ジャパンダイジェスト

カーニバルがやってくる

暗く長い冬の欧州で、春を待ちわびながら大人も子どもも関係なく盛り上がるのがカーニバル(謝肉祭)。日本人にとっては今イチ馴染みの薄いお祭りですが、せっかくドイツにいるのならば、一度は皆に混じって一緒に盛り上がってみたいもの。カーニバルのイロハからその楽しみ方までたっぷりご紹介します。(編集部)

1. カーニバルってなに?

イエス・キリストの復活を祝うのが春のイースター(復活祭)。そのイースターの前の40日間、キリスト教徒は断食と祈りで過ごすのが常だったが、その断食に入る前に思いっきり飲食と贅沢の限りを尽くすのがカーニバル。宗教色が薄れた現代では、この期間中だけは老いも若きもJecken(浮かれもの)とNarren(道化者)に化して、 寒く、暗い冬の憂鬱な気分を吹き飛ばそうとするイベント的な色彩が強い。

地域的にみると、カーニバルを盛大に祝うのは、ケルン、デュッセルドルフ、マインツなどカトリック教徒が人口の多数を占めるライン川沿いの町々。普段は生真面目なドイツのおじさん、おばさんたちもここぞとばかりに仮装し、馬鹿騒ぎを楽しむ。カーニバルによってもたらされる経済効果は絶大で、ちなみにケルン経済圏だけでも、その売り上げは、5億ユーロに上るという試算が出されている。

また一口にカーニバルといっても、都市や町によって祝い方は様々。はしごして異なる雰囲気を味わってもいいかもしれない。

カーニバル
右)デュッセルドルフ市内にあるカーニバルハウスに描かれたホッペディッツ

2. カーニバルの歴史

カーニバルを祝うようになったのは中世から。騎士と貴族による宮廷での舞踏会や仮装パーティーがその発端となった。19世紀初頭に入ると、為政者やお上を揶揄するという要素が加味されるようになり、フランス人やプロイセン人など支配者が持ち込んだ軍隊的な風俗習慣がからかいや笑いの対象となった。今でもカーニバルの宴会でみられる近衛兵の制服を着た一団(Prinzengarde)や木製の銃、Tanzmarichenと呼ばれる踊り子もナポレオンを皮肉ったことから生まれたものだ。

カーニバルのハイライト、ローゼンモンタークの山車行列が始まったのはケルンとデュッセルドルフがそれぞれ1823年と1825年、マインツはその11年後の1836年で、現在にいたるまで戦争などの非常事態を除き、毎年、山車行列が続いている。

カーニバルは、政治の影響とも無縁ではいられない。例えば同性愛者が弾圧されたナチス政権下では、本来男性が仮装するカーニバルの王女役が禁止され、女性が王女に扮することが強制された。また山車にもユダヤ人の追放を示唆するプラカードが掲げられ、暗い影を投げ掛けた。世相を濃厚に反映するお祭り、それがカーニバルなのだ。


三角帽子はプロイセン時代の名残り

3. 年明け前からカーニバル

カーニバルといえばとにかく、ローゼンモンタークのパレードが大々的に取り上げられる。何十台も連なる山車(Kamelle)が繰り出され、沿道を埋めた観衆にお菓子がばらまかれる風景はすっかりお馴染みだろう。とはいえこの日ばかりがカーニバルではない。カーニバルシーズンの幕開けを迎えるのは前年の11月11日11時11分。カーニバルの精霊であるHoppeditz(ホッペデイッツ)が目覚め、シーズンの開始を宣言する。そして年明けの1月6日(Heilige Drei Könige)にはカーニバルの王子(Prinz)と王女の披露宴(Prinzenkürung)が開かれ、カーニバルの宴会(Karnevalsitzung)が次々とスタート。その後、室内での催会はローゼンモンタークのパレード前週の木曜日から街へと外に移行し(Straßenkarneval)、クライマックスに向けてムードは徐々に高まっていくのだ。

カーニバルカレンダー
2月15日(木) 女性たちのカーニバル Weiberfastnacht
2月17日(土) カーネーションの土曜日 Nelkensamstag
各地の居酒屋は飲めや歌えやで大賑わい
2月18日(日) チューリップの日曜日 Tulpensonntag
ケルンでは町内会や学校単位の行列が出る。小さいながらも「最もオリジナリティ溢れる」とし て定評がある
2月19日(月) ローゼンモンターク Rosenmontag
山車行列 * Rosen - はバラの意ではなく、 rasen(=騒ぎ狂う)という言葉から来ている
2月20日(火) スミレの火曜日 Veilchendienstag
小さい町や大都市の周辺自治体ではこの日に山車行列が出るところも多い
2月21日(水) 灰の水曜日 Aschermittwoch
ホッペディッツの人形が燃やされ、人々は魚などを 食べ、ささやかな祝いでカーニバルを締めくくる
カーニバルを女性の手に
男性の手にあったカーニバルのお祭りを女性も楽しもうとしたのがWeiberfastnacht。ボンのボイエル地区では、洗濯女たちがカーニバル前の木曜日には洗濯屋を閉めて1年に1回の休みを楽しむという慣わしがあり、そこから1824年には女性委員会というのを立ち上げ、カーニバルの女性参加を働きかけるようになった。そしてこの洗濯女による「女性パワー」を象徴する記念として、1957年からは「洗濯王女」(Wäscherprinzessin)を先頭に、女性委員会の面々がボイエルの役所を占拠するというイベントが開かれている。

4. 歌え♪カーニバル♪♪

カーニバルは歌がなくちゃ始まらない、とばかりにカーニバル期間中、電車に乗った人は皆で合唱して盛り上がるドイツ人の一団に出くわすことが多い。「Einmal am Rhein」や「Viva Colonia」など定番曲を耳にした人もいるだろう。CDも販売されているので、ドイツ人との斉唱を目指して購入するもよし、「これぞドイツならではのお土産」にしてもいいかもしれない。

5. 初めてのカーニバルを楽しむための5カ条

tick仮装して楽しもう。ドイツ人は、お年寄りだってここぞとばかりに仮装する。「ちょっと恥ずかしい」なんて照れずにド派手な衣装で繰り出そう。ただ薄着で風邪をひいたなんてことにならないよう気温は天気予報で確認するのを忘れずに。

tickAltweiberfastnachtの「女性パワー」は、今でも会社で男性の着けているネクタイをちょん切るパフォーマンスに象徴されている。ドイツ人の女性従業員がこの日、ハサミ持ってあなたの所に近寄ってきてもあせらないように!

tick期間中に盛り場を歩いていてまるで見も知らぬ女性からチュッと接吻されても動転しないように!これは「Buetzchen」と称されるれっきとしたカーニバルの伝統。初心者なれどもここはBuetzchenで返そう。

tickカーニバルの賑やかな雰囲気にはやっぱりアルコール。デュッセルドルフなら地元のアルトビール、ケル ンならケルシュで盛り上がろう。

tickパレードへの掛け声はゆめゆめ、お間違えなきよう。「Alaaf(アラーフ)」と叫んでもいいのはケルンだけ。 敵対関係にあるデュッセルドルフ(ここでの掛け声は Helau(ヘラウ))でAlaaf なんて口走ろうもんなら袋叩きにあっちゃう?

6. ミュージアムでカーニバルを予習する

カーニバルミュージアム カーニバルについてもっと深く知りたいという人にはケルンのカーニバルミュージアムがお薦めだ。神話に登場する神々を称えて古代ローマ人が仮面をかぶって行列をなした祝いから始まって現代まで、時代とともに変遷していったカーニバルの姿が写真や展示品を通じて分かりやすく説明されている。

例えば、「プロイセンの支配時代には、カーニバルの華やかさは陰をひそめ、統制されるようになったが、それでも禁止されることがなかったのはプロイセン人がカーニバルを祝うことを許し仮面をつける許可を与える代わりに、代金を徴収し、そのお金で貧しい人々の食事をまかなうようにしたからだった。そして志を一つにするという意味で三角帽子をかぶる習慣が広がっていった」とい うような、豆知識を身に付け、うんちくをかたむけられるようになればあなたもカーニバル通だ。

Kölner Karnevalmuseum
Maarweg 134-136, 50825 Köln
0221-574-00-0
0221-574-00-37
www.koelnerkarnevalmuseum.de

7. カーニバルはドイツ人だけのものではない!

カーニバル特有のノリを初めて目の当たりにして「ついていけない」と思った人も多いはず。でもこういう時こそ、ドイツ人社会に溶け込むいいチャンスなのだ。デュッセルドルフ日本人学校の元教諭中嶋総雄さんも子供たちにドイツの生活文化に触れる機会を作ろうと自らがまず飛び込み、同市のカーニバルの宴会(Karnevalsitzung)の舞台に日本人として初めて立ち、デュッセルドルフ方言を駆使した漫談で笑いをとった強者だ。その軽妙なしゃべりぶりだけでなく、その年ごとのテーマに合わせた仮装(ネアンデルタール人から女装まで!)も堂々と着こなし、すっかり人気者になった。「やり始めるとノッちゃうんですね。日本人が誰もいないから抵抗なくできちゃうんです」と語る。また中嶋さんが1981年にアレンジして実現した、日本人学校生徒によるカーニバルの行列行進は今も引き継がれている。

中嶋さん
右)カーニバルの宴会で、盛り上げ係にも抜擢された (Zeremoniemeister)
左)ドイツ人も真っ青のジョークで話題の人に

 
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