自分にできることは何か?「知る」ところから始めてみようドイツのウクライナ難民の状況
ウクライナから100万人以上が避難してきたドイツ。街中でウクライナの人々と出会ったことがある人も少なくないだろう。一体どのような人々がウクライナから逃れてきたのか、どんな支援を受けているのかをご紹介するほか、国内の支援例を取り上げる。
数で見るドイツのウクライナ難民の状況
参考:Mediendienst Integrationドイツが受け入れたウクライナ難民の数
EU内での受け入れ人数は、ポーランドの156万3386人に次いで、ドイツは2番目に多い。
ロシアのウクライナ侵攻直後、ベルリン中央駅には毎日数千人のウクライナ難民が到着していた。そこでは、宿泊受け入れ可能な市民たちがそれぞれの条件を書いたプラカードを持って駅に立つ姿が見られた
18歳未満の人数
ドイツの学校に通う子どもの数
ドイツ各地の学校ではウクライナから逃れてきた子どもたちのためにウェルカムクラスを設置し、ドイツ語を学べる環境を整備。しかし教師不足の状態が続いており、すでに引退した教師を現場に呼び戻すケースなどもある。
居住先トップ5
ウクライナ難民の男女比
18~60歳のウクライナ人男性は国民総動員令により出国を禁じられているため、女性と子どもが多い。
住居
ドイツで働くウクライナ人の数
ドイツに避難したウクライナ難民のうち72%が大学もしくは専門学校を卒業しているため、ドイツ全体と比べて高等教育を受けた人の割合が多い。また、ドイツに暮らす15~64歳のウクライナ難民のうち、17%がドイツ国内で仕事をしている。
今後のプラン
ウクライナから難民としてドイツへ入国、滞在する場合
● ビザなしの入国および90日間の滞在可
● 一時保護措置により、申請すると1年間の在留資格が与えられ、最大3年間まで延長可
● 宿泊施設、食事、医療のサービスのほか、給付金(例えば、独身もしくは一人親の場合は月367ユーロ)の受け取りが可
語学支援からアーティスト支援までゲーテ・インスティテュート
世界各地でドイツ語講座を開講し、さまざまな催し物を通じてドイツとの文化交流を図ってきたゲーテ・インスティテュート。ゲーテ・インスティテュート・ウクライナは昨年の侵攻以降は休館中で、スタッフはドイツもしくはウクライナ西部へ避難している。一方で、機関としての活動は現在も続いており、本国のゲーテ・インスティテュートと共にドイツ語学習の機会提供やアーティストへの助成金など、ドイツに逃れてきたウクライナ人を支援してきた。 参考:Goethe-Institut(www.goethe.de)
Ein Koffer voll mit Büchern (トランクを本でいっぱいに)
ドイツ図書館協会と協力し、ドイツ各地にいるウクライナ難民の子どもたちに本を届けるプロジェクト。ウクライナ人の作家をはじめとしたウクライナ語の絵本や小説が詰まったトランクが全国600カ所の図書館に贈られた。図書館と書籍のリストはホームページから確認できる。
Mein Weg nach Deutschland (ドイツへの道)
ドイツで働きたいウクライナ難民のためのポータルサイト。ドイツ外務省から委託されてゲーテ・インスティテュートが運営している。「1. 私はドイツに(ビザなしで)行くことができますか?」「11. ドイツ語を学ぶ」「13. ドイツで働く」など、ステップ別に必要な情報やお役立ちリンクがまとめられている。ちなみに、ウクライナ人向けにドイツ語初心者のためのオンラインコースが、約5ユーロで提供されている。 www.goethe.de/prj/mwd/de/ukraine.html
Goethe-Institut im Exil (亡命中のゲーテ・インスティテュート)
Goethe-Institut im Exilは、ウクライナ戦争を機に、亡命状態の国々のアーティストたちの発表や交流の場を提供することを目的に企画されたプロジェクト。現在ウクライナ以外にもシリアやイランなどの国々のゲーテ・インスティテュートも亡命状態にある。第一弾は昨年10月6~9日にベルリンで開かれ、ウクライナのアーティストによるパフォーマンスや朗読が披露された。第二弾としてイランのアーティストによるプロジェクトが進行中。
ウクライナの子どもたちを支援したい!日本人支援グループ「ウクライナの友」
昨年6月にデュッセルドルフに暮らす日本人コミュニティーが立ち上げた「ウクライナの友」は、チャリティーコンサートや物資支援など、さまざまなウクライナ支援プロジェクトを実施している。活動を始めたきっかけや支援への思いについて、発起人の岩間倫美さんをはじめ、ウクライナの友のメンバーに話を聞いた。(取材協力:ウクライナの友、Pro Ukraine e.V.)
ウクライナの子どもたちからは、息を吹きかけて回るかざぐるまが人気だったそう
デュッセルドルフに生きる日本人として何ができるか?
「ウクライナの友」の発起人である岩間倫美さんは、在デュッセルドルフ日本国総領館の岩間公典前総領事のパートナーで、ウクライナ総領事と会った際にウクライナから逃れてきた4~18歳の児童養護施設の子ども300名ほど(当時)がノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州に暮らしているという話を耳にした。子どもたちは、戦争が始まってから巡り巡ってドイツ、そしてNRW州へとたどり着いたという。その後、岩間さんは慈善団体「AmericanInternational Women’s Club of Düsseldorf」(AIWCD)主催のチャリティーコンサートに参加。その日はウクライナ総領事の夫も出席する予定だったが、その子どもたちのケアで忙しく参加を断念したことを知る。
自分はコンサートに参加したきりで良いのか。岩間さんは悩んだ末、欧州で3番目の大きさを誇るデュッセルドルフの日本人コミュニティーの一員として、ウクライナの子どもたちを金銭以外でも支援できないかと思うように。そして、デュッセルドルフやその周辺に住む9名の日本人で「ウクライナの友」を発足した。
支援活動には「Pro Ukraine e.V.」の協力も得ている。この団体はNRW州で長くウクライナの子どもたちに人道的支援を行っており、今回避難してきた子どもたちの世話役もしている。ウクライナの友は、上記団体を通してこれまでに食料やマンガの物資支援をするほか、フェイスブックページで日本語による物件情報を呼びかけるなど、メンバーそれぞれができることを持ち寄り、少しずつ支援の輪を広げていった。ここでは、いくつかのプロジェクトをご紹介する。
KUMONプロジェクト
デュッセルドルフの公文式教室の先生であるフックス真理子さんがウクライナの友のメンバーとなり、公文式の教室にウクライナの子どもたちを受け入れることに。個人の希望に合わせ、算数か英語もしくは両科目を教えている。もともと教室には多様な背景を持った子どもたちが多く、当初ウクライナの子どもたちに言葉が通じなかったときには、ロシア人の生徒に通訳をしてもらうことも。子どもたちの世界にはウクライナもロシアもないのだ、と考えさせられたという。
ピアノレッスン
デュッセルドルフ、エッセン、ケルンには音楽大学があり、日本人学生が学んでいるほか、そのまま同地で演奏家として活躍している方も。ウクライナの友のメンバーである富田珠里さんもデュッセルドルフで活躍するピアニストの一人だ。この支援では、昨年9月から富田さんがウクライナから逃れてきたアリーナとミラのピアノレッスンを担当している。楽譜やピアノの寄付があったほか、デュッセルドルフ音楽教室のコンサートにも出演。この取り組みはNHKでも取り上げられ、今も二人はピアノのレッスンに通っている。
昨年11月の発表会に出演した富田さん、アリーナ、ミラ
ソーラン節ワークショップ
昨年9月30日、International School of Düsseldorf(ISD)に通う日本人の子どもたち16人と、ウクライナの子どもたち20人が集まり、ソーラン節のワークショップを開催した。まずは日本人の子どもたちがお手本を見せ、一緒に一つひとつの動きを練習。ティーンエイジャーだから恥ずかしくて踊らない子も多いのでは……というウクライナの友のメンバーの予想に反して大盛況だったという。ソーラン節を踊った後には、ウクライナの踊りが披露されるなど、互いの文化を知るきっかけにもなった。
全員で記念撮影後、インスタグラムのアカウントを教え合うなど、会が終わってからも子どもたちは積極的に交流していた
折り紙ワークショップ
ソーラン節が好評だったことから、昨年11月に折り紙ワークショップを企画。折り紙講師であるマリア・レンズベルク=ペイルさんを招き、日本人の子どもたちとウクライナの子どもたちが参加した。1月に2回目も開催し、継続が期待されている。
なお、これらのプロジェクトの報告や最新のイベント情報は、ウクライナの友のフェイスブックページで随時更新されている。
支援の思いがけない影響
前述のPro Ukraineの代表であるヴェラ・ブッシュさんは、ウクライナの友の活動について次のように述べている。「デュッセルドルフの大きな日本人コミュニティーの友人たちは、ウクライナの子どもたちが(この地で)受け入れられていると感じる素晴らしい取り組みを行っています」。そして先日、Pro Ukraineは支援活動を始めて20年の節目を迎えた。「私たちは長い支援活動のなかで何が必要か、そしてそれがどこへ向かうのか、100%信頼できる人々と協力して行ってきました。そのため、寄付はいつでも最善の支援です」と経済的支援の重要性も話してくれた。
ウクライナの友が企画したソーラン節や折り紙ワークショップでは、参加した日本の子どもたちにも思いがけない影響があったようだ。ウクライナから来た同年代の子どもたちと話したり同じことをやり遂げたりする経験は、日本の子どもたちにとってウクライナを身近に感じたり、親子で戦争について話し合ったりするきっかけに。またウクライナの子どもたちにとっても、自分たちは世界から忘れられていないんだという肯定感につながったという。
ウクライナの子どもたちから「またやってほしい」という声もあることから、ウクライナの友のメンバーの間では「子どもたちはつながりを求めているのではないか」と話しており、そうした機会をもっと作っていきたいという。「支援」は、どうしても一方通行になりがちだ。しかし、こうしたインタラクティブな活動によって、両国の子どもたちがお互いに影響し合う経験を積めることも、これからの時代の支援活動に欠かせないのかもしれない。
各方面で戦争が長期化するといわれているが、ドイツへと逃れてきたウクライナの人々に対しても、今後も長い目での支援が必要だろう。ウクライナについてもっと知ること、何かイベントに参加してみること、信頼できる団体に寄付をすること……一人ひとりの力は小さいかもしれないが、ウクライナ侵攻から1年を節目にあらためて自分に何ができるのかを考え、ぜひ行動に移してみてほしい。
ロシアのウクライナ侵攻から1年ドイツであらためて考えるウクライナのこと >