第2次世界大戦中のミュンヘンに、非暴力主義の反ナチス運動を行った「白バラ」という学生グループが存在しました。ミュンヘン大学の学生だったハンス・ショルとその妹ゾフィーを中心とするグループで、ビラを街中にばら撒いたり、有力者に郵送するなどの方法で、反ナチスのメッセージを市民に伝えていました。ミュンヘン大学の構内にある「白バラ記念館」には、ドイツの苦い歴史とともに彼らの活動の記録が展示されています。
私が白バラの活動に興味を持ったのは2年前、友人の薦めで「白バラの祈り――ゾフィー・ショル、最期の日々」(2005年、マルク・ローテムント監督)という映画を手にしたことがきっかけでした。そこでは、21歳のゾフィーの逮捕前日から処刑までが、静かなトーンで描かれています。1943年2月18日、ショル兄妹はミュンヘン大学構内のホールでビラをばら撒いていたところを目撃され、逮捕されます。その4日後に形ばかりの民事裁判で死刑を宣告され、同日の午後、仲間たちとともに処刑されました。「自分の信念は裏切れない」と語った彼女は、大衆が疑問を持ちつつも逆らうことができなかった狂気の時代にあってもなお、自分の良心を貫きました。私は、死刑執行までの毅然とした彼女の態度に胸を打たれ、その舞台となった場所にどうしても行きたいとの思いから、ミュンヘン大学を訪れました。
大学前の広場には、白バラのメンバーがばら撒いた
リーフレットを模した記念碑がある
ミュンヘン大学の構内は出入り自由で、誰でも記念館を訪れることができます。構内のホールは3階までの吹き抜けになっていて、中に入ると白いドーム状の天井から光が差し込み、柔らかく穏やかな空気がホール全体を満たしていました。この上からショル兄妹はビラを落したのだと、感慨深く見入ってしまいました。ふと優しい眼差しに気が付き振り返ると、ゾフィーの彫刻が私を見下ろしていました。その傍らには、ともに戦ったメンバーのレリーフも飾られています。
ホールに隣接する白バラ記念館では、逮捕されるまでにメンバーが送った人生や活動の記録がパネルで紹介されています。皆、魅力的な人物ばかりで、もし生き延びていたなら戦後ドイツのリーダーになっていたことでしょう。
メンバーの処刑後、白バラの活動は停滞しますが、それまでに作成されたビラは連合国が持ち帰り、終戦の原動力になったと言われています。彼らの活動を記した本も数冊出版され、世界各国の言語に訳されています。強い信念を貫いた彼らの精神はミュンヘン市民の誇りとなり、今も大学生に受け継がれています。
白バラ記念館。今も訪れる人が跡を絶たない
日本地ビール協会ビアテイスター。日本での7年間の看護師生活の間にビールの魅力に取り付かれ渡独する。現在はミュンヘンに拠点を置いて美味しい情報を発信中。「ビアテイスターのドイツビール&ワイン紀行」http://gogorinreise.blog34.fc2.com/