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最期まで自分らしい人生を送るドイツのセカンドライフ&終活事情

ドイツは日本と同じく高齢化率が世界でトップ3に入る超高齢社会。年金問題や定年問題をはじめ、老後に不安を感じている人も少なくない。充実したセカンドライフを送るために、ドイツではどのような選択肢があるのか、人生の最期をどのように迎えるのか……。本特集では、日本とは違う文化や考え方にもフォーカスしつつ、在独邦人としてどのように老後を過ごしたらよいか、ヒントをお届けする。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

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数字で見るドイツの超高齢社会事情

参考:ドイツ連邦統計局
65歳以上の人口

65歳以上の人口

老年指数 Altenquotien ▶︎ 20~64歳の年齢層100人当たりの年金受給者の数

老年指数

ドイツ人の平均寿命(2020/22年)

ドイツ人の平均寿命

ドイツ人はセカンドライフをどう過ごす?

仕事も引退して、いよいよセカンドライフスタート!ボランティアに参加したり、旅行に出かけたり、さまざまな選択肢があるなかで、ドイツらしさも垣間見えるセカンドライフ事情をのぞいてみよう。

定年引き上げにもかかわらず早期退職者が増加傾向に

2023年現在、ドイツの定年は65歳となっているが、2031年までに段階的に67歳まで引き上げられることが決まっている。しかし実際には、63~64歳に早期退職を希望する人が多いという。ドイツ年金保険(DRV)の調査によれば、2021年に年金の受給を開始した人のうち4人に1人が早期退職に該当し、これは2013年以降で最も多かった。ドイツでは、年金保険に35年以上加入していれば、早期退職でも年金を受け取ることができるが、定年に達するまでは毎月0.3パーセントずつ減額される。年間3.6%もの減額になるが、そこまでして早期退職を望むのはなぜだろうか。

ヴッパータール大学の研究によると、最も多い理由としては「自由な時間がほしい」ことが挙げられる。ほかにも、経済的に安定していること、激務であること、健康上の問題なども。2021年に調査会社Civeyが2500人に実施した調査によると、4人に3人は身体的もしくは精神的な理由により67歳まで働くことができないと考えており、67歳まで働きたい労働者は8人に1人のみ。18~29歳にいたっては、約6割が61歳までしか働きたくないと回答している。

ヴッパータール大学の労働学のハンス・マルティン・ハッセルホルン教授は、「人々はただ早く仕事から抜け出したいだけで、63歳で退職するという選択肢を国が与える限り、それを選ぶだけ」と話している。早期退職は、経済的に余裕がある限り、今後さらに多くの人が選択するとみられている。

参考:MDR「Warum die Menschen früher in Rente gehen」、Handelsblatt「Mehrheit der Deutschen will mit 62 in den Ruhestand」、 tagesschau「Mehr Menschen gehen früher in Rente」

地域の子どもたちを世話するおばあちゃん・おじいちゃん代行

近くに孫が住んでいない、あるいは孫がいないシニアもいる。それでも子どもが好きで、時間もたっぷりある……そんなシニアたちに人気の活動が、「Leihoma(Ersatzoma)/Leihopa(Ersatzopa)」(おばあちゃん・おじいちゃん代行)だ。これは、近くに祖父母が住んでいない子育て中の家族の仮のおばあちゃん・おじいちゃんになるというシステムで、20年以上前からドイツ各地で行われている。ボランティア団体やポータルサイトを通じてマッチングし、定期的に子どもの面倒を見たり、一緒に料理をしたり、どこかへ出かけたり、本当の祖父母と孫のような関係を築くことができる。

ボランティアで行う人もいるが、時給が発生したり交通費のみ支給されるなど、どの団体を通すかによっても条件が変わってくる。子どもの宿題を見るのか、車での送り迎えは必要なのか……など、お互いの条件に合う人を見つけるのに数カ月かかることもあるという。

代理で誰かのおばあちゃんやおじいちゃんになり、人とのつながりや責任感を持つことで、社会に必要とされていると感じることができる。それは高齢者にとって、心理的にも身体的にも充実した生活を送ることにつながる。一方、子どもにとっても、親以外に良き理解者がいることや、違う世代と関係を持つことは成長過程において大切であり、双方にとって意義のある取り組みといえそうだ。

参考:familie.de「Betreuungshilfe Leihoma: So könnt ihr euch von liebevollen Ersatzomas unterstützen lassen」、Aktive-Rentner.de「Wie werde ich Leihoma?」

高齢者同士で暮らす「シニアWG」も住まいの一つの選択肢に

ドイツ語でフラットシェアを意味する「WG」(Wohngemeinschaft)が、ドイツでは高齢者施設に代わる、住まいの選択肢の一つとなっている。いわゆる「シニアWG」(Senioren WG)は、大きく分けて二つのタイプに分かれる。一つ目は、昔ながらのシニアWG。学生などのWGと同じようにリビングやキッチン、バスルームなどの共用スペースに加え、個人部屋があるのが一般的だ。WGを検討する際は、同居者と柔軟にコミュニケーションが取れるかどうか、どんな社会的背景、趣味や興味を持っている同居者が自分にふさわしいのかなど、考える必要がある。二つ目は、ディアコニーやカリタスなどの福祉法人が運営する介護WG(Pflege-WG)。介護士が常駐している場合も多く、認知症の人々に特化した認知症WGもある。今日では、シニアWGのほとんどがこの介護WGに当たるという。

大きな介護施設に入りたくない人にとって、介護WGは魅力的な選択肢だ。WG立ち上げ時には、助成金として1人当たり2500ユーロ(1戸4名で上限1万ユーロ)が介護保険会社から支払われる(在宅介護での自宅改築に給付される4000ユーロとは別)。しかし、条件が合わずに申請が却下されることも多く、成立しても毎月の自己負担額は介護施設に比べて割高。また、プライベート空間が確保された高齢者共同住宅(Senioren-Hausgemeinschaft)や多世代融合住宅(Mehrgenerationenhaus)など、個々のニーズに合わせた選択肢が存在する。いずれにしても、元気なうちに検討し、行動に移すことが大切だ。

参考:『ドイツで送る老後』(DeJaK友の会)、pflege.de「Senioren-WG」

じわじわ増えているシニアの海外移住 人気の移住先は?

ドイツの年金受給者が海外移住するケースが増えている。ドイツ年金保険(DRV)によると、2020年には2122万4000件の年金支給があったうち、24万8000件が外国に住むドイツ人に支払われたという。これが2016年の時点では23万4000件だったため、在外の年金受給者がじわじわと増えていることが分かる。実はDRVでも「憧れの地で年金生活を満喫して」(Genießen Sie Ihren Ruhestand am Wunschort)というキャッチコピーを掲げ、積極的に移住を推奨。これにはグローバリゼーションに伴い、外国での年金受給におけるさまざまな障壁が取り除かれたことが背景にある。

ドイツに残って少ない年金でやりくりするよりも、物価やサービス料の低い他国で充実した年金生活を送りたいというのが、最も多い移住理由。また、冬の間だけ気候が穏やかな地に移住するというパターンもある。これらの理由から、人気の移住先上位5カ国には、ポーランド、チェコ共和国、ハンガリー、オーストリア、スペインがランクインしている。東欧や南欧の人気も上昇中で、欧州以外では米国が最も多い。

しかし、高齢になってからの海外移住は憧れだけでは実現しない。在外ドイツ人協会でも、外国で年金生活を送るために資金確保を含めてきちんと計画を立てること、言語や文化の違いによって起こりうる問題についてよく考えることを呼びかけている。

参考:Deutsche Rentenversicherung、inFranken.de「Für die Rente auswandern - die besten Länder für den Ruhestand」、DIA Deutsche im Ausland e. V.「Ruhestand im Ausland Auswandern als Rentner」

自分のことは自分で決める!ドイツの終活で大切な3つの手続き

ドイツにおいて、自分の医療措置や最期の迎え方を自分で決めたいという人は、年齢にかかわらず、万が一の場合に備えてさまざまな手続きを行っておく必要がある。いわゆる「終活」の一環として、法的に必要な項目をご紹介しよう。

参考:『ドイツで送る老後』(DeJaK友の会)、Deutschen Friedhofsgesellschaft「Deutsche sorgen für Krankheit und Tod vor」

事故や病気によって判断能力や自分の意思を表現する術がなくなった場合、日本では家族が代わりに世話をしたり、判断したりするのが一般的。しかしドイツでは本人から委任を受けていなければ、本人の代わりに決定を下すことはできない(緊急時に限り、一緒に暮らす配偶者が決定を代行できる)。もし代理人がいない場合には、裁判所が後見人を選定するため、手続きにも時間がかかる。さらに、本人をよく知らない人が後見人に指定されれば、本人の意思にそぐわない判断がなされることも。そうした事態に備えて、右の三つは特に重要な法的手続きとなる。

実際こうした手続きを含め、ドイツではどのくらいの人が万が一に備えているのだろうか。2022年にドイツ墓地組合が調査会社GfKと共同で行った調査によれば、54%の人が遺言や事前医療指示書、任意代理委任などの準備をしていることが分かっている。これは年齢層が上がるにつれて割合が高くなる傾向にあり、50~59歳は51%、60~69歳は67.6%、70歳以上では72%だった。なお、任意代理委任は全体の39.2%、事前医療指示書は37%が持っていると回答している。

重要な法的手続き

❶ 事前医療指示書 Patientenverfügung

治癒の見込みがない病気にかかり死期が迫ったときに、どのような治療を望む・望まないかなど、事前に医療に関する指示をまとめておく法的な文書のこと。「苦しみの少ない生活を取り戻せる可能性がある場合、妥当と思われる治療や介護を続けてほしい」といった抽象的な表現はNGで、かなり具体的に記しておく必要がある。指示書は連邦中央公証人登録所(ZVR)に登録するか、代理人に指示書の保管場所を伝えておく。

❷ 任意代理委任 Vorsorgevollmacht

まだ本人に決定能力がある間に、判断能力のある人に代理人としての権利を委任すること。健康・介護・医療、財産、居住場所など、委任範囲は限定できる。代理人1人では荷が重い場合は、委任範囲ごとに複数人に委任することもできる。委任状を作成する必要があるが、委任した内容が法的に有効とならない場合もあるため、公証人にチェックしてもらいながら用意すると確実。

❸ 事前後見指示書 Betreuungsverfügung

事前に任意代理を委任していない場合で、例えば事故で意識がなくなったとき、後見人が本人に代わって意思決定を行う。事前後見指示書は、自分が知らない人が後見人になることを避けるためのもの。指示書では、本人が後見人として希望する人、絶対に希望しない人などの情報を記入しておき、病気などになった際に裁判所が後見人を決定する。後見人をお願いできる人がいない場合は、後見協会(Betreuungsverein)にサポートを依頼できる。

在独邦人のための終活案内

ドイツでは高齢者の支援と介護は、個人のニーズに応じた形でなされるべきものとされ、それは移民の文化や言語的背景を配慮することも意味する。そうした考えのもと、2012年にドイツに暮らす日本人のための団体として「DeJaK(デーヤック)友の会」が立ち上げられた。DeJaK友の会では情報共有をはじめ、講演会や勉強会を行っているほか、各種相談を受け付けている。右記は、同会による出版および配布物。
https://dejak-tomonokai.de

ドイツの老後にまつわる情報を日本語で解説『改定版:ドイツで送る老後』

公益法人DeJaK-友の会著

「介護保険と介護」、「高齢時の住まい」、「老後に備えて」の三つの章からなり、ドイツの介護保険制度などの具体的な情報を日本語で解説。巻末付録として、事前医療指示書や任意代理委任の書式例が日本語訳付きで掲載されている。会員12ユーロ、非会員は18ユーロで購入可(郵送費2ユーロ)。

日本語でじっくり考えられる備えファイル

自分で意思表示ができなくなった場合に備えて、上記の書類等の保管場所を含め、介護・医療、保険、葬儀、お金に関する情報や自分の希望を記入できるファイル。こちらからダウンロードできるほか、印刷版とインデックス(上)は注文可能。

時代とともに多様化するドイツの葬儀スタイル

誰もがいつかは迎える死。自分らしく送り出してもらえるよう、故人が遺書や代理人を通じて希望を残していることも多い。ドイツではどんな葬儀スタイルが一般的なのか、最近のトレンドも取り上げながらご紹介する。

参考:『ドイツで送る老後』(DeJaK友の会)、本誌1007号「死亡後の手続きからドイツでの葬儀まで エンディング・プラン」

ドイツで人が亡くなったら……

人が亡くなったら、まずは死亡診断書(Totenschein)を発行しなければならない。自宅で亡くなった場合は医師を呼ぶ。遺体は死亡してから36時間以内に遺体安置所へ移さなければならない。一般的に葬儀会社が移送を手配し、ほかにも埋葬方法、死亡広告、墓、埋葬と葬儀の準備と実施などを請け負ってくれる。また、遺族の悲しみを癒すため、カウンセリングなどを手配してくれる葬儀会社もある。

葬式 Beerdigung

土葬、火葬などの葬儀スタイルにかかわらず、埋葬する日に告別式(Trauerfeier)が行われる。一般的には教会や墓地に付属する礼拝堂、または葬儀会社の1室で行われ、聖職者や専門の語り手、もしくは近しい友人などが故人の生前のエピソードや人柄などについて語り、弔問者一同で故人をしのぶ。また、埋葬後はレストランなどの1室を借り、コーヒーやケーキ、昼食などが弔問者に振る舞われることも(Trauerkaffee)。服装は黒、白、グレーなどの控えめな色を着るのが一般的。

土葬 Erdbestattung

キリスト教では伝統的な埋葬方法だったが、現在は20~40%ほどの割合となった(地域によって異なる)。昨今の宗教離れに加え、費用が高額であることが理由になっている。遺族の心理的な事情から棺が降ろされる場面に立ち会いたくない場合は、参列者が全員立ち去ってから埋葬するなどの配慮がなされることもある。

火葬 Feuerbestattung / Urnenbestattung

1963年にキリスト教会で火葬が許可されるようになった。土葬よりも費用がかからないことから、現在では60~70%が火葬を選択している。骨壺(Urne)はさまざまなデザインのものがあり、故人の好きなものやイメージに合わせてオリジナルを制作することも可能。一般的には、土葬と同じように墓地に埋葬されるが、例えば次のような埋葬方法もある。

日本との違い
  • 荼毘 (だび) にふす際は遺族であっても立ち合えない
  • 高温で焼くため、日本のように骨の形は残らず遺灰となる
  • 遺族は遺灰を見ることも触ることもできない
  • 遺灰は自宅に持ち帰ることができない*
  • 分骨は認められていない*
※ただし、外国で火葬してドイツへ遺灰を持ち帰った場合は認められるなど一部例外が存在する
樹木葬 Baumbestattung

森林墓地(Friedwald)などの木の根元に骨壺を埋葬する樹木葬。埋葬される木には番号などのプレートが付けられており、墓碑を設置することもできる。家族や友人と共有することも可能。ドイツでは10人に1人以上が樹木葬を望んでおり、一般的になりつつある。

海葬 Seebestattung

日本で知られる散骨ではなく、骨壺を海へと放つ埋葬方法。ドイツでは北海やバルト海で行われ、およそ5~10%の人が希望している。なお、樹木葬や海葬向けの骨壺として、速やかに生分解されるようコーンスターチなどで造られたものもある(認められた州や墓地のみで埋葬可能)。

匿名葬 Anonyme Bestattung

匿名葬は全ての埋葬方法で可能だが、ほとんどの場合、火葬で骨壺を草原の墓地に埋葬する。墓石はないが、埋葬地の敷地内にある石碑に名前を刻める場合もある。匿名葬を希望する最も多い理由は、墓の管理費が不要であること。故人が匿名葬を希望していた場合は、遺族は埋葬に立ち会えず、埋葬場所も不明となる。

日本人としてドイツで最期を迎えるには?

現在、ドイツにはおよそ4万2000人の日本人が住んでいるが、そのなかにはもちろん高齢者も含まれる。自分らしく最期を迎えるために、ドイツに残るべきか日本に帰るべきか、家族がいない場合はどうしたらいいのか……など、在独邦人ならではの悩みもある。実際どのような課題があるのか、それらをどう解決したら良いのか、デュッセルドルフの公益団体「竹の会」の方に経験やアドバイスを伺った。※本記事の内容はあくまで個人の経験や知見によるものです。

お話を聞いた人

浅井ベルガー昭子さん(竹の会会長)、シェーファー弘子さん(同理事)、太田まりさん(同理事)

竹の会

在独邦人が自分らしく、社会とのつながりを持って老後を過ごせるよう立ち上げられた公益団体。現在、デュッセルドルフを中心に90名弱いる会員の40%が70代、22%を80代が占める。社会福祉団体ディアコニーと提携し、文化活動、相談や交流を目的にさまざまな定例会を設けているほか、講演会やイベントも開催。子ども連れで参加できる「おとなり会」も。若い世代の会員も募集中!
https://takenokai.de

日本外務省は8月16日、竹の会が日本とドイツの相互理解の促進に寄与してきた功績を称え、外務大臣表彰を授与することを発表した。

老後はドイツで過ごす?日本で過ごす?

一つの基準は「家族」

自分一人で判断して動けるのか、配偶者がいるのか、子どもがどこでどんな生活を送っているのか……家族の状況によって、ドイツに残るべきか日本に帰るべきかが、おのずと見えてくる。ドイツに残れば、言語や食事の問題が出てくる場合も多いが、人によっては、ドイツに家族がいることが大きな吸引力になることも。一方で、日本に帰る場合は受け入れ先があることが一つの指標になる。家族や親族、友人など、受け入れ側が健在であることも大切だ。

ドイツと日本の価値観、どちらが自分に合うか

日本に長い付き合いの友人がいても、お互いの経験には大きな違いがあり、分かり合えないことが少なからずあるだろう。ドイツに長く住む日本人同士であれば、ドイツで同じような経験をしているため、理解し合えることもある。また、自分の考えが日本での価値観に合わなくなっている可能性も。どちらの国での生活が自分の価値観に合うのか、今一度考える必要がある。

本帰国をするなら元気なうちに

終活の一環として、荷物を片づけたり処理したりする必要もある。そうした作業ができるよう、体が健康であることも大切。老後はドイツか日本か……と悩むタイミングは、誰しも一度は訪れるもの。決め切れずに気が付いたら体の調子が悪くなっていて、荷物の整理ができずに本帰国が叶わないことも十分に起こりうる。同じような状況や立場の人と情報交換をするなどして、元気なうちに決断することが望ましい。

ドイツで日本人高齢者が抱える問題

認知症でドイツ語が話せなくなってしまう

ドイツは移民大国のため、歳を重ねて母国語しか話せなくなってしまうことは日本人だけの問題ではない。例えば、ドイツではポーランド語話者やロシア語話者の高齢者が多いが、文化的配慮だけでなく、介護雇用の歴史的背景からもこの二言語を話す職員が高齢者施設に勤務していることは珍しくない。また、移民が多い国の言語やユダヤ教など宗教ごとの高齢者施設もある。しかし日本語話者の高齢者だけで施設を埋めるには人数が足りないため、残念ながら日本人向け施設を造ることは現時点では実現していない。そうした状況を少しでも改善するため、竹の会ではまず「認知症カフェ(※)」を定期的に開催することを目指している。

※認知症の当事者やその家族などが交流する定期的な集まり。オランダが発祥。

施設に入っても日本食を食べたい

ドイツの高齢者施設に入れば、もちろんドイツ式の食生活を送ることになる。一方で、一般的に高齢者施設への食べものの持ち込みは許可されているため、家族や友人が日本食を差し入れることも可能。また、ウーバーイーツなどの宅配サービスなどを利用できる施設では、事前に決済さえできていれば、職員が受け取ってくれる。いずれにしても、施設側と話し合うことが必要だ。竹の会では、日本人高齢者向けの弁当宅配サービスのアイデアが出ているが、実現するにはさまざまな壁を乗り越える必要がある。

孤独になりやすい傾向にある

特に一人暮らしの場合は、家に引きこもることで運動量が減り、病気になる、という悪循環に陥るケースが多い。そうした事態を引き起こさないために、例えば竹の会が開催する「コミュニティカフェ」のように、母国語でおしゃべりをしたり困りごとを相談したりする場に定期的に参加することが有効だ。ただし、認知症や移動が困難な場合は、そうした集まりに参加できないため、今後それらのケースにどう対応していくのか、竹の会でも課題となっている。

日本と違う介護制度に振り回されることも

日本の介護制度との大きな違いの一つは、ドイツにはケアマネージャーがいないこと。在宅介護の場合、日本ではケアマネージャーが介護レベルに合わせて利用できるサービスや施設を案内してくれるが、ドイツでは本人や家族などの在宅介護者が全て自力で調べ、申し込み等も行う必要がある。また、ショートステイも日本のように2~3日のみ対応してくれる施設は原則なく、そもそも予約できる施設を探すのに一苦労というケースも。一方で、ドイツでは在宅介護者に給付金が支給される。

ドイツで安心して老後を送るためにすべきこと

自分の希望を伝えておく

朝食には必ずコーヒーを飲みたい、毎日お風呂に入りたいなど、日々の生活には細かい希望があるもの。しかし、ドイツ語が十分に話せなくなったり、認知症になったりすれば、そうした希望を伝えることができなくなってしまう。子どもがいる場合は、子どもが施設とのやり取りを担うことも多いため、元気なうちに自分の要求をしっかり伝えておくことが大切。また、DeJaK友の会の「備えファイル」のように、書面で準備しておくことも有効だ。

近所の人と関係を築く

特に一人で暮らしている場合は、近所の人とコンタクトを持っておくことが大切だ。日本人コミュニティにしかコンタクトがない場合は、家で倒れるなどした際に、対応が遅くなってしまう可能性がある。例えば、隣りの人と関係を築いておけば、万が一の時に救急車を呼んでもらえるようにお願いすることもできる。本当に信頼できる人であれば、鍵を預けておくことも備えの一つになる。

ドイツ社会に根ざす努力

元来ドイツでは、移民に対してインテグレーション(統合)が求められている。これはドイツ社会に同化するということではなく、自分の言語や文化を持ったまま、ドイツ社会に根ざすことを意味する。例えば、デュッセルドルフの場合は、日本語だけで生活して日本語だけで老いていくことは究極的には可能だ。しかし、ドイツ社会や価値観について理解し、どれだけ地域に密着できるかが、さらに老後を充実させるポイントの一つになる。

 
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