ジャパンダイジェスト

子どもの能力を引き出す、レゴワークショップ

氷が溶けた湖のほとりを歩く鴨のつがいを眺めながら、ブラウンシュバイクにある母親センター / 多世代ハウス(Mütterzentrum / MehrGenerationenhaus)へ向かうと、日本に関わりがある保護者たちが集まっていました。その目的は「新しい時代の学び」という講演会です。スピーカーの高橋一也さんは、Global Teacher Prizeにおいて世界8000人の中からトップ10に選出された経験を持つ、工学院大学附属中・高校の教頭。今は研究休暇でオランダの大学院にて発達認知心理学を研究しています。「教育(Education)」という言葉を聞くと、日本で教育を受けてきた僕には講義と試験を核とした学習が思い浮かべられます。その中で重んじられていることは、先生の言うことを理解し答案を書くという能力です。その考え方は実は欧州にも根強くあるもので、ドイツのある教師が51年間で生徒の頭を110万回以上叩きながら教えたというエピソードも紹介されていました。ところが今、世界の教育のトレンドは「e+duco(ラテン語で『資質を中から外へ導き出す』の意)」という言葉に象徴されるやり方に変わっています。それは「知識」を教えるだけでなく、いかにして子どもたちの創造性などの「能力」や、好奇心などの「性格」を伸ばしていくかという考え方です。

では、子どもの「能力」や「性格」を引き出すために親は何ができるのでしょうか。そのヒントは「レゴ」にありました。同じパーツを使って作った「アヒル」を見せ合った保護者から驚嘆の声が上がりました。それぞれのアヒルの姿が違うのです。高橋さんが日本の学校で同じワークショップを実施した結果、6つの同じ部品から40種類の「アヒル」が誕生したそうです。このことは人間が見ているものが異なることを示し、それぞれの能力が多様であることを暗示しています。レゴに限らず、さまざまな「遊び」を通じて子どもたちは秘めた能力を伸ばしていく機会を得ますが、その力を引き出していく手助けとなるのが周りからの問いかけです。「この部分は何?」、「どうしてこうしたの?」、「なんで作ったの?」などの問いに答え対話していくことで、子どもたちは空間的知能や言語的知能などをさらに育んでいきます。

人間は見ているものがそれぞれ違う
人間は見ているものがそれぞれ違う

講演終了後に参加者から多くの質問が出ましたが、その1つがこういったものでした。問いかけることの重要性は分かったが、どうしても自分の子どもには厳しく接してしまう。効果的な声かけの具体例を教えてほしいと。その質問を受けた高橋さんは、明確な1つの答えを提示するのではなく、共に考えていく姿勢を示しながらヒントとなるさまざまな事例を提供してくれました。そういった対応を通じて参加者一人ひとりが考える機会を得て、それぞれの気づきに恵まれた時間となったように感じました。

参加した皆さんと一緒に
参加した皆さんと一緒に

『世界で大活躍できる13歳からの学び』(主婦と生活社)著者の高橋一也氏
『世界で大活躍できる13歳からの学び』(主婦と生活社)著者の高橋一也氏

国本隆史(くにもと・たかし)
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
takashikunimoto.net
 
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