地球温暖化防止の取り組みを定めた「京都議定書」採択から今年で10年。しかし今年の夏には日本と欧州南部が猛暑に襲われたほか、その他の欧州地域でも洪水や山火事といった異常気象と見られる現象が立て続けに発生した。暑さがようやく落ち着いた今だからこそ、改めて温暖化などを含めた地球の環境について考えてみよう。環境先進国を自認する欧州主要3国の自治体や市民レベルで進められているさまざまな取り組みとエコ・ライフの現状をレポートします。(ニュースダイジェスト各国編集部)
地球温暖化の現状
大気中の二酸化炭素(CO2)濃度はここ40年間で急激に上昇。このCO2を始めとする温室効果ガスが高温の赤外線を吸収する性質を持つため、気温上昇に拍車をかけていると見られている。また気温上昇によって北極海などの氷が溶けて、海面が上昇するなどの現象が報告されている。
最近40年間で、約20%上昇
最近100年間で、約1度上昇
最近100年間で、20センチ以上上昇
最近発生した欧州諸国での自然災害
南アジア地域の洪水や米国でのハリケーンの被害が記憶に新しいが、欧州地域においても異常気象が原因と見られる自然災害が多く発生している。今夏は、ギリシャほかで熱波を一因とする山火事が続発。さらに英国のイングランド中部では同年7月、洪水の被害が発生し、電力供給の停止や断水被害が出た。2002年にはドレスデンやチェコの首都プラハでも大規模な洪水の被害が発生。また気温上昇が続くフランスのパリでは、2004年から市内にビーチを設置するなどの試みを行っている。
ギリシャ各地では今夏、熱波や放火を原因とする山火事が多発した。また欧州大陸ではパリなどの各主要都市で気温上昇が続いている一方、イングランドやプラハ、ドレスデンなどで大規 模な洪水が発生している。
温暖化現象をめぐる 欧州諸国の対応
欧州連合(EU)は温室効果ガスについての排出削減義務などを定めた京都議定書に批准していることに加えて、各国が独自の削減目標値を定めた上での環境政策を実施している。特に2005年から加盟国それぞれにCO2排出の許容量が定められ、超過した場合は課徴金を支払うことになった。
EU連合の行政機関として環境問題を管轄する欧州環境庁を設立
1997年
温室効果ガスの削減目標値を定めた京都議定書に批准
2005年
EU連合加盟国25カ国を対象としたCO2排出量取引制度が開始
2007年
EU連合の環境相理事会において、2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で2割削減する目標に合意
ドイツ政府、2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で40%削減する包括プログラムを決定
ドイツ南西部にあるシュヴァルツバルト(黒い森)の南端に位置する人口20万人の街フライブルク。1970年代の脱原発運動から始まり、ゴミの削減・リサイクル・環境に優しい廃棄物処理はもちろん、「地域環境定期券」の導入など、行政、企業、住民の三者が一体となって次々と環境対策を打ち出してきた。「環境首都」として知れ渡るようになった今、再生可能エネルギーの活用という意欲的な試みを行っている。
再生可能エネルギーを活用
ソーラー建築「ヘリオトープ」
省エネ住宅への改築を助成
再生可能エネルギーの使用を全使用電力の50%とする低エネルギー住宅への改築を計画している場合には、市が最高8000ユーロ(約130万円)の補助金を出している。また暖房の補完などに太陽光発電設備を作る場合も助成される。
ゴミの分別を徹底
フライブルクを環境首都たらしめたとも言えるのが、ゴミの処理方法。ゴミの抑制、分別の徹底化、リサイクルと環境に配慮した廃棄物の処分、が基本コンセプトだ。一般家庭では、①紙 ②生ゴミ ③容器 ④その他のゴミに分けるようにし、さらに街角にはガラス瓶を収集するコンテナを設けたり、不要な家具はリサイクル・センターへ持ち込ませることによって、約17年間で1人当たり年間114キログラムのゴミの量を削減することに成功した。
「CO2ダイエット」を実践
CO2の削減が重要な課題であるとして、同市議会はCO2排出量を1992年比で少なくとも30%削減する目標を決議。企業のみならず、家庭から出るCO2量の削減につなげようという「CO2ダイエット計画」を推進している。同プロジェクトは3段階に分かれており、まず①インターネットのサイト上で自分のデータを入力して排出量を算出。傾向を把握したうえで、②CO2削減策が提供され、③さらに気候保護プロジェクトへの参加や出資など、CO2排出量をゼロにもっていくような提言がなされる、という仕組みだ。
フライブルク市環境保全局長
ディーター・ヴュルナーさんに聞く
フライブルク市は1970年代に原発建設の構想が持ち上がり、 市民運動によって建設をストップさせたドイツで最初の自治体です。それゆえに環境に対する市民の意識は非常に高いのです。
また私たちが訴えているのは、環境保護と経済効率は矛盾する考え方ではないということです。当市でもソーラー・シティ政策によって新たに700人の雇用を生み出していますし、ソーラー・パネルは輸出製品として大きな注目を集めています。もはや地球の温暖化をストップさせることはできないでしょうが、少なくとも気温の上昇幅を小さくすることはできるはず。そのための手法は揃っているので、あとはどれだけ実行に移せるか。地球規模の問題であっても、自治体や個人ができることは大きいのです。循環型社会を形成することこそが、工業国に残された唯一の道と言えるかもしれません。
その他の地域でのエコ運動
ミュンヘン
ミュンヘンでは、市で購入する生花を地元産のものかフェアトレードのものに限定し、「フェアトレード・フラワー」の売り上げ10%増に向けて支援している。
ラーフェンスブルク
人口約5万人の同市では、文房具や紙など市で購入する物品を環境保護の観点から厳しく選定している。
NABU
自然保護団体NABUでは、毎年絶滅の危機に瀕している鳥を1 種類選定、その生息環境の保護に力を入れている。来年の鳥には「カッコウ」が選ばれた。
しかし、こんな一面も……
ゴミの分別大国として知られるドイツだが、日本の容器リサイクル法のモデルにもなった容器回収制度が揺れている。というのも、人の手で分けずとも、機械で行えばより精緻に分別できることや、せっかく分別したにもかかわらず大部分が可燃ゴミとして焼却されていることが報告されるなど、システムに破たんを来たしていることが背景にある。また同じドイツであっても、大都市では分別に対する認識が低く、なんでもかんでもひとまとめにして捨てている人が多く見受けられるのが現状だ。
協力:フライブルク市・フライブルク市経済観光公社
日本・アジア地区業務代行 前田成子
www.eco-freiburg.com
ロンドンから電車で約1時間半。紫色の低木が生い茂る草原や鬱蒼とした森林に囲まれ、歩道に出れば道端で子馬や子豚が歩いている、そんな牧歌的な光景に溢れた町ニュー・フォレストがある。2005年からは国立公園にもなったこの地域が目指しているのが、温室効果ガスの中でも環境汚染の主因として悪名高い、排気ガスの排出をできるだけ少なくする町作りだ。
車で来なかった観光客には特典あり
排気ガスを排出する車以外の交通手段をもっと利用してもらおうと、ニュー・フォレストでは電車で来た人に様々な特典を与えている。例えばゲストハウス「Rufus House」では、当日付けの最寄駅までの電車切符を受付で見せれば、宿泊費の1割を割引。他にもホテルでのマッサージや、カフェで紅茶1杯を無料で提供するなど、同地では電車利用者に対して様々な特別サービスを用意している。
www.rufushouse.co.uk
環境保護チームを結成
ニュー・フォレストでは、80以上の宿泊施設が集まって「グリーン・リーフ・ツーリズム・スキーム」と呼ばれる環境プロジェクト・チームを結成。リサイクルの方法などに関する情報交換を行っている。
写真右)英国でエコ・ツーリズムの普及に努める「GTBS」によって、ニュー・フォレストは英国で最も環境に優しい観光地と認定された
食用油で走るタクシー
ホテルのキッチンなどで使い終わったサラダ油のみを燃料とするこのタクシー。つまり燃料代は無料、サラダ油を収集する手間を入れても全部で2割の経費が削減され、性能も通常のガソリンを利用するものと遜色ないという。環境にも懐にも優しい、一石二鳥のタクシーだ。
www.ourfriendsinthesouth.com
電気自動車もある
ニュー・フォレストでは電気自動車の普及にも力を入れている。市内で現在利用されているのは12台。今後はより多くのホテルに専用の充電所を設けることを検討中だという。また低排出ガス車をベースとしたバス交通網の整備や、自転車の貸し出しも行っている。
写真右)町の中を走る電気自動車
ニュー・フォレスト地方議会観光局長
アントニー・クリンプソンさんに聞く
ニュー・フォレストでは、今では世界規模で流行している エコ運動にもう20年も前から取り組んでいます。ここでは観光が4億ポンド(約880億円)の収入をもたらす、地元最大の産業なんです。そしてだからこそ、観光客と住民、そして地元企業すべてが満足できるような環境政策の仕組みを考案 する必要があります。
普段の生活では、環境に気を配ろうとすると余分に手間がかかる場合が多いから、皆どこかであきらめてしまう。でも誰だって、環境を汚染して気持ち良くはないですよね。特に旅行に出掛けて美しい景色を前にした人であれば、いつもより広い視野と高い環境意識を持つことができると思います。ニュー・フォレストでは特に、町中をちょっと散歩するだけで道端にいる子馬や小牛に出くわします。自然と一体となった場所だからこそ、環境を大切にする意義があるのです。
詳細は www.thenewforest.co.uk
その他の地域でのエコ運動
湖水地方
人気観光地の湖水地方では、民間の観光業者が収入の一部を使って景観保護を目的とする機関を運営。
ダベントリー
イングランド中部のこの町のリサイクル率は、英国内最高の44.1%。
ダラム
英国北東部のダラムでは、2002年より市の中心部に入る車に混雑税を導入した。
ニューカッスル
イングランド北東部の町、ニューカッスルでは、最近になってリサイクル素材を用いたエコ住宅を建設して話題になった。太陽電池パネルと地熱利用装置も設置された本格的なものという。
ロンドン
2003年よりロンドン中心部に入る車両に課税する混雑税を導入。課金時間内に当該区域に入る乗用車数は3割減少した。現在、課金区域の拡大を検討中。
しかし、こんな一面も……
ロンドンを始めとする英国内の多くの地域においては、近年までゴミの分別回収が行われていない場所がほとんどだった。英国では日本のようにゴミの焼却処理を行わず、ほとんどの場合がそのまま埋め立て処分となっているため。ただ最近になってロンドンではバーネット区、ハックニー区などそれぞれの行政区が独自にゴミのリサイクルを義務付けた取り決めを実施している。この動きに伴い、それぞれの区は異なる色のゴミ袋やゴミ箱の配布を始めたため、市民の間でもゴミ分別の習慣が浸透してきた。
大都会といえば「光化学スモッグ、排気ガス、ゴミ」と、お世辞にも「環境に優しい」場所とは言い難い。しかし、だからこそ大都会においては地方の田舎町以上に環境保護問題に敏感になり、実際に様々な対策が取られている。もちろんパリもそんな都市の1つだ。7月に市内でスタートした自転車貸し出しを始め、パリ市民にも環境保護の心が芽生えてきた。
自転車と路面電車を最大限に活用
忙しいパリジャンにとって車は生活必需品。パリでは車の交通量が年々増え続け、排気ガスによる公害が問題視されている。そこで現地では7月から、最初の30分は利用料が無料の自転車貸し出しサービス「Velib」がスタート。天気の良い日には、1日の利用者が10万人を超えるまでに定着した。さらに以前は1乗車1チケットだった路面電車の乗車切符が、乗車後1時間30分は有効となり、利用者は路面電車とバスを使った乗り継ぎ移動することが可能となった。
進行中のグルネル計画
環境政策というとこれまで政府が音頭を取る傾向があったが、「グルネル計画」では国、民間企業や市民が会議に参加して具体的な方策を検討する。10月27日~30日に最終会議が行われる予定。
1人1本の木を植樹
パリ市は9月に「1parisien-1arbre(パリジャン1人=木を1本)」というプロジェクトを発表した。地球温暖化の大きな原因は2つ。CO2を大量に排出する自動車の増加と、CO2を酸素に還元してくれる森林が減ったこと。そこでこのプロジェクトではパリジャンから募金を募って、森林伐採が深刻化するアフリカのカメルーン、ハイチ、マダガスカルに植樹を行うという仕組みとなっている。期間中は公式ページからオンラインで募金が出来る。
www.1parisien1arbre.com
皆で守ろう11カ条
パリ市は最近になって、「エコ・ジェスチャー」なる環境に優しい11カ条を発表した。その一部を紹介しよう。
1. 通勤は、徒歩、自転車または公共交通を利用する。
2. 日中明るい間は電灯は付けない。
3. コーヒー・タイムには、紙コップではなく、自分のマグカップを持参する。
4. 冬場は温度計を設置して室温を19度に保ち、必要以上の暖房は使わない。寒い場合は何かを羽織る。
5. 30分以上事務所を空ける場合は、パソコンの電源を落とす。
6. 印刷設定はエコノミー設定を利用し、裏紙を使って印刷し紙を節約する。
11. これらのことを忘れないように、「エコ・ジェスチャー」のポスターを見える場所に貼る。
しかし、こんな一面も……
パリではゴミの分別など、最近になって市民1人1人の環境保護への意識が高まる一方で、路上においてはタバコのポイ捨てや犬のフンなどのゴミが依然と多い。数年前に市内の法律が改定され、犬のフンの後始末を怠った場合の罰金額が上がった際には一時的に少なくなった感があったが、それでもまだまだ改善されたとは言い難い状況だ。パリ市の公式ウェブサイトによれば、1日当たりおよそ16トン分の動物のフンが、今でも毎日集められているらしい。
パリ12区区役所環境課勤務
マルク・アルジャンタンさんに聞く
話題の自転車貸し出しサービス「Velib」についてはもう皆さんご存知だと思います。私はまだ利用したことはありませんが、環境に優しくしかも人間にとっても健康的で、非常に良い企画だと思いませんか。私はパリ郊外に住んでいるのですが、この計画が上手く進み、パリ市内だけではなく郊外にもどんどん広がってくれればうれしいですね。
「グルネル計画」は名前だけは知っていますが、実はまだ、正式に私の課には通達が回ってきていないのです。でも市民参加型の環境保護計画というのは、個々の責任を確かめ合うということ、また様々なアイデアを集めるといった 点でも素晴らしい試みだと思いますので、正式に通達が来たあかつきには、大きなやりがいを感じることができる仕事になると思います。
その他の地域でのエコ運動
リヨン
フランスで路面電車といえば、真っ先に思いつくのがリヨン。市内の主な交通手段としては路線バスと路面電車が用いられる。またリヨンはパリより1年早く自転車貸し出しサービスを開始している。
ラ・ロッシェル
大西洋寄りの小さな町ラ・ロッシェルは、環境に関してはパイオニア的存在。1995年には、電気スクーターや電気自動車の貸し出しをスタートさせて、1997年には世界で初めて「車禁止デー」を設立した。
セーヌサンドニ
パリ近郊のセーヌサンドニ県では、人力タクシーが登場。数は少ないが、車体に広告を打つことでスポンサー料を得ているので、乗車料金も非常にリーズナブル。
www.urban-cab.com