昨年6月フランクフルトに自家製納豆を販売する「Natto24」がオープンしました。ドイツでは珍しい納豆専門店ということで、副社長の柴ありささんにお話を伺いました。
Natto24の副社長・柴ありささん
日本で大手商社に勤めていた柴さんは、ドイツ人の男性と知り合って結婚。ぜひドイツに来てほしいという願いを受け、ドイツ移住を決意したのだとか。日系ブラジル人の母を持ち、幼少期にブラジルで生活し、大学時代も1年間ブラジルに留学した経験から、いずれはブラジルの人たちに仕事を提供する仕事をしたいと考えていたという柴さん。ドイツ移住を機に納豆屋を始めてはどうかという夫のすすめと、ブラジルが大豆生産量世界2位だという事実も後押しし、ブラジルの大豆を使い日本の伝統食である納豆をドイツに広めることで、ブラジルにも日本にもドイツにも貢献できると、納豆屋「Natto24」の起業を決意したそうです。
「大手商社を退職し、人生のレールから外れることに不安を感じていた」と語る柴さん。それでも、ブラジルに住む貧しい人たちの環境改良という夢の実現に向け、納豆の試作をスタートさせました。初めての経験でなかなか納得のいく味ができず、最初の1カ月はとにかく試作を続けたそうです。試行錯誤の末、ドイツ人にも食べやすいよう粘りも匂いも抑えた納豆を完成させました。またドライ納豆などの納豆加工品も製造し、ネット注文を受けて宅配販売がスタート。
口コミで広がった納豆は、本誌1081号で紹介した「マイン祭」でも販売されました。私も食べてみましたが、臭みと粘りが少ない淡白な味で、暑い夏でもさらりと食べられました。
昨年夏以降は、粘りと匂いがあるおなじみの納豆を食べたいという要望と、初めて納豆を食べるドイツの人たちにも本物の納豆を食べてもらいたいと考えるようになり、製造工程も機械も一新し、伝統的な匂いも粘りもある納豆へと方針転換したそうです。新しい納豆は、かき混ぜるほどに旨みの引き立つ粘りとクセになる匂いで、さらにおいしく感じました。
大・中・小粒やひきわりなどの各種自家製納豆とドライ納豆、納豆ダレ
2019年からはフランクフルトの和食材店「旨来屋」の事業を引き継ぎ、日本食販売事業を開始。実店舗なしで、自家製納豆を始めとした日本食材をネット販売しています。ドイツで日本人が製造する食材や、将来的にはブラジル食材も取り扱いたいとのこと。ブラジルで働きながら学べる大豆農家に隣接した職業訓練校の建設を目標に、まずは一般的な納豆、いずれは匂いが控え目の納豆も同時販売したいと話す柴さん。自身もドイツの食生活で苦労した経験から「生活の上で『食』は大切。おいしいもので心豊かな生活を送る手助けになれば」と話してくださいました。
公式ホームページ:natto24.com
2003年秋より、わずか2週間の準備期間を経てドイツ生活開始。縁もゆかりもなかったこの土地で、持ち前の好奇心と身長150cmの短身を生かし、フットワークも軽くいろんなことに挑戦中。夢は日独仏英ポリグロット。