Karl Lagerfeld
1938年ハンブルク生まれ。ピエール・バルマンらに師事した後、独立。クロエ、フェンディ、シャネルのデザイナーを経て、現在自らのブランド、カール・ラガーフェルトを持つ。87年から写真家としても活動している。
だから物事は楽しい」
クロエ、フェンディ、シャネルなど一流有名ブランドのファッションデザイナーとして、モード界を牽引してきた巨匠カール・ラガーフェルト。その彼が、安藤忠雄の設計で知られるランゲン美術館(ノイス市)のために企画した写真展が開かれています。オープニングを前に美術館を訪れた同氏のコメントを交えながら、写真展をレポートします。
(編集部・神野直子)
写真展に付けられたタイトルは、「KONKRET ABSTRAKT GESEHEN」。今回の展覧会は、長くから親交があるランゲン夫妻のたっての依頼ということで実現したが、会場が安藤忠雄の設計した美術館であるということが大きかったという。
作品の前でポーズをとる
カール・ラガーフェルト
「私は安藤の大ファンで、彼の建物も撮影しています。フランスで彼に設計を依頼したこともありましたが、3回とも購入した土地の法的な制約などで頓挫してしまいました。良き知り合いでもある安藤が造ったランゲン美術館は、私にとっても非常になじみがあり、まるで自分の家にいるかのような気がします」
展示された100点を超える作品の被写体は、建物の一部であったり、アスファルトの表面をクローズアップしたものだったり、階段の横に空けられた穴であったり、人の輪郭であったり……とモチーフはさまざまだが、どれも全体をとらえたものではなく、何かの破片にすぎない。
「ここに提示された世界は、何かを模倣したりしたわけではありません。ある一部を切り取ったのは、断片をクローズアップしていくことで新しい世界と絵が広がっていくと思うから。何かを撮ろうと計画を練ることはありませんね。計画すること自体が難しく、私の作品は偶然の産物なのです」
自らの写真に対するスタンスは、「決して何かが撮れると期待はせず、なりゆきに任せてことの次第を楽しむ」のだと言う。そしてその姿勢は自身の写真スタイルを自らどこかに当てはめることを嫌ったり、デザイナー、写真家、芸術家としての活動を平行して追求する生き方にも反映されている。
「3つのそれぞれの活動を、呼吸したり眠ったりするのと同じように行っています。デザイナーとしての仕事と並行して写真を撮っていますが、あらゆることを並行してやっていても、それが一本の道となっていくのです。自分で何らかの歯止めをかけることはありま せん」
トレードマークである白髪を後ろに束ねたヘアスタイルとサングラス、黒一色のコーディネートで会場に現れたラガーフェルトは、まさにテレビで見るイメージそのものだった。ただ決してその素顔を見せないように、スタイルを規定せず、作品についても鑑賞する側に説明を委ねようとする姿勢は、常に変化と新しさを求められるモードの世界を生き抜いてきた所以なのかもしれない。
「安藤の作品を集めた本を作りたい」と語るラガーフェルトの写真展は、彼の視線を追体験し、その世界を五感で感じられる絶好の機会と言えるだろう。
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