ミッテ地区とクロイツベルク地区の境に位置するマルティン・グロピウス・バウは、ベルリンにある数ある展示会場のなかでも特に好きな場所の1つだ。常設展を置かず、近現代のアート、写真、建築、彫刻、考古学など幅広いジャンルから成る企画展を定期的に開催している。私がここで観た展示を振り返ると、写真展だけでもロバート・キャパ(05年)、ウジェーヌ・アジェ(07年)、ソ連軍のベルリン解放に同行したエフゲニー・ハルデイ(08年)など、忘れがたいものがいくつもある。さらに葛飾北斎(11年)やアイ・ウェイウェイの大規模な個展(14年)、カフカの小説『審判』をテーマにした展示(17年)など、時代やジャンル、地域にとらわれない知的好奇心に満ちた展覧会が数多く実現してきたのは、長年ここの館長を務めたゲレオン・ジーヴァニッヒによるところが大きいだろう。
正面反対側から見たマルティン・グロピウス・バウ
昨年このジーヴァニッヒからシュテファニー・ローゼンタールにトップが交代した。それに伴いこの冬は建物の模様替えが行われていたのだが、先日久々の再オープンに合わせて足を運んでみた。
Sバーンのアンハルター駅から北に歩くと、レンガ造りのグロピウス・バウの威容が背後から迫ってくる。まさにベルリンの戦争と分断の歴史を体現した建物といえるかもしれない。1881年、マルティン・グロピウス(バウハウスの創設者ヴァルター・グロピウスの大叔父にあたる)とハイノ・シュミーデンの設計により工芸美術館としてオープン。しかし、1945年の最後の空爆により大きく破壊され、建物の外壁にはいまも大戦末期の地上戦の弾丸の跡が生々しく残っている。
戦後、建物は解体されようとしていたが、それに反対するヴァルター・グロピウスらの尽力により文化財に登録される。その後の修復を経て、1980年代に展示会場として再スタートを切るが、当時は建物の目の前にベルリンの壁がそびえていたので、出入口は正面反対側にあったそうだ。
いまも戦争で破壊されたままの2つの彫刻を見ながら中に入る。今回のリニューアルで大きく変わったのは中央の吹き抜け「リヒトホーフ」に、入場券を持っていなくても誰でも入れるようになったことだ。イタリアのネオルネサンス様式で造られたスペースには一層光が入るようになり、リヒトホーフ(光の庭)の名にふさわしくなった。見上げると無数の糸が絡まり合った塩田千春のインスタレーション「Beyond Memory」が、雲のような風景を作り出し、訪れた人の注目を集めていた。
マルティン・グロピウス・バウの吹き抜けを彩る塩田千春の作品
この日観たグループ展「And Berlin Will Always Need You」は、ベルリン在住の作家による、装飾や手工芸に重点を置いたカラフルな展示。グロピウス・バウがもともと工芸美術館だったことや、バウハウス創設100周年を意識してのことであろう。
館内のブックショップやカフェの装いも変わり、グロピウス・バウが新しい時代に入ったことを実感した。歴史と対峙してきたこの特別な展示会場の今後を見守りたいと思う。
マルティン・グロピウス・バウ
Martin-Gropius-Bau
2001年にベルリーナー・フェストシュピーレが運営を引き継ぎ、今日の展示スタイルが定着した。併設したカフェのリニューアルにより、ベルリンの人気カフェ「バルコーミ」のケーキが食べられるように。今年のアーティスト・イン・レジデンスはナイジェリア出身の作家、オトボン・ンカンガ。入場料は15ユーロ(割引10ユーロ)。
オープン:水曜〜月曜10:00〜19:00
住所:Niederkirchnerstr. 7, 10963 Berlin
電話番号:030-254860
URL: www.gropiusbau.de
テロのトポグラフィー
Topographie des Terrors
グロピウス・バウの隣にある重要な歴史記念館。ナチス時代、ここにはゲシュタポの本部や親衛隊保安部があった。戦後更地となり、長い間忘れ去られていたが、1987年にグロピウス・バウでベルリン市政750周年の特別展が開催されたことが、この場所で起きた加害の歴史を掘り起こす1つの契機になったという。入場無料。
オープン:月曜〜日曜10:00〜20:00
住所:Niederkirchnerstr. 8, 10963 Berlin
電話番号:030-2545090
URL: www.topographie.de