ジャパンダイジェスト

終着駅はまだ見えず DB民営化

鉄道の民営化を目指す「鉄道改革」が始まってから14年。今秋には、ドイチェ・バーン(DB)の株式の一部を公開し、実質的な民営化への第一歩が踏み出されるはずだった。ところが、折りしも世界を襲った金融危機の影響で、予定されていた上場は急きょ延期され、政府は来年に控えた総選挙前の上場はないとの見通しを明らかにした。DBの民営化は、あと一歩という地点で急ブレーキがかかってしまったようだ。

鉄道改革

DB欧州連合(EU)が域内における鉄道事業の自由化を推し進める中、ドイツは1994年に「鉄道改革」をスタートさせた。国家財政に左右されない強い企業をつくり、サービスや競争力の向上を目指したもので、まず旧西ドイツの「ドイツ連邦鉄道(Deutsche Bundesbahn)」と旧東ドイツの「ドイツ国有鉄道(Deutsche Reichsbahn)」の国鉄を統合、ドイチェ・バーン株式会社(本社ベルリン)を創立した。株式会社といっても、株はすべて政府が保有する公共企業体となっている。

99年には旅客輸送事業、貨物輸送事業、インフラ事業など、事業別に子会社化された。現在DBは、500以上の子会社を抱えるコンツェルンだが、これらすべての株は依然として国保有のまま。同改革の最終課題として、株式を売却して行う実質的な民営化(→用語説明)が残っている状態だ。

一部民営化

株式売却については、DB経営への株主の影響力を懸念する声などが強く、これまで長い間見通しが立っていなかった。しかし、現在のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の大連立政権が今年4月28日なってようやく、旅客および貨物輸送事業を「DB Mobility Logistics」株式会社として、その株式の一部を公開することで合意に至った。CDUや自由民主党(FDP)は、将来的に株式を49.9%まで売却したいとしていたが、民営化に消極的なSPD(特に左派)などの意見をくみ入れ、売却株は最大24.9%とすることで歩み寄った。残り株75.1%のほか、線路、駅舎などのインフラ事業は、100%国保有のままとなる。

  数字で見るドイチェ・バーン株式会社

  設立 1994年

  社員数 23万7200人(うち国内18万2500人)

  事業所 150カ国1500カ所

  列車本数 近・長距離列車:2万7196本/1日
4674本/1日

  輸送人員 鉄道:18億3500万人/年
バス:7億7900万人/年

  貨物輸送料 鉄道:3億1218万トン/年

  路線(営業キロ) 3万3896.6キロ

  駅数(旅客用) 5718駅

  総投資額 63億2000万ユーロ

  売上高 313億900万ユーロ

Quelle: DB AG 02.06.2008(データは2007年のもの)

上場延期

上場予定日は10月27日。この日、ついに株式公開となるはずだった。しかし米国に端を発した金融危機のあおりを受け、市場が不安定になったため、ティーフェンゼー運輸相(SPD)らは、売却益として目標としていた80億ユーロはおろか、「最低ライン」の40~45億ユーロを獲得するのさえ不可能だと判断し、直前に上場延期を決定した。運輸相は、上場はあくまでも「延期」であって「中止」ではないとしており、メルケル首相(CDU)も部分民営化の実現を強調したが、今月6日に政府は、2009年秋に総選挙を控え、現政権下での上場実現は難しいとの見解を発表した。


DBの課題

ドイツは欧州中央に位置するという立地の利を生かし、旅客、貨物の両分野における鉄道輸送の発展を目指している。そのため、顧客が便利で快適に利用できるよう路線を拡充したり、駅舎を修復したりすると同時に、環境問題にも取り組み、低燃費列車の開発などにも力を入れている。

民営化されると利益を追うあまり、利用者が少ない地方の路線が廃止されたり、安全点検に手抜きが生じる可能性があるなどのデメリットも懸念されており、世論調査機関エムニドによると、国民の78%がDBの民営化に反対している。10年にはEU域内で、国際旅客鉄道事業が自由化されることになっており、国内にとどまらず、国境を越えた改革が期待されている。

「90%以上がダイヤ通り運行されています」とはDBの主張。でもその実態は? 消費者のための商品テスト機関「Stiftung Warentest」の調査によると、定刻通り運行されていた割合は、長距離列車で46%、近距離電車で56%だけ。3分以内の遅延は大目に見ても、その正確さは各62%と76%で、「90%以上」とは大きくかけ離れていた。そこで「DBの遅延と賢く付き合う6つの心得」をラインアップしてみました!

①長距離列車での遅延率大。特に「ユーロシティー (EC)」には要注意。遅延(4分以上。以下同じ)率はなんと46%で、ドイツに入る前から遅れが生じているという厄介者だ。

②最も遅延が発生する主要駅はケルン(36%)。ドレスデンとハンブルク(35%)も多い。ライプツィヒ(16%)では、比較的予定通りの旅が期待できそう?

③遅延はラッシュ時の夕方から、曜日別では金曜と日曜に増える傾向に。逆に朝一番は “穴場”。

④無駄な待ち時間にイライラしないためにも、最新の到着時刻が発信されるDBの携帯サイト(http://mobile.bahn.de)を利用すべし。

⑤遅延が原因で予定していた列車に乗れなくても、超特急ICEに乗り換えができることもある。さらに、座席を予約していたのに乗り換え列車に空席がなかった場合は、1等車に案内してもらえる可能性もある。とりあえずサービスカウンターや車掌に問い合わせるべし。

⑥泣き寝入りは禁物。遅延のせいで最終電車に乗れなかったら、タクシー代やホテル代が支給されることも。1時間以上の遅延には商品券でお詫びも!

Stiftung Warentest“Pünktlichkeit der Deutschen Bahn”(2/2008号)

調査は2007年9月23日~10月31日の間、ベルリン、ドレスデン、フランクフルト、ハンブルク、ハノーファー、ケルン、ライプツィヒ、マンハイム、ミュンヘン、シュトゥットガルトの主要10中央駅を走る計9万4136本を対象に行われた。同期間中にあった5日間のスト決行日と、その影響が残る翌日6時までは対象外。

用語解説

民営化   Privatisierung

国や地方公共団体などが経営していた公的企業を一般民間企業にすること。ドイツでは電信・電話、郵便、郵便貯金の郵政3事業が1995年にそれぞれ、ドイチェ・テレコム、ドイチェ・ポスト、ドイチェ・ポストバンクとして民営化された。すでに3社とも上場しており、DBは上場を残した国内最後の大型公共企業体となっている。

<参考文献>
■ 連邦運輸建設省(www.bmvbs.de
■ ドイチェ・バーン(www.db.de
■ SPIEGEL WISSEN “Bahnreform”
■ Die Welt “Ankunft ungewiss” 10.10 2008

http://wissen.spiegel.de/wissen/dokument/09/97/dokument.html?titel
=Bahnreform&id=56777990&top=Start&suchbegriff= privatisierung+
bahn&quellen=&vl=0&qcrubrik=wirtschaft


http://www.bmvbs.de/Verkehr/Schiene-,1462/Bahnreform-
Boersengang.htm


http://www.deutschebahn.com/site/bahn/de/unternehmen/konzernprofil/
basisinformation/zahlen__fakten/zahlen__fakten.html

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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