かつて出版・印刷の街として栄えたライプツィヒ。この街の美術大学は「Hochschule für Grafik und Buchkunst Leipzig」という名前で、その名の通りグラフィックデザインやブックアート、イラストレーションで有名です。それもあって、ライプツィヒにはイラストレーターやコミックアーティストが多く住んでおり、彼らが独特の面白いシーンを生み出しています。その象徴の一つでもあるのが、毎年5月末~6月頭ごろに開催される「Snail Eye Cosmic Comic Convention」(以下、Snail Eye)。第5回目を迎える今年は、6月13~15日までの3日間に実施されました。
ライプツィヒの子どものための絵本工房「Buchkinder」による版画ワークショップ
フェスティバルが行われるのは、ライプツィヒ中心部のコロナーデン通り一体。書店やカフェ、雑貨店、コミュニティースペース、日本食レストラン、バーなどが立ち並ぶおしゃれな通りで、期間中はこの通りにある店舗のショーウィンドウで、参加作家によるイラストやコミック作品の展示が行われます。ドイツや欧州各地のアーティストや出版レーベルによるコミックやZINEが販売されるほか、通りにある建物の中庭にはワークショップテーブルや、トークやライブなどを行う特設会場が設置されています。
私がSnail Eyeを通して初めて触れたカルチャーの一つが、アーティスト自身によるコミックの朗読でした。そもそもドイツには、本を出版したら作家自身がイベントなどで朗読するという文化があります。初めてコミックの朗読イベントを訪れたときは、「小説の朗読なら分かるけれど、『コミックの朗読』ってどういうことだろう」と思っていましたが、すぐにその魅力に引き込まれました。
緑が多く気持ちの良い中庭で、コミックや絵本の朗読が行われます
アーティストたちは、スクリーンにコミックを映し出しながら、登場人物たちのセリフを声を変えながら読むだけでなく、風の音、車の音、動物のうめき声、そのシーンで流れていた音楽などを個性豊かに表現します。しかも、全員俳優なのでは!? と思うほどに朗読が上手い……。それぞれのシーンで、彼らの頭の中でどんな音が鳴っていたのか、どんな感情の高まりがあったのか、本を読む以上の読書体験があるのです。観客も黙って聞いているのではなく、爆笑したり、感嘆したりと、インタラクティブな場が生み出されています。
またこのフェスティバルは、あらゆる面でバリアフリーに力を入れています。車椅子でも入れる大きな仮設トイレをはじめ、トークの際に逐次字幕を付けたり、手話通訳を入れたり、子ども向けのワークショップを実施したりと、あらゆる人に開かれていると感じました。こうした雰囲気を作り出すには、フェスティバル運営チームの高いエンゲージと並々ならぬ努力があるのだと思います。
コミックやZINEのテーブルが所狭しと並ぶ通り
ライプツィヒにとってかけがえのないコミックフェスティバルとして、ますます成長中のSnail Eye。来年も楽しみにしています!
三重県生まれ。ベルリン、デュッセルドルフを経て、現在はライプツィヒ在住。日本とドイツで芸術学・キュレーションを学び、アートスペースの運営や展覧会・ワークショップの制作などに従事。2019年からドイツニュースダイジェストの編集者。