インフレ、エネルギー危機に備えるには?ドイツで楽しく気持ちよくできる「節約のヒント」
戦後最大のインフレ、そしてエネルギー危機で、これまでになく家計が圧迫され、この冬をどう過ごそうか不安に思っている人は少なくないだろう。もともと倹約家として知られるドイツ人は、節約術に長けているほか、最近は環境保護の観点から省エネにも積極的だ。そんなドイツでは、経済的にも環境的にもサステナブルなサービスが増えてきている。本特集では、こんな大変なときだからこそ実践してみたい、ドイツで楽しく気持ちよくできる節約のヒントをお届けする。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)
目次
今ドイツで何が起きている?
過去70年で最大のインフレ率
今年9月、ドイツのインフレ率はついに10.0%(10月には10.4%)となった。これはおよそ70年ぶりの上昇率だ。最大のインフレ要因は、ウクライナに侵攻したロシアからエネルギー供給が削減されたことで起こった、エネルギー価格の高騰。エネルギー価格だけでみれば、今年10月には前年同月比で43%も上昇している。特に家庭用のエネルギー価格高騰は著しく、天然ガスは2倍以上(109.8%)となり、電気も26%値上がりした。
エネルギー価格インフレ率(2022年10月) ※前年同月比出典:ドイツ連邦統計局
エネルギーの次に大きな影響を受けているのが、食料品だ。エネルギー、肥料、飼料のコストが急激に値上がりし、労働不足と人件費が高騰したことが要因となっている。10月時点のインフレ率は、前年同月比20.3%。2000年から2019年にかけてのインフレ上昇率が平均1.5%弱だったことを考えると、大幅な価格高騰であることが分かる。
食料価格インフレ率(2022年10月)※前年同月比出典:ドイツ連邦統計局
生活スタイルを変えざるを得ない状況
イプソスが10月に行った「世界が心配していること調査」では、インフレはドイツ人の2人に1人にとって不安の種であることが分かった。8月に行われた同調査から6ポイント上がっており、生活を不安に感じる人がますます増えてきている。
ドイツ人は何を心配しているのか?出典:Ipsos Global Advisor-Studie »What Worries the World«(2022年10月)
また、ドイツ貯蓄銀行協会が夏に行った調査によると、46%の人が消費を制限したいと考えており、10月にはその割合が54%にまで上昇したという。さらに消費者の61%がより安価な商品を手に取るようになり、54%は買い物自体が減った、49%が家庭での暖房の使用を減らすなどエネルギーを節約するようにしている。調査の結果、人々の消費意欲は過去16年間で最低レベルに達していることが明らかになった。
このような状況下では、市民一人ひとりが生活を見直すことが求められる。以下では、そのヒントとなる節約術をご紹介しよう。
参考:tagesschau「Welche Preise besonders stark steigen」、zdf「Menschen schränken Konsum noch stärker ein」、ドイツ連邦統計局
お財布にも環境にも優しい「節約術」
いろいろと我慢することだけが節約だけではない。今回紹介するのは、ドイツで注目されている経済的にも環境的にもサステナブルなサービスの一例だ。家計を節約しながら、地球に優しいアクションを起こせたら、まさに一石二鳥。ぜひ生活スタイルを見直すヒントにして。
リーズナブルな価格で食料品を救うToo Good To Gohttps://toogoodtogo.de
世界では、食料品の約3分の1が食べられることもなく廃棄されているという。この食料廃棄物の問題を解決しようとデンマークで生まれたのが、「Too Good To Go」というアプリだ。アプリをダウンロードしたら、自分の住んでいるエリアを登録。すると、近くのスーパーやパン屋、飲食店、ホテルなどが表示され、それぞれ廃棄される予定の食品の一覧を見ることができる。
例えば、とあるパン屋の「2枠/夜の特売品/21:00~22:00/10.5€→3.5€」という情報が出ていた場合、そのお知らせをクリックして予約し、指定の時間にピックアップするという仕組み。割安で食品を手に入れられるだけでなく、食料廃棄物を減らすことに貢献できるのがうれしい。
レシピと必要な食材を届けてくれるHelloFreshwww.hellofresh.de
いつも食材を余らせてしまう、毎日の献立に悩んでいる、忙しくて外食が続いている……そんな悩みに答えてくれるのが、レシピとそれに必要な食材をクックボックスに入れて届けてくれる「HelloFresh」だ。2011年にベルリンでスタートし、現在では日本を含むおよそ20カ国で事業を展開している。「肉と野菜」、「ベジタリアン」、「時短」などのカテゴリを選び、人数と一日の食事の回数を設定すると、1週間分がまとめて送られてくる。
一食分の最低価格は4.22ユーロ(2022年11月現在)で、新鮮な旬の食材を使用しており、調理時間は30分ほど。HelloFreshは配送で二酸化炭素(CO2)排出量の削減に取り組むほか、必要な分の食材だけを提供するため、食料破棄物を減らすことにもつながる。
贈り物も見つかるオンラインの古着屋さんVintedwww.vinted.de
「Vinted」は、2008年にリトアニアで設立された古着のオンラインマーケット。欧米18市場で7500万人以上が登録しており、メンバーがお互いの洋服や雑貨を売買することが可能だ。一般的なオンラインショップのように、サイズや色、価格などが選択でき、ピッタリな商品を見つけることができる。売買はVintedを通じて行われ、販売手数料は無料。
買い手は一律で0.70ユーロ+価格の5%を支払う仕組みだ。Vintedが今年夏に発表したドイツのユーザー調査によれば、今後12カ月以内に中古品をプレゼントとして検討すると答えた人は73%だったそう。Vintedでレトロなヴィンテージものやお気に入りのブランドを見つけて、クリスマスプレゼントにしてみるのはいかがだろうか。
CO2排出量を知って省エネnullifywww.nullify.app
2015年に採択されたパリ協定により、世界各国が2050年までにCO2の排出量をゼロにする、いわゆる「カーボンニュートラル」を目指している。しかし、実際に自分がどれほどのCO2を排出しているかは意外と知らないもの。気候活動家と学生のチームが開発した「nullify」は、「毎日どの交通機関を使っている?」、「あなたの食事のスタイルは?」などの質問に答えていくだけでCO2排出量を計算してくれるアプリだ。ドイツの一人当たりのCO2排出量は年間平均1万1170トン。計算して出た自分の数値を見比べて、もしかしたらショックを受けるかもしれない。そうしたら、nullifyが提案するCO2排出量の削減方法を試してみよう。めぐりめぐって、節約にもつながるはずだ。
省エネ生活見直しリスト
習慣を変えるだけで省エネにつながったり、意外と知らない方法があったりするもの。一つひとつチェックしてみよう!
※あくまで一般論のため、製品や建物の構造や環境、地域によって期待できる効果は異なる
- 照明を全てLEDに切り替える(最大90%エネルギー削減に)
- PC(約200ワット~)の代わりにラップトップ(約30ワット)を使う
- 使用していない電化製品のコンセントを抜く(電気代の約10%を占める)
- 洗濯機の温度設定を30度にする(60度と比較して消費電力が約3分の1に)
- シャワーヘッドを節水タイプに変える(使用水量が約半分になる)
- 冷蔵庫と冷凍庫の霜取りをする(5ミリの霜で消費電力は30%増)
- ケトルで必要な分だけお湯を沸かす(電気コンロよりも消費電力が約3分の1に)
- 蓋をして調理をする(調理時のエネルギーを最大3分の2削減)
- オーブンは「予熱」せず、出来上がりの数分前にはスイッチを切り「余熱」を利用する
- 暖房の代わりに湯たんぽを使う(本当に暖房が必要か常に考える)
参考:Utopia.de「Energiesparen: 17 Tipps für jeden Haushalt」、WWF「Strom sparen im Haushalt」
なぜドイツ人は「倹約家」といわれるのか?
倹約はブルジョア階級の美徳
ドイツ人に「倹約家」というイメージがあるゆえんは、どこから来ているのだろうか。ドイツ人ジャーナリストのペーター・ツーダイク氏はドイチェ・ヴェレのコラムで、なかでも倹約家なのはブルジョア階級を象徴するような家長だと分析する。ツーダイク氏によれば、彼らは歯磨き粉のチューブを切り開いて最後の数ミリグラムまでを確実に使い切り、液体石けんの一滴一滴を無駄にしないように家族を教育し、ランプをつけっぱなしにせず、ティーバッグは少なくとも2回は使用するという徹底ぶりだという。
倹約の精神は16世紀のフランスの宗教改革者カルヴァンの思想にまでさかのぼる。勤勉さと謙虚さが敬けいけん虔な生活の中心であり、浪費は重罪とされたのだ。その後18世紀までには、倹約は秩序、清潔さ、時間の正確さに並んで、ブルジョア階級の美徳となった。19世紀末には「倹約する人は社会主義者でも無政府主義者でもない」という思想が、労働者階級の間で広まった。1925年にはドイツで初めて世界勤倹デーが制定され、当時のモットーは「倹約はドイツの復興の力になる!」だった。さらにナチス政権のプロパガンダでは「労働と倹約をする人がドイツの気質を守る」といわれ、倹約が奨励されたという負の歴史もある。
現代ではサステナビリティの視点も重要
1950年代以降、ドイツの子どもたちは毎年10月の世界勤倹デーで倹約の大切さを学んでおり、倹約の精神は今も受け継がれている。それは、ドイツ人が倹約してきたことによってたびたび経済危機を乗り越えてきたという経験もあるからだろう。現在ではさらにサステナビリティが重要視され、さまざまなアイデアを持ったスタートアップが登場し、楽しく節約できる 方法も増えてきている。そんなドイツで生み出され、実践されてきた節約術や省エネ術から学べることは、まだまだたくさんありそうだ。
参考:DW「Die deutsche Sparsamkeit」、RP ONLINE「Wie die Deutschen zu Meistern im Sparen wurden」