今年の始め、ハンブルクの日本人会館で開催しているワイン講座で紹介しようと思い、ドルンフェルダー種を単独醸造した赤ワインを探していたのですが、望み通りの商品を見つけるのにずいぶん苦労しました。インターネット上のワインショップで、ドルンフェルダーに絞って検索すると、出てくるのは他品種とブレンドされたものばかり。なかにはドルンフェルダーを全く扱っていないショップもあります。赤のポルトギーザー、白のミュラー・トゥルガウやケルナーを単独で醸造したワインも、見つかりにくくなっています。
20年くらい前には、一流醸造所やVDPのメンバー醸造所が魅力的なドルンフェルダーやポルトギーザー、ミュラー・トゥルガウやケルナーを生産していました。当時は、シュペートブルグンダーに劣らないハイレベルのドルンフェルダーやポルトギーザー、リースリングに引けを取らないミュラー・トゥルガウやケルナーが生産され、どれもが造り手の誇りだったのです。
最新の統計資料で赤ワインの栽培面積を見ると、ドルンフェルダーとポルトギーザーは、シュペートブルグンダーに次いで第2位、第3位を占めていますが、いずれも年々、少しずつ減少しています。白の栽培面積においても、リースリングに次いで第2位を占めるミュラー・トゥルガウ、第6位のケルナーは、ともに減少傾向にあります。
多くの醸造所では、これらの品種の栽培をやめる傾向にあり、ドイツ品種においては、赤はシュペートブルグンダー、白はリースリングやジルヴァーナーに専念するようになっています。増加傾向にあるのは、ブルゴーニュ、ローヌ、ボルドーで栽培されているフランス品種です。
ドルンフェルダーは、親しみやすい味わいで、香りも魅力的、色は濃厚、タンニンはソフトと、いいことずくめの赤品種です。ワイン講座で紹介すると、赤品種のなかで1番好評でした。しかし、伝統のない交配品種であること、イメージ的な弱さもあって、生産量は今後、さらに減っていくかもしれません。
現在、ドルンフェルダーは主にブレンドワインに使われています。ドイツではワインのブレンドのことを「キュヴェ(Cuvée)」と言います。キュヴェは、ボトルに内訳が明記されていないケースもありますが、醸造所やワインショップのサイトで情報が得られます。
ドルンフェルダーを使ったキュヴェの先駆には、ファルツ地方、クニプサー醸造所の「Gaudenz」(ドルンフェルダーとカベルネ・ソーヴィニヨンが主体)、アール地方、マイヤー=ネーケル醸造所の「Us de la Meng」(シュペートブルグンダー、フリューブルグンダー、ドルンフェルダーのブレンド)などがあります。ドイツのキュヴェは、型にはまっておらず、ドイツ品種とフランス品種が自在にブレンドされています。それは、気候変動で栽培品種が入れ替わろうとしている、現在のドイツでしか見つからないスタイルのワインです。消え行く品種と、増えつつある品種が、巧みにブレンドされているキュヴェは、造り手の手腕が発揮された、バランスの良い味わいのワインです。
そういえば、近年人気のオレンジワインにもキュヴェを多く見かけますし、ゲミッシュター・ザッツもリバイバルしています。今、ドイツは以前よりはるかに、キュヴェが面白い時代になっています。
オリバー・ツェーター醸造所(ファルツ地方)
セラーにて。オリバー・ツェーター氏
ノイシュタットの家族経営の醸造所。オーナーのオリバー・ツェーターは父、弟とともにワイン商を営んでいたが、ワイン栽培・醸造技術者の資格を取得し、イタリアと南アフリカでワイン造りに携わった後、自らの醸造所を立ち上げた。初ヴィンテージは2007年、40歳の時だった。とりわけ、樽仕込みのソーヴィニヨン・ブランの評価が高い。主に契約農家からブドウを買い取り醸造する、ネゴシアン・エレヴェール。フランス品種を得意とし、ファルツのテロワールを最大限に引き出しつつ、世界的視野に立つワインを生み出している。醸造所のシンボルである熊は、地元の画家オットー・ディルが、オリバーの曽祖父、ヴァルター=リヒャルト・ベア氏をモデルに描いたもの。
Oliver Zeter GbR
Eichkehle 25,
67433 Neustadt – Haardt
Tel. 06321–9700933
醸造所 /www.oliver-zeter.de
ワイン商 /www.zeter-wein.de
2017 Petz Rotwein trocken
2017年 ペッツ 赤ワイン 辛口 10€
「ペッツ」はオリバーの曽祖父の愛称。ハンバッハ、マイカマーほかの選りすぐりの畑のブドウを使用した、エレガントな赤のキュヴェ。2017年は、メルロ58%、カベルネ・ソーヴィニヨン20%、ザンクト・ラウレント12%、ドルンフェルダー10%のキュヴェ。樹齢20年のドルンフェルダーは、収量が少なく高品質のブドウが得られる。フレンチオークのバリックで熟成、新樽は不使用。品種別に10カ月仕込んだのちにブレンド。ろ過は行っていない。果実味が活きた、親しみやすい味わいの赤だ。