ジャパンダイジェスト

130周年を迎えた欧州映画の過去•現在•未来 英独インタビュー

誕生から130年という歴史の中で、映画は社会の変化とともに進化した。映画や映画館は今後どこへ向かうのか。ここでは、映画産業を内側から支える英独のお2人に話を伺った。

英国
映画館は作品を通じて
観客と新しい視点を分かち合う場所

ロンドンのインディペンデント系映画館「ガーデン・シネマ」。キュレーターであるジョージ・クロスウェイトさんが語る、映画館が今の社会で果たす役割とは。

ジョージ・クロスウェイト George Crosthwait
ジョージ・クロスウェイト

キングス・カレッジ・ロンドンのフィルム・スタディーズ修士課程で教鞭を取る。2017年にはロンドンで「Japanese Avant-garde and Experimental Film Festival」を企画。20年から「ガーデン・シネマ」キュレーター。

オーナーの思いから誕生した映画館

外観も内部もアール・デコ調のガーデン・シネマは、世界中のクラシックな名作や新作映画を上映するインディペンデント系映画館として、2022年3月にオープンしました。この映画館は、オーナーであるマイケル・チェンバース氏のこだわりから生まれたといってもいいでしょう。現在83歳の同氏は、かつてこのビルの上階で法律事務所を経営し、地下に映画館を建設しました。少年時代に通っていたアール・デコ調の映画館を再現したいという思いがあったのだそうです。また、このビルにはメディア関連の企業やロンドン・フィルム・スクールの一部も移転してきており、発展途上ではあるものの、映画業界のハブとしての役割を果たしつつあるのは喜ばしいことです。

The Garden Cinemaガーデン・シネマ

パンデミックで再認識した映画館の在り方

ガーデン・シネマも新型コロナによるパンデミックの影響を大きく受けました。開業予定だった20年3月は、英国の最初のロックダウンの直前であり、実際にオープンできたのは2年後です。その間に自宅でのエンターテインメントが主流となり、ストリーミング視聴が定着しました。そのため多くの映画館が閉鎖され、今もこの業界は非常に困難な状況にあります。また一方で、映画館という場所が提供する「体験」を一層大切にする観客が増えてきました。映画館での共同体験や特別な空間が、単なる鑑賞を超えた価値を持つようになったといえます。

The Garden Cinema地下に二つのスクリーンと、バー・エリアがある

ガーデン・シネマでは新作だけでなく、クラシック映画やキュレーションされた特集を積極的に上映しています。自宅で何万本もの映画をストリーミング視聴できる、選択肢があまりに多い現代において、「慎重に選ばれ、提示される」感覚が、人々にとって魅力的なものとなっていると感じます。プログラムの内容を信頼し、ここに来ることで何を観れば良いかという指針を得ることができるからです。この映画館全体が設計から上映作品、提供するイベントまで、全てが人々をつなげることを目的としています。映画を観た後、ロビーで知らない人とその映画について話し始めることもあるでしょう。それは単なる鑑賞体験にとどまらず、コミュニティーを築き、既存のロンドンの映画文化に新たな場所を提供する試みなのです。

The Garden Cinema2025年には地上階に三つ目のスクリーンがオープン予定

インディペンデント系映画館の未来

あるシーズンでは非常にニッチな作品を取り上げる一方で、昨年のアル・パチーノ特集のように、観客に親しみやすいものも提供するなど、年間を通じてバランスの取れたプログラムを目指しています。社会動向については、それが意識的であれ無意識的であれ、必然的にプログラムに影響を与えると感じていますが、政治的なトレンドを追い過ぎることは避けたいと思っています。そうすると、企画自体がその時代に限定されたものになり、時間が経つと古臭く感じられる可能性があるからです。結局のところ、最高の映画は時代を超えて鑑賞する価値があり、社会の大きな変化を乗り越えて存続します。それが映画の素晴らしさだと思います。そして、時には昔の映画が再び現代の文脈で関連性を持つこともあります。インディペンデント系映画館の未来は挑戦に満ちています。ガーデン・シネマやほかの独自のプログラムを上映する映画館は、過去の名作を中心としたプログラムで成功を収めているので、インディペンデント系映画館の未来は「過去」にあるともいえるかもしれません。同じ新作映画が上映される大手チェーンとは異なる、独自のビジネス・モデルを持った映画館が増加するのは、業界にとっても非常に健全な流れだと思います。

The Garden Cinema

The Garden Cinema
39-41 Parker Street, Covent Garden
London WC2B 5PQ
Tel: +44 20 3369 5000
Holborn駅
www.thegardencinema.co.uk

ドイツ
過去を紡いで映画の未来が生まれる

1984年にドイツ初の映画博物館としてオープンしたドイツ映画協会&映画博物館(DFF)。あらゆる映画遺産を収集・保存し、未来へとつなぐDFFの使命について、同館ディレクターのクリスティーネ・コプフさんに聞いた。

クリスティーネ・コプフ Christine Kopf
クリスティーネ・コプフ

ドイツ映画協会&映画博物館(DFF)のディレクター。映画学、文学、メディア学、民俗学を学ぶ。映画祭をはじめ、映画にまつわる展覧会や上映プログラムのキュレーションなどを20年以上にわたり手掛けている

気付いたときには多くが失われている

私たちドイツ映画協会&映画博物館(DFF)は、ドイツ連邦映画文化館やドイツ・キネマテーク財団と共に、ドイツの映画遺産を保存し、維持し、アクセスできるようにするための中央映画図書館のような役割を担ってきました。昨今では、アナログ作品のデジタル化にも取り組んでいます。

DFFDFFの常設展示では、時代を追うごとに変化する映画の技術を追体験することができる

当館には、数え切れないほどの映画史上の重要な展示物、カメラや映写機などの機材、衣装や小道具、あるいは制作文書、脚本、写真、スケッチなどが保存されています。しかし何よりもまず、映画そのものを保存することが重要です。なぜならその多くは、最初に映画遺産の保存が考えられたときには、すでに取り返しのつかないほど失われていました。こうした活動は、映画というメディアや映画産業の発展に直接的な役割を果たしてきたとはいえません。しかし、DFFのような映画遺産機関は、映画史や映画製作に関する情報、数字、データなどの提供を通じて、映画産業と密接に絡み合っています。

映画史を体感する常設展、映画史を問う特別展

DFFの常設展示では、映画史への感覚的なアプローチを提供しています。第1部「Filmisches Sehen」(映画のヴィジョン)では、18~19世紀の多種多様な映像メディアと映画の発明がテーマ。映画的知覚がどのように機能し、どのような伝統に基づいているのかについて、古い幻灯機から映写機などを実際に動かしながら学べます。第2部「Filmisches Erzählen」(映画のストーリーテリング)では、映像、音響、演技など、映画がどのようにその効果を展開していくかを理解することができます。

DFF

特別展では、映画に関する美学的・歴史的問題を取り上げてきました。2025年2月23日(日)まで開催の「NEUE STIMMEN. DEUTSCHES KINO SEIT 2000」(新しい声 - 2000年以降のドイツ映画)展では、多様性とアイデンティティーの問題を特徴とする近年のドイツ映画に光を当てています。博物館の地下には映画館があり、日替わりでドイツをはじめとするさまざまな国の映画を上映しています。博物館から映画館、保存・研究活動からアウトリーチまで、こうした活動を一つ屋根の下で行っているのは、今のところドイツでは当館だけであると自負しています。

映画の存在感はますます増していく

映画の歴史はまだ浅く、130年の間に映画は信じられないほど変化し、発展してきました。そのため映画の未来を予想するのは容易ではありません。確かなことは、私たちの日常生活の中で、映画というメディアの存在感が拡大し続けていくだろうということです。映画館やストリーミング・サービスだけでなく、広告スペース、スマートフォン、ソーシャル・メディアなど、私たちはあらゆる場所で映画と出会っています。映画鑑賞がパーソナル化する一方で、他者と共に体験する場所としての映画館がこれからも残り続けるだろうということも、映画を愛する専門家の一人として確信しています。

DFF

映画は文化的資産であり、ほかの芸術と同様に、思考プロセスや議論のきっかけを作ってきました。また鑑賞者の美的感覚を喜ばせ、社会的交流の重要な基礎を築き、人々の視点や世界を広げるという点において、重要な役割を担っています。そうした映画遺産を保存し、いつでも誰もが参照できる状態にしておくことは、歴史を検証するのと同じくらい重要なことです。私たちが歴史に関わるとき、私たちよりも前にそこにいた人々から学びます。そうしてまた新しい映画の歴史が生まれるのです。

DFF

DFF – Deutsches Filminstitut & Filmmuseum e.V.
Schaumainkai 41,
60596 Frankfurt am Main
Tel: 069 961 220 – 220
Schweizer Platz駅
www.dff.film
 
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