ドイツに多い家族経営の醸造所では、およそ四半世紀に一度、世代交代があり、そのたびに大きな、あるいは小さな変革が起きています。親世代と考えを異にする次世代が、新しいことに挑戦するからです。
例えば、それまでリースリング一辺倒だった醸造所が、次世代に引き継がれてから、ブルゴーニュスタイルのシュペートブルグンダーやシャルドネを新たに生産するようになったり、シャンパーニュスタイルのゼクトに取り組み始めたりする、といったことが起こっています。毎年、新しい醸造所も誕生しており、ワインの世界は日々、変化を遂げているのです。
一つの醸造所の変革が、やがて共感する仲間を増やし、新しい潮流となることがあります。ドイツでは1980年代に、いくつかの醸造所がフレンチオークの小樽「バリック」を導入し始めました。今日ではバリックで熟成させたフレンチスタイルのワインが、当たり前のように造られていますが、ドイツで初めて樽香のあるワインが生まれた時は、公認検査機関でオフフレーバー扱いされたこともあったのです。1990年代に入ると、バリックを導入した醸造所が、ドイチェス・バリック・フォーラムなどのグループを結成し、互いに協力しあって品質の向上に努め、バリック熟成のワインの評価は徐々に高まっていきました。
1990年代には、上記以外にも醸造家のグループが多く結成されるようになり、やがてそれが、今日まで続くムーブメントになっていきます。中でも、戦後、安価なワインの産地と見なされていた、プファルツ地方やラインヘッセン地方などで、志を同じくする若手の醸造家たちが結集し、情報交換をして品質を高め、見本市などにグループ単位で出展するなどして知名度を上げていきました。その草分けが1991年に発足した、プファルツ地方のフュンフ・フロインデでした。最大のグループは、ドイツワインのマーケティング会社、ドイツワイン・インスティトゥートのイニシアチブにより2006年にスタートしたU35の「GenerationRiesling」で、メンバーは530醸造所です。個々のグループは、ワインの楽しさを飲み手に伝えるために、それぞれユニークな活動を行っています。筆者のサイトに現在活動中のグループのリストを網羅していますので、「旬」のドイツワインを見つけるための参考になさってください。
読者の皆さまの中には、ドイツ暮らしを終えて、日本に帰ってからも、ドイツワインを楽しみたいという方がきっとおられるでしょう。ドイツワイン・インスティトゥートの日本支部、Wines of Germany日本オフィスのサイトには、ドイツワインの基礎知識、イベント情報、インポーターリスト等がアップされています。
リストによると、ドイツワインを輸入している業者は50社以上。各々のインポーターのサイトに飛ぶと、各社がワインを卸している小売店やレストランの情報、一般向けに実施されているワイン会などの情報が得られる場合もあります。毎年のようにドイツに足を運んでいるバイヤーも多いので、日本でもきっと、「旬」のドイツワインを見つけていただけることでしょう。
● 筆者サイトのグループリスト
www.junkoiwamoto.com/detail_deutscheweine_04.php
● Wines of Germanyのインポーターリスト
www.winesofgermany.jp/other/importers
ベーダー醸造所(ラインヘッセン地方)
Weingut Bäder
共にガイゼンハイム大学でワイン造りを学んだ、イエンス&カチア・ベーダー夫妻が2009年に興した醸造所。2.5ヘクタールの畑でスタートし、現在10ヘクタールを所有。栽培品種はリースリング、ヴァイスブルグンダー、グラウブルグンダー、フリューブルグンダー、シュペートブルグンダーの5種類のみ。リースリングは赤色の砂岩が支配的な急傾斜畑ラ・ロッシュ、フリューブルグンダーは黒っぽい火山岩、メラフィール主体のハイリゲンプファド、シュペートブルグンダーは石灰質のローテンフェルスと、各々の品種を最適の土壌に栽培している。醸造所と所有畑はラインヘッセン地方の北部に位置し、隣接するナーエ地方の土壌に似て多様性がある。ビオラント会員。
Weingut Bäder - Jens & Katja Bäder Unterwendelsheimer Str. 15, 55234 Wendelsheim
Tel. 06734-9140900
www.weingutbaeder.de
2015 Spätburgunder Rotenfels
2015年産 シュペートブルグンダー・ローテン
フェルス(辛口)16.50€
ベーダー夫妻のワインはグーツワインとラーゲンワインの2段階というシンプルな構成。シュペートブルグンダーは、アルツァイの畑、ローテンフェルス(赤い岩)のラーゲンワインのみだ。畑にはかつて、赤っぽい砂岩の風化土壌の窪地があり、ローテンタール(赤い谷)と呼ばれていたという。夫妻の畑はシュペートブルグンダーにふさわしい石灰岩土壌。2015年は乾燥した年だったが、ローテンフェルスには十分降雨があった。バリックの新樽と古樽で熟成。上品な果実味。緻密で極めて軽やか。清純さ溢れるワイン。