ティーモ」は、名前の載ったリストを見たりして考えました。スペルが一般的でないのと、「勇敢な」「ヒーロー」という意味がいいなと思って。

子どもの名前を考えるとき、これから彼らが日本で成長していくことも多少考えましたが、とはいえ名前を決める基準にはしませんでした。3人の名前はどれも発音が簡単ではないですし、「イェスコ Jesko」は「やす子 Yasuko」に聞こえなくもないですが(笑)。子どもたち自身も、それほど気にしていなかったと思います。

異文化のなかでは、外国人の名前は聞き慣れない感じがするでしょうが、最近ではグローバル化によって、名前もどんどん国際色豊かになってきています。日本人名を好んで付ける人も、世界中で数多くいるようですよ。

 
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