ドイツワインを購入する際に1つの指標となる生産者団体「VDP(ドイツ・プレディカーツワイン生産者協会)」は、鷲にぶどうのマークでお馴染みです。今回はVDPの沿革と2012年ヴィンテージから変更された格付けをご紹介しましょう。
1910年に発足したVDPの前身はドイツ・ナチュラルワイン競売者協会(VDNV)といい、高品質ワインを生産、競売する組織で、補糖(シャプタリザシオン)を行わない自然で純粋なワイン造りをモットーとしていました。1955年に協同組合会員を除外、自社栽培のぶどうからワインを生産し、競売する醸造所だけの組織となりました。品質管理を徹底し、戦後再び国際市場の舞台に踊り出ましたが、所属していたドイツワイン生産者協会(DWV)が1967年に「ナチュラルワイン」という概念の使用禁止を通達。VDNVは1971年に名称をVDPに変更し、再出発します。
1980年代に入ると、徐々にVDPの醸造所が新聞雑誌で評価されるようになりました。1989年には、当時の会長だったマトゥシュカ=グライフェンクラウ伯爵が米シアトルで初の国際リースリング・シンポジウムを開催し、世界にリースリングの魅力をアピールしました。1991~2006年のプリンツ・ツー・ザルム=ザルム会長時代には、収量制限、収穫時のぶどうの最低糖度のレベルアップなど、さらなる品質向上に取り組み、自然と共存するワイン造りへの方向性を打ち出します。グロースラーゲ(総合畑)表示の放棄、独自の格付けへの取り組みなど、独自の厳格なポリシーを優先させ、1994年にDWVから脱会します。
2002年にはVDP独自の3段階の格付けがスタートし、2006年に甘口ワインと辛口ワイン双方の格付け畑「VDP. エアステ・ラーゲ」という概念が生まれました。2012年産からは「VDP. グローセ・ラーゲ」という概念がこれに加わり、以下の4段階となりました。かつてのエアステ・ラーゲの畑のほとんどがグローセ・ラーゲに移行しています。ただ、ラインヘッセン、ナーエ、モーゼルは、VDP.エアステ・ラーゲを導入せず、3段階を維持しています。
VDP. グーツワイン:醸造所所有畑のぶどうを使用。ベーシックなエステートワイン。
VDP. オルツワイン:醸造所所有の一市町村内の畑(複数可)のぶどうを使用。いわゆる村名ワイン。
VDP. エアステ・ラーゲ:1級畑のぶどうだけを使用したワイン。
VDP. グローセ・ラーゲ:特級畑のぶどうだけを使用したワイン。
VDP.グローセ・ラーゲの辛口ワインだけを、特別に「VDP. グローセス・ゲヴェックス」と言います。甘口ワインの肩書きは、カビネットからトロッケンベーレンアウスレーゼに至る伝統的な肩書きが使われます。格付けのルール(収量、品種など)は生産地別に厳密に決められています。
VDPの格付けはVDP会員醸造所だけのものという点で、ボルドーのシャトーの格付けを想起させますが、実際に格付けされているのは醸造所ではなく所有畑という点では、ブルゴーニュの格付けとも同類です。VDPの会員は現在202醸造所で、全醸造所数の2%に満たないのですが、国際的に受け入れられやすいこの格付けモデルは、ドイツのワイン業界に大きな影響を与えています。
シュロス・フォルラーズ(ラインガウ地方)
ラインガウ地方エストリッヒ・ヴィンケルにある、800年の伝統を誇る醸造所。1211年にすでにワインを醸造販売していたとの記録がある。城主だったマトゥシュカ=グライフェンクラウ伯爵の死後、1997年からはナッサウ・シュパルカッセがオーナーに。1999年より醸造所ディレクターおよび醸造責任者を務めるロヴァルト・ヘップ(Rowald Hepp)氏は、亡き伯爵とも親交があり、醸造所経営の立て直しに尽力。2001年にゴーミヨ・ドイツワインガイドの最優秀醸造所ディレクターに選ばれた。「シュロス・フォルラーズを国内的にも国際的にも一目置かれる醸造所にしたいというビジョンを持って仕事に取り組んできた」と語る。彼はリースリング以外のぶどう畑をすべてリースリングに植え替え、収量を落として品質向上に努めた。現在の畑面積は80ヘクタール。土壌の個性を生かした高品質でオーセンティックなワイン造りで定評がある。ヘップ氏はジャパン・ワイン・チャレンジの審査員として、ほぼ毎年渡日している。VDP会員。
Schloss Vollrads
Vollradser Allee, 65375 Oestrich-Winkel
Tel. 06723-660
www.schlossvollrads.com
2013er Riesling Kabinett feinherb
2013年 リースリング、カビネット、ファインヘルプ 11.50€
2013er Riesling EDITION
2013年 リースリング、エディション 13.80€
シュロス・フォルラーズは、1716年にドイツで初めてカビネット(貴重なワインを保管する小部屋の意)という言葉をワインに使用したという。ワインの品質等級を表す最古の概念だ。ヘップ氏お勧めのこの「カビネット、ファインヘルプ」はタウヌス珪岩などのシュロス・フォルラーズの畑のぶどうから造られたもの。2013年産は柑橘系の風味と火打石のニュアンスがあり、後味に蜂蜜や甘いメロンの風味が感じられる。「エディション」は、毎年スタッフ全員でその年のコレクションをブラインドテイスティングし、辛口系で典型的なリースリングの個性を持ち、ヴィンテージの特徴がよく出ている、食中酒にふさわしいワインを選び、命名しているもの。2013年産は柑橘類とかりんの美しい風味。シュペートレーゼクラスのぶどうでスキンコンタクトを8時間行い、ふくよかさを出している。「醸造所が軌道に乗ったのは素晴らしいチームワークのおかげ。エディションは毎年スタッフに捧げるワインでもあるんだ」とヘップ氏。醸造所の人気商品となっている。