いつの世も、どこでも人は歌を聴き、口ずさみながら暮らしてきた。歌をこよなく愛する人々のためにヨーロッパで開かれる祭典といえば、「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」。テレビ中継され、毎回高い視聴率を記録する歌謡ショーは、日本で言う紅白歌合戦のような存在だ。長い伝統を誇るこの歌の祭典が今年、ドイツにやって来る!(編集部:林 康子)
ユーロビジョン・ソング・コンテスト(ESC)とは
ESCの歩み
2010年大会の
優勝トロフィー
各国を代表する歌手が集って競う”歌の欧州選手権”さながらの装いを見せる「ユーロビジョン・ソング・コンテスト(Eurovision Song Contest = ESC)」は、欧州放送連合(European Broadcasting Union = EBU)に加盟する放送局によって開催される年に一度の歌謡曲の祭典。その起源は1950年代、まだ第2次世界大戦の爪痕が残るヨーロッパで、スイスに本部を置くEBUが、「加盟国が一丸となって楽しめるプログラムを!」と考案したことにさかのぼる。EBUは、すでに51年に始まっていたイタリアの「サンレモ音楽祭」を参考に、テレビでの生中継を売りにした国際的なソング・コンテストを企画し、56年にスイスのルガーノで、同国と西ドイツ、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フランス、イタリアの7カ国が参加しての初回を開催。その様子が、加盟放送局によって全参加国に同時生中継されたのである。
それ以降、毎年開催されているこの祭典は、今年で 56回目を迎える。回を重ねるごとに参加国が増え、これまでの参加国総数は51カ国、視聴者の数も今や1億〜6億人に上る世界最大の歌番組に成長した。
ESCの仕組み
ドイツに来て、初めてESCの存在を知ったという人は多いだろう。テレビを観ていて、いろんな 国の歌手やバンドがそれぞれオリジナルの楽曲を披露し、競い合っているということは分かっても、「歌っているのは誰?」「結果発表で『8ポイント、12ポイント』と言っているけれど、優勝国ってどうやって決まるの?」など、その形式には謎が多い。そこで、まずはESCの仕組みを説明しよう。
参加資格
参加資格を持つのは、EBUに加盟している各国の放送局。ここに加盟できるのは、国際電気通信連合が定める欧州放送地域(European Broadcasting Area)内にあるか、ヨーロッパの統合に取り組む国際機関、欧州評議会に加盟しており、かつ国内の98%以上のテレビ所有世帯が受信可能な放送局と規定されている。ほとんどの国の加盟放送局は公共放送で、欧州放送地域は一部ヨーロッパ域外にも及ぶため、地理的にヨーロッパに属さない国でも参加可能。
投票・審査
各参加国は電話かSMSよる視聴者投票により、その投票順位に従って1〜8点、10点、12点を自国以外の計10カ国に与える。全参加国の発表終了後、各国とのテレビ中継で得点発表者がその国からの得点を読み上げ、最多得点国が優勝となる。このポイント制については、音楽的嗜好や文化の似通った国同士が互いに投票し合ったり、移民が祖国へ投票する、いわゆる「移民票」が毎回大きな影響を及ぼすことから、公正な結果にならないとの批判も上がっている。
準決勝と決勝
7カ国で始まったESCは、今や参加国が約50カ国に上るメガ・イベント。大会の放送時間は3時間半以内と規定されているため、時間内に全参加国が発表することは不可能だ。そこで導入されたのが「準決勝」という名の予選制度。決勝と同じ週に、2回に分けて行われ、決勝と同様の投票を経て決勝進出国が決まる。なお、2000年からEBUの主要資金拠出国であるイギリス、ドイツ、フランス、スペインは「Big4」と呼ばれ、自動的に決勝出場権が認められている。
ドイツとユーロビジョン・ソング・コンテスト
1956年の第1回大会で初出場したドイツ。その後も毎年参加し、2010年までの出場回数は全55回中54回と、参加国の中でも最多を誇る。参加しなかったのは1996年の1回のみ。当時は参加国の増加とともに予選が導入され始めた頃で、ドイツはレオンの『Planet of Blue』という曲を送り込んだが、審査員選考予選で敗退し、本戦出場は叶わなかった。EBUの最大資金拠出国であるドイツからは不満の声が多く上がり、「Big4」のシステムが導入されるきっかけになったとも言われる。
積極的な参加を続け、その放送は国内で最も高い視聴率を誇るほど注目度の高い大会だが、成績はいまひとつ。2009年の時点で、7回の最多優勝を記録するアイルランド、5回優勝のイギリス、フランス、アイルランドに比べ、ドイツの優勝は1982年の1回のみである。曲は、東西に分裂していたドイツで両国の人々の気持ちを歌ったニコールの『Ein bißchen Frieden』だった。その他、2位に4回、3位に5回選ばれているが、最下位も5回経験しており、64年、65年に至っては2年連続で0点という散々な成績を残している。
1982年大会を制したニコール
同コンテストでの優勝により、その後歌手として華々しい成功を収めた例に、『Waterloo』を歌って優勝したABBA(74年、スウェーデン)や、『Ne Partez Pas Sans Moi』を歌って優勝したセリーヌ・ディオン(88年、スイス)が挙げられるが、ドイツでもESCの結果は国内外の音楽市場に影響を与えている。60年以降の代表曲の内、6曲が国内ヒットチャートで1位を獲得。中でも62年の代表曲、コーネリア・フロベスの『Zwei kleine Italiener』は最も売れた代表曲、『Ein bißchen Frieden』はドイツ以外の国々でも大ヒットを飛ばした曲として知られている。
またドイツは、曲に使われる言語に外国語を取り入れたパイオニア的存在でもある。60年に初めてフランス語のタイトルを持つ歌『Bonne nuit, ma chérie』を披露、翌年には『Einmal sehen wir uns wieder』という曲のリフレイン部分がフランス語で歌われた。以降はポップ音楽界における世界的な傾向も相まって、歌詞を英語にすることが多くなったが、トルコ語やヘブライ語など、様々な 言語の歌に果敢に挑戦している。また、ドイツ語のヒット曲が他言語に訳されるケースも多く、56年の『So geht das jede Nacht』や70年の『Wunder geht es immer wieder』は、日本語版も作られている。
2011年のユーロビジョン・ソング・コンテスト
”我らがレナ”の大快挙!
2010年のノルウェー大会、それまで最多出場数を誇りながら成績の冴えなかったドイツに異変が起きた!人気エンターテイナーで、楽曲プロデュースも手掛けるシュテファン・ラープが企画制作に携わった国内選考大会「Unser Star für Oslo」を制した若干18歳(当時)のレナ・マイヤー=ラントルート。彼女が、なんとESC決勝で246点の最高点を獲得し、ドイツに28年ぶりの優勝をもたらしたのだ。
幼い頃からダンスは習っていたものの、歌のレッスンは受けたことがないというレナが成し遂げた快挙は、ドイツ中を歓喜の渦に包んだ。このとき歌った勝負曲『Satellite』 は国内をはじめ、スイスや北欧など欧州5カ国でヒットチャート1位を記録し、まさに時のポップ音楽界はレナ一色に。その余韻覚めやらぬまま彼女は今年、エレクトロ・ポップと80年代サウンドが混じった妖艶な雰囲気漂う新曲『Taken by A Stranger』で王座防衛に挑む。
2011年大会の開催国がドイツになったのはレナのおかげ
開催地はデュッセルドルフ
大会規定により、優勝国はその翌年の大会の主催国となり、自動的に決勝出場権を獲得する。つまり、昨年優勝したドイツは今年、大会のホスト役を務めるわけだ。昨年8月、レナの出身地であるハノーファーとベルリン、ハンブルク、デュッセルドルフの4都市が開催候補地に上がり、選考の結果、最終的にデュッセルドルフに決定した。ドイツでの開催は、1957年(フランクフルト)、83年(ミュンヘン)に次いで3回目。今回は「Feel Your Heart Beat!」をモットーに、43カ国の代表アーティストが熱唱を繰り広げる!
会場となるのは、「エスプリ・アレーナ(ESPRIT arena)」。サッカークラブ、フォルトゥナ・デュッセルドルフ(現ブンデスリーガ2部)の本拠地だ。デュッセルドルフ国際空港に近いことも選考の際、有利に働いたとか。なお、これ に伴い、大会期間中、フォルトゥナのホームは市内のパウル・ヤネス・スタジアム(Paul-Janes-Stadion)に移されることになった。
デュッセルドルフのESPRIT arena
2011年 第56回大会の概要
ルール
- 参加国は大会規定の期日までに自国から代表曲を選定し、EBUに提出する。代表曲の選考方法は自由で、国内選考大会を開催する国もある。
- 2011年は「Big4」に新たにイタリアが加わり、「Big5」となった。この5カ国は、準決勝に参加せず決勝に出場でき、2回の準決勝の内、いずれかで投票権を持つ。
- 審査は視聴者による電話投票と、各国を代表する審査員による投票の2つの結果を組み合わせて行われる。審査員は、参加国がそれぞれ派遣する5人の専門家。音楽業界に精通していること、発表する歌手と業務上のつながりを持たないことが条件となる。
- 審査員投票と視聴者投票は、それぞれ50%ずつの割合で結果に反映されるが、2つ以上の国が同点で並んだ場合は、視聴者投票で多くの票を得た国が上位となる(視聴者票の優位)。
- 決勝での発表順は、くじ引きで決められる。
- 参加歌手の出場資格は14歳以上で、自国のみを代表し、他国もしくは複数国の代表としての参加はできない。
- 各国は代表曲を開催前年(2010年)の9月1日以前に公表してはならない。
- 大会では、事前に録音しておいたバック・トラックに生の歌唱という形で発表されなければならない。
- 楽曲に使われる歌詞の言語は、各国が自由に選択できる。
- 舞台上に立つことができる最多人数は6人。
- 発表する楽曲の長さ、すなわち1国の持ち時間は最大3分。
- 政治的な内容を含む歌詞や呼び掛け、ジェスチャー、大会全般の信用を貶める行為は禁止される。
ドイツ国内の中継局
- 民放ProSieben : 準決勝第1回目を放送。
- 公共放送ARD : 準決勝2回目、決勝を放送。 ※ラジオ放送は公共放送WDRが担当
司会
- シュテファン・ラープ(Stefan Raab)
- ユディット・ラケアス(Judith Rakers)
- アンケ・エンゲルケ(Anke Engelke)
お祭りごとには欠かせない存在のラープと、数々のドイツのテレビ番組やヨーロッパの映画賞の司会を務め、近年はコメディアンとしても才能を発揮しているエンゲルケ、ニュース番組「Tagesschau」の顔として知られる公共放送NDRのキャスター、ラケアスの3人が、英語とフランス語で司会を務める
準決勝 1回目 5月10日(火)21:00〜
全準決勝出場国に加え、Big5の内、スペイン、イギリスが投票に参加。
発表順 | 国名 | アーティスト | 曲名 |
1 | ポーランド | Magdalena Tul | Jestem |
2 | ノルウェー | Stella Mwangi | Haba haba |
3 | アルバニア | Aurela Gaçe | Feel the Passion |
4 | アルメニア | Emmy | Boom Boom |
5 | トルコ | Yüksek Sadakat | Live It Up |
6 | セルビア | Nina | Čaroban |
7 | ロシア | Alexei Worobjow | Get You |
8 | スイス | Anna Rossinelli | In Love for a While |
9 | グルジア | Eldrine | One More Day |
10 | フィンランド | Paradise Oskar | Da Da Dam |
11 | マルタ | Glen Vella | One Life |
12 | サン・マリノ | Senit | Stand By |
13 | クロアチア | Daria Kinzer | Celebrate |
14 | アイスランド | Sigurón's Friends | Coming home |
15 | ハンガリー | Kati Wolf | What About My Dreams |
16 | ポルトガル | Homens da Luta | A luta é alegria |
17 | リトアニア | Evelina Sašenko | C'est ma vie |
18 | アゼルバイジャン | Ell & Nikki | Running Scared |
19 | ギリシャ | Loukas Yorkas feat. Stereo Mike | Watch My Dance |
準決勝 2回目 5月12日(木)21:00〜
全準決勝出場国に加え、Big5 の内、フランス、ドイツ、イタリアが投票に参加。
発表順 | 国名 | アーティスト | 曲名 |
1 | ボスニア・ヘツェゴビナ | Dino Merlin | Love in Rewind |
2 | オーストリア | Nadine Beiler | The Secret Is Love |
3 | オランダ | 3JS | Never Alone |
4 | ベルギー | Witloof Bay | With Love Baby |
5 | スロヴァキア | Twiins | I'm Still Alive |
6 | ウクライナ | Mika Newton | Angel |
7 | モルドバ | Zdob şi Zdub | So Lucky |
8 | スウェーデン | Eric Saade | Popular |
9 | キプロス | Christos Mylordos | San angelos s’agapisa |
10 | ブルガリア | Poli Genova | Na inat |
11 | マケドニア | Vlatko Ilievski | Rusinka |
12 | イスラエル | Dana International | Ding Dong |
13 | スロヴェニア | Maja Keuc | No One |
14 | ルーマニア | Hotel FM | Change |
15 | エストニア | Getter Jaani | Rockefeller Street |
16 | ベラルーシ | Anastassija Winnikawa | I Love Belarus |
17 | リトアニア | Musiqq | Angel in Disguise |
18 | デンマーク | A Friend in London | New Tomorrow |
19 | アイルランド | Jedward | Lipstick |
決勝 5月14日(土)21:00〜
2回の準決勝で、それぞれベスト10 に選ばれた国と「Big5」の計25カ国が出場。
発表順 | 国名 | アーティスト | 曲名 |
11 | フランス | Amaury Vassili | Sognu |
12 | イタリア | Raphael Gualazzi | Madness of Love |
14 | イギリス | Blue | I Can |
16 | ドイツ | Lena | Taken by A Stranger |
22 | スペイン | Lucía Pérez | Que me quiten lo bailao |
ESCを楽しもう!
ヨーロッパ中から観覧客が押し寄せる一大イベントとあり、3万2000枚分の決勝チケットは昨年12月12日、販売開始わずか6時間で完売となった。しかし、まだ準決勝には残席があるようだ。各国が満を持して送り出すアーティストによる華麗なショーを楽しめるまたとないチャンス!毎年テレビで観ているという ESCファンの方、今年は実際に足を運び、ライブで味わってみてはいかがだろう。
チケット購入はこちらから!
www2.dticket.de
29 〜119 ユーロ
※ 10~16歳は、保護者同伴で入場可。
各国から観覧客が押し寄せる大会前後は、市内のホテルの多くが満室に。今から宿泊予定を立てる人には、プライベートで提供されている部屋を予約できる下記のウェブサイトがオススメ。
www.esc-privaterooms.de
関連イベントで盛り上がりは最高潮に!
準決勝、決勝が行われる週は「ユーロビジョン・ウィーク」と呼ばれ、開催地ではESC を盛り上げるためのイベントが催される。デュッセルドルフも、当週に限らず、観光地としての魅力を最大限にアピールすべく、開催に合わせて様々な関連プログラムを企画。この街に住んでいる人も、ESCを目的に訪れる人も、皆思い思いにお祭りムードを楽しもう!
右写真)2011年の開催地に決定後、ESCの“ホームの鍵”を受け取るデュッセルドルフのエルバース市長
ESC Festival Bühne
5月1日(日)〜6日(金)15:00 ~
(1日は12:00 ~、5日は10:00 ~)
Marktplatz
特設舞台上で合唱やゴスペル、ドラム、ポップバンド、オーケストラなどの音楽ライブが催される。家族全員で音楽に親しめるよう、子ども向けのプログラムも用意されている。
ESC Festival Bühne
5月10日(火)~ 14日(土)18:00 ~ (14日は12:00 ~)
Johannes-Rau-Platz
特設舞台上で音楽ライブやカルチャー・プログラムが催される。14日には、街の伝統カーニバルの山車がここからライン川プロムナーデを経て 旧市街へと練り歩く。決勝では、ここが市内最大のパブリック・ビューイングに。
La Primavera – Gerresheim und sein italienischer Süden
5月6日(金)16:00 ~ 23:00
Gymnasium Gerresheim, Am Poth 60
今年、14年ぶりに決勝に出場するイタリア。市内最大のイタリアン・コミュニティーを抱えるゲレスハイム地区が、住民のイニシアティブにより、ライブあり、料理ありのイタリア・フェスティバルを開催する。ESCのゲストも大歓迎。
Tontalente – Düsseldorfer Newcomer Festival
5月6日(金)18:30 ~
Tonhalle, Ehrenhof 1
ESCの開催に合わせ、今年デュッセルドルフ市が新たに開催を企画した新人発掘イベント。事前選考を経て選ばれた13~35歳までの若きミュージシャン10組が、ロックやポップ、ラップなどのオリジナル曲を熱唱する。
www.tontalente.com
Europatag
5月7日(土)11:00 ~ 18:00
Marktplatz
欧州連合(EU)加盟国のことを詳しく知ろうというコンセプトで毎年開催されているイベント。現加盟27カ国の風習や名産、人々の生活、言語などが紹介される。様々な国が集まるESCに向けた予習に最適のプログラム。
ElectriCity
5月11日(水)19:00 ~
Turbinenhalle der Stadtwerke, Höherweg 100
デュッセルドルフは、今回レナが歌う曲のトーンでもあるエレクトロ・ミュージックの発祥地。このジャンルを代表する当地出身の バンド、クラフトワークやPropagandaのメンバーが、80年代のヒット曲を披露する。
EuroBoat Party
5月13日(金)19:30 ~翌3:00頃
MS RheinFantasie
ドイツ・ユーロビジョン・ファンクラブが、すべてのESCファンへ贈るスペシャル・イベント。イギリス、ドイツ、クロアチアの過去の出場者のライブを聴きながら、幻想的な夜のライン川クルーズを楽しむ贅沢な船上パーティー。
www.eventqube.de/euroboat
その他のイベントも盛りだくさん!
イベントのリスト、詳細はこちらから
ユーロビジョン・ソング・コンテスト
デュッセルドルフ大会記念グッズ
デュッセルドルフ大会を思い出に残すために、おみやげはいかが?マウスパッド(5.95ユーロ)やマグカップ(7.50ユーロ)、Tシャツ(24.95ユーロ)など、大会のロゴやモットー入りのグッズは、市内2カ所のツーリスト・インフォメーションで購入可。
Tourist-Information Altstadt Marktstr./ Ecke Rheinstr.
Tourist-Information Hauptbahnhof Immermannstr. 65b